第14話 アルトヘイト


三 章 蒼 龍


「お二人は知り合いだったんですね」


お風呂上がりで肌を薄桃色に染めているベベルゥの顔に笑顔が咲いている。

モンドと羽觴を飛ばしているアニエス。膏粱(こうりょう》等はないが、今夜は長夜の飲となりそうだ。


「ああ。昔、ちょっとな。それよりベベルゥ。大変な事になっているな。で、勝てる見込はあるのか。ジュソーン=ラ=セゾンと言えば、将来の灑音流のデザイナーとして嘱望される、いや、18代聖衣大将軍という声さえ聞こえる程の男だ」


「……難しいと思います。心の美しさを見せる服なんて、どうデザインすればいいのか・・・・・・。でも、チュチュを取り戻す為です。精一杯頑張るつもりです!」


「私も全力でサポートするつもりだ。それで、ショーのモデルはどうするつもりだ?」


「心を美しく見せる服を着る女性です。心が美しい女性にモデルを、と思っています」


「あてはあるのか? いや、ある筈がないな。リスモンに来たばかりの君に」


「はい。……僕は部屋でちょっとデザインを考えてきます」そう言って部屋に戻ろうとするベベルゥの背中を見つめていた、アニエスとモンドが顔を見合わせ、頷き合う。


ベベルゥは二階のテラスで風に吹かれていた。向かいのビルの屋上で蠢(うごめ》く怪しい影。ベベルゥが、テラスから中に入ろうと振り向いた、正にその時である。シュッ! 風切る音がベベルゥの耳を襲ったかと思うと、頬を掠めるように飛んできた一枚のカードが、石の壁に突き刺さった。ベベルゥは直ぐさま引き抜くと、そのカードに目を通した。


「招待状だって?! 明日、リスモンの何処かにてショーを開く。『蒼龍のヴァルア』……」


ベベルゥは部屋を出ると、あのオカマコンビ、半裸状態のリル・シルに呼び止められた。


「どうしたのそんなに急いで?」とリル・シルに言われ、カードを差し出すベベルゥ。


「 『 蒼 龍 の ヴ ァ ル ア 』 で す っ て ェ ェ ェ ッ ! 」


二人の絶叫に共鳴するように、スタッフの中でその名前を口にする輪が広がっていった。


-リスモン近郊、リスモンに居住出来ない美的偏差値50未満の醜人が住む無医村……。


「父さん! 死なないで!」と、少女は、ベッドに寝ている父親を一所懸命呼び続けた。


その少女、今日、リスモンの城門で、ベベルゥに助けられた少女、ビンビであった。

彼女がリスモンに入ろうとした理由。それは不治の病の父親を診てくれる医者を呼びに行く為であった。勿論、弾圧の対象になっている醜人が、電話にせよ美的偏差値が高い人間と接触、話しかける事すら許可されてない。その禁を破って医者に電話した時、そんなに村に来て欲しければ、直接頼みに来いと言われた。醜人がパリスに入れない事を承知の上である。当然彼女はリスモンに入る事すら出来なかった。



美的偏差値50未満の醜人は徹底的に差別され、『人種隔離政策(アパルトヘイト』が採られていたのだ。


「父さーんっ!」という、少女の叫びが小屋中に響き渡る。


その少女の父親は、医者に診て貰えず、娘の必死の看病にも関わらずに、宿痾(しゅくあ》にて鬼籍(きせき》に入った。

召使のタケゾーはビンビに何も慰めの声を掛ける事も出来ずに、ただ彼女を見守っていた。小屋に溢れかえった人達の追惜ついせき慟哭どうこく。愁殺の舞台の部屋の中は愁嘆場(しゅうたんば》と化していた。



第14話 了

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