第176話 突然の告白
悩んだ末、私はミヤマーさんを送還しないことにした。
やはり今の痛々しい二人を見ていると、無理やり引き離すことはいけないと思ったのだ。
特にミヤマーさんは罪悪感に耐えきれなくなってしまうかもしれない。
というわけで、私はショーズィさんを先に送還することにした。
今の時間はニール兄さんやマクシミリアンさんと訓練をしているはずだ。そう考えた私はサンプロミトの中に作られた訓練場にやってきた。
訓練場の真ん中あたりにショーズィさんの姿がある。
エルドレッド様と模擬戦をしているようなのだが、二人の動きは早すぎてまったく見えない。
意味が分からないテンポで金属がぶつかり合う音が鳴り響いているため、きっと二人は剣をぶつけ合っているのだろう。
身体強化を使うことができれば多少は分かるのかもしれないが、生憎私は奇跡しか使うことができないので仕方ない。
うるさいのを我慢しつつしばらくぼーっと様子を見ていると、どうやら決着がついたようだ。
ごきっという鈍い音と共にエルドレッド様の模擬剣がショーズィさんの肩に食い込んだ。ショーズィさんは苦し気なうめき声を上げながら地面に倒れ込む。
わーっと歓声が訓練場に響き渡った。
私は小さくため息をつくとショーズィさんの
模擬剣の食い込んでいる場所を確認してみると、どうやら鎖骨が折れているようだ。
「エルドレッド様、もう少し手加減してください。毎回毎回治療するこちらの身にもなってください」
「あ、それは……」
「ここまで大怪我して、もし当たり所が悪くて即死したら奇跡でも助けられないんですよ?」
「すまない。ショーズィ殿はもう私と遜色ない強さになっておりまして、油断すると負けてしまうかもしれないのです。そうなると手加減できず……」
「やりすぎです」
「はい……」
しゅんとなったエルドレッド様を尻目に、私はショーズィさんの治療を開始した。そこまで酷い骨折ではないため、中治癒の奇跡で十分だろう。
しばらく奇跡をかけていると、ショーズィさんの骨はきれいに繋がった。
「ショーズィさんも、気を付けてください」
「はい。すみません……」
殊勝に謝ってはいるが、かなりの確率で怪我をして病院に運び込まれてくるのだ。
試合をするなというのも無理があるのだろうし、どうにかならないものだろうか?
「ところでホリーさん、訓練場までわざわざいらっしゃったということは、何かご用だったのではありませんか?」
「あ、そうでした」
エルドレッド様に言われ、本題を思い出した。
「そろそろ送還の準備をしようと思います」
「ああ、宮間が……」
肩をぐるぐる回しながら、ショーズィさんが感慨深げにそう
「……クラウディアさんの容体はいかがですか?」
私は小さく横に首を振った。
「では、もう少し待ったほうがよろしいのではないですか? ホリーさん自身も以前そうおっしゃっていたではありませんか」
「そうですね」
「ではなぜ?」
「いえ、送還するのはミヤマーさんではなくショーズィさんですよ」
「「「「「えっ?」」」」」
ショーズィさんだけでなく、エルドレッド様とニール兄さん、マクシミリアンさんにヘクターさんまでもが同時に驚きの声を上げた。
「あれ? 何かおかしかったですか?」
「ど、ど、どうして俺なんですか? 俺は!」
慌てた様子でショーズィさんが聞いてくる。
「だって、ショーズィさんはご家族が元の世界にいるんですよね? それなら戻ったほうが――」
「俺は帰りたくありません!」
「ええっ? ご家族はどうするんですか?」
「もっと大切な人がこの世界にいるんです!」
ん? それってショーズィさんに恋人ができたということだろうか?
「そ、そうでしたか。それは知りませんでした。ええと、その、彼女さんとはどこで知り合ったんですか?」
突然のカミングアウトに私は頭が追いつかず、私は妙なことを聞いてしまった。
「あ、それは、その、ボーダーブルクで……」
「ボーダーブルクですか? そ、それじゃあお相手の女性は魔族なんですか?」
「いえ、そうではなく……」
「えっ? じゃあ人族なんですね。いつの間に……あれ?」
なんだか周りの人たちがおかしな目で私を見ており、ショーズィさんも頭を抱えている。
それからショーズィさんは私の前に立つと真剣な表情で私を見てきた。
「ホリーさん、この際だからハッキリいますね」
「は、はい」
「俺、ホリーさんのことが好きです。初めて会ったあのときからずっとずっと好きです。俺と付き合ってください」
「え……?」
私?
「あ、その、ごめんなさい」
私は反射的にショーズィさんの申し出を断った。
妙に私を守ろうとしてくれるなと感じることは多々あったが、まさか恋愛感情からだったなんて!
てっきりを助けられたことに対する恩だと思っていたのに。
だが断られたショーズィさんはこの世の終わりとでも言いたげな表情をしていた。
それを見た私はつい可哀そうになり、余計なことを口走ってしまう。
「あ、その、ショーズィさんのことは嫌いじゃないんですけど、でも恋人としては見られないっていうか……」
するとショーズィさんは希望に満ち溢れた表情になった。
「なら俺! ホリーさんに振り向いて貰えるようにがんばりますから!」
「は、はぁ」
「だから俺、帰りませんよ。もっと強くなって、ホリーさんを振り向かせて見せます」
「……」
こうして私はショーズィさんの説得に失敗したのだった。
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