第169話 決着

 聖域の奇跡が発動し、眩い光があたりを照らしだす。すると礼拝所の壁や床はあっという間に溶けて消え、真っ暗な闇だけが残った。


 そんな真っ暗闇の中、私は一人で浮かんでいた。しかし聖域の奇跡はたしかに展開されており、ペンダントの温もりが私を勇気づけてくれている。


 すると目の前に半透明のお母さんが現れた。お母さんはとても穏やかに微笑んでいた。その隣にはお父さんが寄り添っていて、優し気に微笑んでいる。


 そんな二人の後ろにはお城の人たちが立っている。ドリスや侍女たち、兵士や大臣、それに町の人々まで私を見て、穏やかに微笑んでいる。


「ホリー、ありがとう。よく邪神の幻に打ち勝ってくれたわ」

「お母さん?」

「ええ。ごめんね。死んでしまったお母さんたちじゃ邪神の力には抗えなかったの。でも、ホリーが気付いてくれてよかったわ」

「うん」

「ホリーは、本当に立派な女性になったわ。グラン先生のおかげね」

「うん。おじいちゃん……」

「さあ、大切なお友達が待っているわ。お母さんは、わたくしたちはいつだってホリーの味方よ。愛してるわ」


 そう言うとお母さんの姿が金色のキラキラした光に包まれて消えていく。同じようにお父さんも、ドリスたちもみんな光の中に消えていく。


「お母さん! お父さん!」


 飛び起きた私は何かに額をぶつけ、目の前に星が飛んだ。


「あいたたた」

「ホリー?」


 目の前にニール兄さんがおり、額を押さえている。どうやら私はニール兄さんに思い切り頭突きをしてしまったらしい。


「ホリー!」


 そのニール兄さんがいきなり私に抱きついてきた。


「良かった! 帰ってきてくれて」


 ニール兄さんはそう叫び、私を強く抱きしめた。


「ホリーさん!」

「ホリーちゃん……ああ、良かった」

「おおお、姫様!」


 ショーズィさんとヘクターさん、それからマクシミリアンさんにも心配をかけてしまったようだ。


「んー、ええもん観察できたで」


 ニコラさんはそう言ってなんでもないふりをしているが、私が幻覚に囚われている間に必死に声をかけてくれていたのは覚えている。


「ありがとうございます。心配させてごめんなさい。もう大丈夫です」

「ああ、良かった」


 私はニール兄さんの手を借りて立ち上がる。


「な、な、なぜ……」


 声がしたほうを見ると、お母さんとよく似た青い肌の女性がいた。


「くっ! 邪神め! いつの間に再生した!」


 ショーズィさんがそう言って邪神を睨みつけた。


 ああ、やっぱりあいつがお母さんの言っていた邪神だったようだ。


 お母さんの姿を真似しているのは、きっとあの胸の宝玉がお母さんの血を使って作られているからだろう。


「お母さんの姿を勝手に使うな!」


 私はそう叫ぶとペンダントの赤い宝玉をぎゅっと握り、祭壇の間全体に聖域の奇跡を展開した。


「がっ!? こ、こんなはずは」


 邪神はふらつきながらも祭壇のほうへと近づき、手をかざした。


「不完全な体でも地脈から力を吸いだせば!」

「ショーズィ、止めるんや」

「はい!」


 ショーズィさんが邪神のかざした腕ごと切り落とした。


「ぐあああああ! おのれ! おのれ!」


 邪神はよろよろと後ずさり、そこにショーズィさんが追い打ちをかける。


「ぐ、あ……」


 邪神はショーズィさんの攻撃に耐えられず、尻もちをついた。


「ホリーちゃん、今のうちにあの祭壇を使うんやで」


 ニコラさんが赤黒く禍々しい色の祭壇を指さした。


「え?」

「大丈夫やって。しっかり調べといたで。アタシの言うとおりにやるんや!」

「は、はい」


 私はニコラさんに連れられて、祭壇の前に立つ。


「ええか? ここや。ここでそのペンダントを掲げるんや。そんで聖域の奇跡を再発動するんや」

「はい」


 私は言われるがままにお母さんのペンダントを外して手に持つと、祭壇の上に掲げた。そして聖域の奇跡を再発動する。


 すると祭壇から金色のまばゆい光が放たれ、私を包み込んだ。それと同時にものすごい勢いで力が祭壇に吸い取られていく。


「今や。ここをこう書き換えて……ははっ。完璧やわぁ」


 ニコラさんの嬉しそうな声が聞こえてきた。それと同時に魔力がほとんど吸い取られなくなった。


「あ、が、が、が……」


 邪神のうめき声が聞こえてきた。そちらを確認すると、邪神の体がサラサラと崩れ始めている。


 やがて邪神の体は完全に消滅し、そこには赤い宝玉だけが残っていた。


「さあて、あとはこれも解呪するんやで。ここや」


 ニコラさんがそう言って宝玉を差し出してきたので、私は指示された場所から解呪の奇跡を注入して呪いを解いた。


「あーあ、これでやっと終わりやなぁ」


 そう言ってニコラさんは大げさなため息をついたのだった。

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