第174話 悪魔の所業
2023/04/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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ヴァージニアさんが落ち着いたところを見計らい、私はダリアさんに声をかける。
「あの、すみません。ダリアさんは聖導のしるしを持っていますか?」
するとダリアさんは不審そうに私を見ると、やや不機嫌そうな様子で短く答えた。
「いえ」
するとヴァージニアさんが補足の説明をしてくれた。
「聖導のしるしは聖女以上の者に与えられるものですわ。それ以外ですと、教皇猊下が特別にお認めになった者くらいしか身に着けておりませんわ」
「そうなんですね」
なるほど。だからダリアさんは呪いに再びかかるということにならなかったのだろう。
「わかりました。それじゃあ、他の牢屋も――」
「ヘレン! ヘレンですわよね!?」
少し先の牢屋を確認しに行っていたシンシアさんの声が聞こえてきた。急いでそちらに向かうと、そこには一人の少女がやはり虚ろな瞳で粗末な木の長椅子に座っていた。
同じように呪いを解いてあげるとヘレンさんも正気を取り戻す。
「シンシア様! おそばを離れてしまってすみません!」
「いいのよ、ヘレン。無事でいてくれて良かった」
シンシアさんも大喜びでヘレンさんのことを抱きしめている。
どうやら聖女と側仕えというのは特別な関係のようだ。
「ホリーさん、他の牢屋にもたくさんいます。ちゃんとは数えていないですけど、多分三十人ちょっとは……」
ショーズィさんが先まで行って確認してきてくれたらしい。
「そんなに……」
あまりの被害者の多さに私は絶句する。
それから私たちは牢屋を一つ一つ確認していった。すると、なんと三十五人もの女性が閉じ込められていたことがわかった。
しかも彼女たちは聖女、聖女見習い、もしくは聖女の側仕えのいずれかで、全員呪いをかけられて洗脳されていたのだ。
その中にはヴァージニアさんとシンシアさんの残りの側仕えの人たちもいた。助けてもらうように頼まれたが、いくらなんでも魔力がもたないので明日にしてもらった。
だが許せなかったのは地下牢の一番奥に行ったときのことだった。
まず、一番奥にはさらに地下に降りる階段があった。そして、降りた先では信じられない光景が私たちを待っていたのだ。
そこで最初に目に飛び込んできたのは大きな装置だ。金属製の巨大な
さらにその隣には大きな机があり、あの赤い宝玉が一つ、無造作に置かれていたのだ。
そして!
「……これは?」
「……血の匂い、ですな」
マクシミリアンさんが慎重に巨大な漏斗に近づき、壺の中を確認する。
「なっ!? これはまさか!」
そう叫んだマクシミリアンさんが机の上に飛び乗り、漏斗の上からその中を確認する。
「なんということを!」
マクシミリアンさんが怒りの声を上げる。
「どうしましたか?」
エルドレッド様も机に登って中を確認すると、見るからに不快そうな表情を浮かべた。
「……そういうことですか。ここはあの赤い宝玉の製造現場です。この中にはあの宝玉を作るために殺された女性の遺体があります」
エルドレッド様は巨大な漏斗を指さしてそう言った。
「え?」
「ショーズィさん、降ろすのを手伝ってください」
「はい」
エルドレッド様はそういうとまず、漏斗の上に登り、その上にはまっていた鉄格子を外した。そして登ってきたショーズィさんと一緒に女性の遺体を引っ張り出した。
床に寝かされた女性の遺体のあちこちに刺し傷がある。
つまり、女性を殺してあの中へ……いや、鉄格子をはめていたということは生きたまま入れたということだろうか?
どちらにせよ人とは思えない悪魔の所業だ。
そうして集めた血を使ってあんなものを作っていたということなのだろう。
「……ティナ?」
シンシアさんが突然、ぽつりと
「え?」
ダリアさんが慌てて駆け寄る。
「ティナ! ティナ! どうしてこんなことに!」
「ダリア、本当にティナなの?」
「ええ! 私が見間違うはずがありません! 彼女はたしかにティナです!」
「そんな! どうして!」
どうやら知り合いの女性のようだ。
「あの、ティナさんというのは……」
動揺する三人とは違い、そこまで取り乱していないヘレンさんに聞いてみる。
「私は面識がありませんが、かなり年上の聖女見習いの方だと聞いたことがあります」
「そうですか……」
「二十五歳までに聖女になれなかった聖女見習いは還俗するって聞いていましたけど、まさかこんな風に殺されるなんて……」
ヘレンさんはそう言って青い顔をしている。
「この宝玉にはまだ呪いは込められていないようですね」
気が付けばエルドレッド様が赤い宝玉を確認していた。
「才能のない者は殺して道具へ。それが聖導教会のやり方ですか。反吐が出ます」
私はエルドレッド様が吐き捨てるようにして
◆◇◆
私たちが地下牢から出てくると魔王様の軍がすでに到着しており、サンプロミトは完全に私たち魔族が占領していた。
こうして私たちのサンプロミト奇襲作戦は幕を閉じたのだった。
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