第10話 黒い桜は醜い……
その右に控えしは、『LT-1』の羅傀守の
そして残りの二人。羅傀守の一人、
一番右に控えしは『OK-1』の官位を持つ羅傀守の
「チュチュ!」
「ベベルゥ!」
僅か数時間の別離だったが、再会を喜ぼうとする二人。そんな二人を他所に、ルガーファルドが、ベベルゥの所持していた書状を、伊勢守を通してアニエスに渡した。それを読み終えたアリエスは、隣に控えていたベベルゥの方に振り向いた。
「ベベルゥ=モード! 君は我が師匠、ゲンゾー=モード様のお孫さんか!」
「そうです! そういうあなたは、アリエス=ヴェーダさんですか?!」
アニエスの存在に
「ベベルゥ=モード」
ベベルゥは田舎育ち故、礼儀を知らない。真っすぐ視線を将軍の額に据えた。
「ほう、流石ランク『JD-1』よのう……。どこか哀愁漂う美しい顔立ちをしている。あの時の赤子が、このように成長するとはな」
「僕、いえ私の事、ご存じなのですか?!」
「
そう言って、将軍ルガーファルドは微笑む。
「!」
「フフフッ、冗談だ。だが、本当の所を聞いておきたいな。このリスモンに何をしに来た」
「はい。デザイナーになる為に」
「アリエスの許でか……。フム。で、どうだ。この町は?」
「流石将軍のお膝下。御洒落御免都市だけあって、皆美しい人ばかりでした」
「皆、美しいか……。だが、心の中はどうかな? ベベルゥ=モードよ。お前は、外見が美しい人間と、心が美しい人間と、どちらが優れていると思う。また、どちらかを選ぶとしたら、どちらの人間になりたい? その理由も言え」
「はい。僕は心の美しい人間の方が優れていると思います。そして、心が美しい人間になりたいと思います。僕達人間は、人の外見だけを見て異性を好きになるわけではありません。スタンダールの『恋愛論』第一巻、第十七章-恋に王座を奪われた美-には、美よりも醜を選び、それを愛するようになった男の例について記されています。恋だけで人は生きてゆけません。外見の美しさは永遠ではないけれど、心の美しさは永遠です」
「ジュソーン=ラ=セゾンよ。お前はどうだ」
将軍ルガーファルドは、一人の少年の名を呼んだ。マヨーク=シャオンルの隣に控えていたあの美少年である。彼の美的ランクは、『JT-1』。将来の灑音流を背負って立つ男である。その美少年が具陳しようと、その薄い口唇を開いた。
「はい。私は外見が美しい人間の方が優れていると思います。動物界では、二次性徴の発達した個体が配偶者として選択される機会を多く持ちます。これをダーウィンは、雌雄選択、雌雄淘汰、性淘汰と名付けました。異性に美しさを求めるのは、より優れた遺伝子、より優れた外見を持った異性を求める事に他なりません。人間は、生殖相手に美しさを求める事で、自分の子供や子孫に美の遺伝子を与え、その子孫達がより多くの異性を魅了出来る存在にしたいのです。特に、醜い者程その傾向は強い」
「だけど! スーパーエルフのような美しさを持たずとも、魅力的な人間は一杯います! 僕達はただの動物じゃあない! 心を持った人間なんだ!」と、ベベルゥは声を荒げた。
「それでは、二人に問う。永遠なる愛はあると思うか?」
「あります!」
「いえ、ありません! 所詮、性欲を抑えられない人間の性が、妥協と言う名の愛を産み出すのです。人の本心を明かにすれば、永遠の愛など砂上の
互いに相いれない二人の考え方。睨み合う二人。二人の意見を聞き、その様子を観察する老中達。それはまるで、何かの審査のようでもあった。
「では、こうしよう。お互いの主張を証明する為に、ファッションショーを開くというのはどうかな? ジュソーンは外見の美しさを見せる服を。ベベルゥは心の美しさを見せる服を作るというのは」
「はっ。仰せのままに」と答えたジュソーンに対して、ベベルゥは、
「……僕は、勝負をする為に、服を作っているわけではありません」
黒い桜が勝負に紛れる?
第10話 了
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