第7話 美少女チュチュと真反対の不協和音カノン



 彼女がデザイナーを嫌う理由。それは、もう聞かなくてもはっきりしていた。

 全世界の女性の憧れ。ファッションの都リスモン。

 華やかなモード界の裏側で行われるエルフ狩り、そして生きたエルフマネキンの製造。

 スーパーエルフの少女。それも人間のデザイナーと、彼を愛したエルフのモデルとの間に生まれた彼女。そして、その母親は、モデルとして必要とされなくなった時、メゾンに飾られる生きた人形に変えられた。彼女がデザイナーを、いやこのモード界全体を憎悪するのは至極しごく当然。ベベルゥが思い描いていたリスモンとは違うリスモンが此処にあった。


「何?! どうすればいいの!」


「……お母さんをマネキン化した術者を殺す事・・・」


「その術者って誰なんだい!」


「……私の父マヨーク=シャオンルよ!」「!」


「私、父を殺す為に、わざと灑音流のエルフハンターに捕まったの。……あなたに話して良かった。……ベベルゥ。あなたは【XーJ】になれるかもしれない」


「【XーJ】 あっ!」

 

 エルフの少女は、ベベルゥに背を向けて歩きだした。


「き、君の名前は!?」


 思い出したようなベベルゥのその問いに、少女はクルリと振り返った。


「……チュチュ、チュチュと呼んで」


「チュチュ……。いい名前だね。僕の故郷ふるさと、日本の琉球の方言では、『ちゅらさん』って美しいねって意味なんだ。『ちゅーちゅ』って、とっても美しいって意味になるのかな」


「ベベルゥの名前の意味は?」


「わからない。父親が付けてくれたらしいんだけどね……。それよりチュチュ! 君のお父さんを殺さなくても、君のお母さんを助ける方法がきっとある筈だよ! そうだ! 僕と一緒にアリエスさんの所へ行こう!」


「……アリエス=ヴェーダの絵瑠馬主は、このリスモンで唯一エルフマネキンを造っていないクチュリエよ。噂では、倒幕派の急先鋒きゅうせんぽうと言われているわ」


 というその言葉を聞いて、ベベルゥはホッと安心する。


「大丈夫! アリエスさんならきっと力になってくれるさ!」


 ベベルゥの直感である。


「……でも、無理。私やっぱり父を許せない! お母さんをエルフマネキンにして、こうして店に飾るなんて! 私、父を殺しに行くわ! ……ベベルゥ。助けてくれて有り難う。本当は嬉しかったわ……。さようなら!」


 そう言い残して、チュチュは此処からかき消えた。再び転移の呪文を使ったのだ。


「チュチュゥッ!」ベベルゥの絶叫が空しくこの店の中に響いていた。「ピグ・・・」


 膝を折り、暫く立ち上がれなかったベベルゥの耳朶に、パパウの優しい鳴き声が触れる。


「ハッ?! 確か御前ショーは、エリーゼル宮で開かれるって案内係の人が言ってたな!」


 ベベルゥは、扉を開け、銀色の月が照らす街へと飛び出して行った。すると、


「へい! 旦那! お急ぎなら乗っていかねえかい?!」


「又、あなた達ですか?! 丁度良かった! エリーゼル宮という所までお願いします!」


合点がってんだ!」



第7話 了





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