第170話 エルドレッドとミヤマー

2023/05/04 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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 私たちは長い階段を上がって地上に戻り、エルドレッド様のところへと急ぐ。


 しかしその途中で大聖堂の建物は吹き飛んで無くなっていた。


 どうやら相当激しい戦いがあったようだ。


 だがあの禍々しい雲は消え去り、すっきりとした青空となっている。赤い雨も降っておらず、ゾンビの姿も見当たらない。


 私は少しだけ晴れやかな気持ちで青空を見上げたが、百メートルほど向こうで爆発が起きた。


「ホリーさん!」


 ショーズィさんが前に立ち、私を爆風から守ってくれる。


「ありがとうございます」

「いえ」


 だが次々と爆発がおき、徐々にこちらへ近づいてきている。


 すると甲高い金属音が鳴り響いた。


「このっ!」

「僕は! 負けない!」


 見ればエルドレッド様がミヤマーと鍔競つばぜり合いをしている。


 二人とも体のあちこちに傷を負っているが、どちらかが優勢という状況でもなさそうだ。


 きっと別れてから今までずっと戦闘を続けており、その結果として大聖堂が半壊したのだろう。


「はぁはぁはぁ。魔族め。僕は負けるわけにはいかない! クラウディアを守る!」

「私こそ、負けるわけにはいきません。すべての魔族のためにも!」

「ふざけるな! この魔族め!」

「何を!」


 エルドレッド様はミヤマーに横蹴りを入れて距離を取った。ガードの上から横蹴りを受けたミヤマーは十メートルほど飛んでいったが、すぐにものすごい速さでエルドレッド様に迫ってくる。


 そこから先は私の目では負いきれなかった。


 エルドレッド様はミヤマーの一撃をうけ、私たちのほうまで飛ばされてきた。


 一方のミヤマーにもエルドレッド様の反撃がしっかりと入っていたようだ。ミヤマーのお腹に大きな傷口ができており、そこから大量出血している。


 ミヤマーはその場に力なく崩れ落ちた。


「エルドレッド様!」


 私は地面を数メートル転がって倒れたエルドレッド様のもとへと駆け寄った。エルドレッド様もかなりの重傷で、肩口から斜めに大きく斬られている。


 肋骨もきれいに切断されており、右の肺にも損傷がある。顔色も真っ青になっているが、幸いなことに心臓は無事だ。


 これなら助けられる。


 私はすぐさま大治癒の奇跡を発動した。


 少しずつ傷口が塞がっていき、骨もくっつき始める。しばらく治療が進んだところでエルドレッド様が目を覚ました。


「う、ぐ……ホリーさん?」

「はい。もう大丈夫です。赤い雨も邪神も、ちゃんと止めました」

「そうですか。助かりました」


 かなりの重症だったため少し時間がかかったが、傷口も綺麗に塞がった。


 もう大丈夫だろう。


 私が治療を終えると、エルドレッド様はフラフラになりながらもなんとか立ち上がった。


 一方のミヤマーも立ち上がろうとしているが、傷が治っているエルドレッド様を見て目を見開いた。


「ふ、ふざけん、なよっ! ここまできてベ○マはねーだろうが! なんだよそれぇ!」


 ミヤマーはそう叫んで立ち上がると、エルドレッド様に向かって来た。


「僕が! クラウディアを守らなきゃ! 誰が守るんだぁぁぁぁぁ!」

「ホリーさん、下がって」


 エルドレッド様が前に出たが、さらにその前にショーズィさんが歩み出た。


「おい、宮間。もうやめろ。勝負はついた」

「っ! 僕が! 僕がぁぁぁぁぁ!」


 そう叫んだ瞬間、ミヤマーの腹から大量の血が流れ出た。それでも前に進もうとしたミヤマーは足を前に出すことができずに転び、顔面をしたたかに打ち付けた。


「あ、あ、あ……」


 それでも前に進もうとするミヤマーだったが、その力はもう残されていないようだ。


「おい、宮間。もうやめろ。お前だって被害者なんだ」

「うっうっ、ぐっ、クラウ……ディア……」


 ショーズィさんがミヤマーの説得をしているが、あの傷ではおそらく大治癒の奇跡で治療しない限りは助からないだろう。


「ショーズィさん、同胞をかばう気持ちは分かりますが、この男を生かしておくわけにはいきません。この男の魔族に対する憎しみは計り知れません。いずれまた我々の同胞を殺すでしょう」


 エルドレッド様はそう言ってショーズィさんの肩に手を置き、下がらせた。


「クラウ……ディア……」


 しかしミヤマーは一人の女性の名前を呼び続けている。


 果たしてこのままこの人を殺してしまっていいのだろうか?


 そんな疑問が頭をよぎる。


「ミヤマー、あなたの力は敬服に値するものでした。攻めて苦しまないよう、一撃で――」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 突如、悲痛な女性の叫び声が聞こえてきたのだった。

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