第4話 カノンと言う悪魔
と、同時に、風切る音が、ベベルゥの後ろ髪の何本かをスパッと切り裂いた。それは、絲の仕業であった。気を送り込まれ鋼化した絲が、ベベルゥとウンゲロに襲いかかる。
ベベルゥの両手がスッと胸のあたりで交差する。抜糸術の構えである。所謂抜刀術の絲版、絲の居合抜きの事だ。
灑音羅は、今の様に絲を矢の様に射ってくるだろう。果たしてそうなった。
「来たッ!」と、叫んだのはベベルゥであった。矢継ぎ早に投射されてくる何十本もの絲の矢を、気合一閃自分の着ている服から絲を抜いて、次々と搦め捕っている。
「ザイヴード ザイヴード マグロン……」
灑音羅の女頭領によって詠誦された銀色の文字が精霊魔術の
ドクンドクンと脈動する炎をその核に抱いた風球が高速回転を始める。
「……盟約の言霊に従い 闇を切り裂く風となれ!
刹那、その文字が弾け飛ぶと同時に振るわれた灑音羅の女頭領の手から、爆裂した空気の束が幾千条もの
しかし、その斬撃波を飛び退り、あっさりと躱す。
(クッ! このままでは埒があかない!)
ベベルゥが抜いた十本の絲が川の様に宙を流れていた。
ベベルゥは、その十本の絲に全身全霊を込めた『気』を送り始めた。
絲が輝き出す。そして、ベベルゥが体を回転させると、その絲の方も回転を始めた。
「幻蔵院夢陰流絲奏術、
説明しよう! 絲夜光灘守とは、
そして、回転する絲が次々と巨木を伐採していった。これこそベベルゥの狙いだった。即ち、樹上に敵がいるなら、自分の周囲の樹木を切り倒してしまえばいい。そうすれば、自分に有利に戦局を展開出来る。
ベベルゥ達の方には倒れず、全て外側に倒れていく巨木。そして、数本のブナ科の大木が、今まさに轟音と共に倒れんとする寸前、幾つもの影が空に飛び上がったのである。
計十人のその影達は、回転する絲の間を縫って、素早い動きでジャンプしながら中心のベベルゥに向かってきた。そして、最後の跳躍で十人の影は上空に飛び上がると、四方八方から火炎絲(絲に油を染み込ませ、炎を纏わせたもの)を投射したのである。
絲夜光灘守の死角は上空。横に回転している絲を避けるには上から攻撃すればいい、と、灑音羅が判断したからだ。
だがベベルゥは、横の回転を縦に、そう、水平だった腕を瞬時に垂直にした。
灑音羅達は、縦に回転するその絲に捕らえられる。そして、
「幻蔵院夢陰流絲奏術奥義!
『殺すな!』という声が、ベベルゥの意識の中に飛び込んで来た。
「えっ?!」と、ベベルゥは、生体電流を増幅して、絲に電気を送り込んだ。
「ウギャッ!」と、短い悲鳴を残して次々と倒れ込む灑音羅。
「殺したのか?!」
「いえ、気絶する程度に抑えてあるから大丈夫です!」
「そうか。流石じゃな」
「えっ?!」
「いや、こっちの話じゃ。灑音羅が気づく前に、彼女を助けるぞい」」
ベベルゥとウンゲロは通りに戻り、中央に置き去りにされた肩輿の檻の中から少女を助け出した。既に群衆は蜘蛛の子を散らしたように、この場から姿を消していた。
「この檻は、結界になっていて転移の呪文で逃げられないようになってたんじゃな」
「大丈夫?」と、優しく声を掛けるベベルゥの身に、予想外の事が起きる。
バシッ!
「!」
ポカンと口を半開きにして、唖然とするベベルゥ。少女がベベルゥの頬を叩いたのだ。
「何で助けたのよ! 余計な事をしないで!」「お嬢ちゃんよ。それはないじゃろう? この少年はー」
「ベベルゥです。ベベルゥ=モード」
「ベベルゥ君は、無謀にも命を賭けて君を助けようとしたんじゃぞ。その行動は、馬鹿で間抜けで阿呆でトンマで、おまけに童貞でー」
「童貞は余計です!本当の事だけど……」
「プッ! アハハッ!」
ベベルゥとウンゲロの遣り取りを聞いていたその少女が突然笑い出す。
「ピグーッ!」
パパウが、自分のお腹の袋からドラ○もんよろしく色んな物を取り出し、辺りにぶちまけ、最後に一輪の
「ワァッ! 有り難う!」
と、その時、北町奉行所の与力、同心、小者がでばって来た事を示す笛が鳴らされた。
「此処はまずいぞ! 君達は早く逃げろ! 此処はわしに任せるんじゃ!」
「でも!」
「早く行け!」
第4話 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます