第179話 戦後処理
2023/05/04 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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クラウディアさんとミヤマーさんが無事に仲直りしたことで、考えなければいけないにもかかわらず後回しにしてきた問題に向き合わなければいけなくなった。
私は今、身の振り方について決断を求められているのだ。
といっても唐突だと思うので、順を追って説明したい。
ことの発端は魔王様が軍隊を引き連れてサンプロミトを占領した日にまで
魔王様は私に会うなりいきなり、リリヤマール王国を再建するので女王として即位してほしいと言ってきたのだ。
魔王様は今回の人族による魔族領侵攻の件について、占領地域を魔族領とするということで解決するつもりらしい。
しかも二度も攻め込んできたシェウミリエ帝国については国が無くなるまで攻め続けるのだという。
また、聖導教会についても徹底的に取り締まるつもりだと聞いている。
これだけのことをしでかした聖導教会が信者を維持できるのかは不明だが、それもまた当然のことだと思う。
そこで問題となっているのはサンプロミトの扱いだ。
元々はリリヤマール王国の王都だった場所だが、滅ぼされてからは聖導教会の本拠地である宗教都市となっていた。
だが聖導教会を一切認めないという方針のため、サンプロミトはそのまま残すことはできない。
かといってここには祭壇、勇者召喚の魔法陣、さらに秘密の通路と一歩間違えれば大変なことになる危険なものが多数あるのだ。
とてもではないが、この地を放棄することなどできるわけがない。
そこで私をリリヤマール王国の女王に据え、かつての王国を復活させることでこの地を治めさせようということになったようだ。
この提案にマクシミリアンさんは大喜びしていたが、私としてはまるで嬉しくない。
だって私の故郷はホワイトホルンであり、おじいちゃんの残してくれたお店を守って平凡に暮らしていきたいのだ。
だがここにある施設は聖族である私がいなければ意味がないし、あの祭壇を発動させておかなければホワイトホルンでもゾンビの被害が増えてしまう。
というのも、秘密の図書館で見つけた本の中にはあの祭壇について書かれたものもあった。
それによると、あの祭壇は奇跡の力を増幅させるものなのだそうだ。
お母さんたち私のご先祖様はあの祭壇で聖域の奇跡を発動し、大量発生地帯のかなりの部分を浄化していた。
この奇跡の力とは神の力にも等しいそうで、邪神はそのことを利用してあの祭壇で自身の力を増幅するために悪用していたというわけだ。
それはさておき、この本の記述はおそらく正しい。
なぜなら、ホワイトホルンでゾンビの被害が増え始めた時期とリリヤマール王国が滅ぼされた時期は一致するからだ。
そしてホワイトホルンはゾンビの発生地帯ではあるものの、祭壇による浄化の範囲からは外れていた。そのため秘密の通路が作られ、リリヤマール王家がゾンビの駆除を行っていたのだろう。
要するに山の奥地で発生したゾンビがホワイトホルンに流れてきたのに加え、リリヤマール王家によるゾンビ駆除が行われなくなったことが原因でゾンビが年々増えていた。
こう考えれば
だからここの祭壇を稼働させ続けるということは、私の大切な故郷であるホワイトホルンを守ることにも繋がっているのだ。
私はホワイトホルンで平凡に暮らしたいが、ゾンビの被害は減ってほしいと切実に思う。
そしてそれは何もホワイトホルンに限ったことではなく、私にはそれをするだけの力があるのだ。
だがそれをすることを選ぶとホワイトホルンに帰ることはできない。
特に私は魔王様やエルドレッド様のように強いわけではないため、聖導教会の残党や邪神を信奉する連中に襲われればひとたまりもない。
そうなるとお城で厳重に守られる生活になるに違いない。だがそうなると、薬師として患者さんを治療することができなくなってしまう。
もちろん魔王様はただの薬師である私に女王として国を治めてほしいなどと考えているわけではないだろうから、多少は治療活動に携わることはできるかもしれないが……なんとも悩ましいところだ。
「はぁ……」
私は憂鬱な気分になり、深いため息をついた。するとそこへ今日の訓練を終えたらしいニール兄さんたちがやってきた。
「どうした?」
「あ、ニール兄さん。ううん、なんでもない」
これは私が自分で決めなければならないことなのだ。
「なんでもなくないだろ。どうせ自分のことだからって、一人で決めようとしてたんだろ?」
「うん……」
「俺たちがいるんだから、頼っていいんだぞ」
「うん……でも、決められなくて……」
するとニール兄さんも大きなため息をついた。
「ホリーは何者だ? 一番やりたいことはなんだ?」
「え? あ……私はホワイトホルンの薬師で、おじいちゃんの跡を継いで患者さんを救いたい」
「だろ? ならどうするべきかは決まってるんじゃないのか? 女王様になりたいわけじゃないんだろ?」
「うん。私は女王なんかになりたくない。ずっと患者さんに寄り添って、元気にしてあげたい」
「なら迷うことなんてないだろ?」
「でも……やっぱりゾンビのことが気になって……」
「なら簡単じゃないか。あんな便利な通路があるんだからたまに来ればいいだけじゃないか」
「うん。そうなんだけど……」
マクシミリアンさんの嬉しそうな顔が頭を
それに患者さんの中には私を見てお母さんの名前を呼び、泣きだす人もいた。
それほどまでに私が必要とされるなら、とも思ってしまうのだ。
あと、気がかりなのは聖女たちだ。あんな偏った教育をされ、本来は使えるはずの奇跡すらも教えてもらえない。
彼女たちはあのままでいいのだろうか?
私がそうして悩んでいると、ショーズィさんが話に割り込んできた。
「ホリーさん、それなら象徴女王というのはどうですか?」
「象徴女王?」
「はい。俺の国は日本って言うんですけど、そこのトップは天皇なんです。天皇っていうのは皇帝みたいなものなんですけど、でも政治には一切口を出さないんです。でも、天皇は代々天皇家から選んでるんです」
「……そのテンノーは普段、何をしているんですか?」
「なんかの儀式をしているらしいです。あとはなんか公務でスポーツの開会式とか芸術のイベントとかに出てるみたいです。俺もあんまり詳しくはないんですけど……」
「儀式? どういった宗教なんですか?」
「うーん? 俺も詳しくはないんであんまりわかんないんです。でも、俺たちの宗教は大分適当ですよ。ほかの宗教のお祭りでも楽しそうならやっちゃいますしね」
「はぁ」
「でも、象徴女王ならあの祭壇で聖域の奇跡を発動する儀式だけして、あとはホワイトホルンで薬師をしていてもいいんじゃないですか?」
「うーん? それでいいならそうしたいですね。ねえ、ニール兄さん。大丈夫かな?」
「大丈夫かどうかじゃなくて、自分がどうしたいかで決めればいいだろ」
「そっか。うん、そうだね」
私はすっきりした気分でそう返事をしたのだった。
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