第2話 フランスのオンム=男
時間は
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はモンド。諸国を
フランス語では男の事をオンムと言う。
「僕はベベルゥ=モードです。デザイナーになる為に、このリスモンにやってきました」
「モードってまさかお前さん、幕府の
「えっ? お爺を知ってるんですか」
「やっぱりそうかい! お前さんのその服ゲンゾー=モードのものだな。実を言うと、俺の着ているこの着物もゲンゾー=モードのものよ。それで、ゲンゾー殿は今でもデザインを?」
「はい。故郷の日本、琉球の石垣島で、村の人達の服を細々と作っています」
「なるほど。ゲンゾー殿らしい。それで、ゲンゾー殿の後を継いでデザイナーになるのか……。だが、この
「それなんですけど
アリエス=ヴェーダ。ランセーズ幕府の首都リスモンで
シャン・ジェ通り。この通りには
そのシャン・ジェ通りの一角に絵瑠馬主のリスモン本店が
「そこがそのアリエス=ヴェーダの店絵瑠馬主リスモン本店だ。巡り逢ったのも何かの縁。俺はこのオテルに泊まってる。何かあったら訪ねてきてくれ」
オテルとはフランス語。
フランス語ではHは無音のアッシュで発音しない。
モンドはホテルの名が書いてあるメモ用紙を渡してウィンクした。
「ベベルゥよ。一つだけ忠告しておくぞ。今日は、御前ファッションショーがあってな、そのショーで最高の美的偏差値を持つ長命種族の女のお披露目があるっていう事で警備が厳しくなってる。さっきみたいにトラブルに首を突っ込んでいたら、このリスモンじゃ命が幾つあっても足りないぞ。それは『
ベベルゥは、その場を立ち去るモンドの背中に深々と御辞儀をすると、「よし!」と声を出し、頬をパンパンと叩いて絵瑠馬主の扉を開けようとする。が、閉まっている。クローズの札が掛かっているのだ。「休みか・・・」と呟き、「モンドさんは?」と辺りを見回すが、「もういないや」と独りごちて、
「さて、どうしようか……。仕様が無い! 知り合いと言ったらモンドさんしかいないし、取り敢えず、観光しながらこのホテルに行ってみるか! そうだ!」
ベベルゥは、雲一つ無い青天白日の空へ
「へい、旦那! 乗っていきますかい?!」
「わぁ、びっくりした! あなた達、さっきの
「これが『新レッフェ塔』かぁ……。流石に高いなぁ。日本は、えっと、あっちか」
ベベルゥは
「どれ、パパウもお腹すいてきただろう。よし、モンドさんのホテルを訪ねてみるか」
と、帰ろうとするベベルゥが、眼下に流れる光の川を注視する。
目を瞬かせるベベルゥに、此処の第1展望台の案内係が御親切にも教えてくれた。
「ああ、何でもあれは、史上最高の美的偏差値を誇る長命種族の王女が、旧大統領府のエリーゼル宮で開かれる、お披露目の御前ファッションショーに向かう行列だそうだよ」
その言葉にベベルゥの隣で双眼鏡を覗いていた、派手な神官服を着た男の瞳が光る。
ベベルゥは、モンドの言っていた事を思い出した。
「可哀想だねぇ。灑音流のモデル集団
「そんな!」
「おいおい、私に怒っても仕様が無いだろ? 市民も観光客も皆、どれ程美しい女性かを見る為に街へ繰り出しているよ。
その言葉に素直に従ったベベルゥの意図は、単に世界最高の美的偏差値を持つ女性を見たいという下卑た野次馬根性、男の本能的欲求に起因するものではない。
ベベルゥが『新レッフェ塔』から降り、その長命種族の王女を一目見ようとこうしてその行列を見物してる訳は、モンドから『匹夫の勇』と忠告されようとも、困っている人を放ってはおけないという人間の根源的な感情が、ベベルゥには人一倍あるからだ。
(何とか助けてあげたい。『義を見て為ざるは勇無きなり』だ)という思いで、ベベルゥはその行列が来るのを夥しい群衆と共に待っていた。
そして、遂に長命種族の王女の行列が、ベベルゥの視界に入ってくる。
その行列を見てベベルゥは震駭した。さぞや
第2話 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます