第162話 世界の狭間
完全な闇の世界に将司は一人で立っていた。
「なんだ? ここは?」
「ここは世界の狭間。無数にある世界の間にあり、無限に広がる空間よ」
将司の前に邪神が姿を現す。
「こんなところに俺を連れ込んでどうする気だ! ホリーさんを早く元に戻せ」
「ふふ。せっかちね。せっかちな男はダメよ。男なら女の子を優しくリードしなきゃ」
妖艶な表情でそう言うと、邪神の姿はホリーへと変化した。
「この姿ならどうかしら?」
「ぐっ!?」
しかし服は邪神が着ていた煽情的なボンテージのままであり、将司は真っ赤になって顔を背けた。
「ねえ、私が欲しいんでしょう? なら、ちゃんと告白して。私が好きって」
顔を赤らめ、はにかみながらもホリーの姿をした邪神は将司に向かって歩いてくる。
「ぐ……に、偽者がホリーさんを!」
「ここは世界の狭間。ここでは私がホリーなのよ? だから、ね?」
ホリーらしからぬ妖艶な表情を浮かべ、ささやかな胸を将司の腕にそっと押し付けた。
だが将司は邪神を乱暴に振り払った。
「お前はホリーさんじゃない! ホリーさんはそんなことをしない!」
「あ、痛ったい……」
邪神は尻もちをついて倒れ、涙を浮かべてみせた。だが将司はそれを冷ややかな目で見下ろすと剣を突きつけた。
「一体何がしたいんだ。俺は偽者のホリーさんなんかに騙されない」
「ふふふ。ホント、せっかちねぇ」
邪神はそう言ってふわりと宙に浮かび上がった。
「じゃあ、もっと胸が大きいほうがいいのかしら?」
ホリーの顔のままいたずらっ子のような表情を浮かべると、邪神の胸がスイカほどはあろうかというアンバランスなサイズになった。
「それとも背が高いほうがいい? この子、背が低いものねぇ」
すると邪神の身長が百七十センチメートルほどにまで伸びる。
「ああ、もっと若いほうがいいのかしら?」
邪神の体はみるみるうちに縮んでいき、すぐに五歳くらいの幼いホリーの姿へと変化した。
「どれが好みかしら? それとも全員?」
そう言うと邪神は元のホリーの姿に戻り、さらに先ほど変身した三人のホリーの
姿が現れた。四人のホリーが将司に向かってゆっくりと歩いてくる。
「私、あなたが好きなの」
元のホリーの姿をした邪神がそう言ってはにかみながらニッコリと微笑んだ。
「私のこと、好きにしていいのよ?」
すると巨乳になったホリーがその谷間を見せつけ、顔を赤らめながら将司を誘惑する。
「私を選んでくれるのよね?」
高身長になったホリーは真っすぐに将司の目を見てそう言い、幼女となったホリーは将司の足にしがみついた。
「お兄ちゃん。私のこと、捨てないで?」
それをされ、将司はわなわなと体を震わせる。
「ねえ、わた――」
巨乳になったホリーの首が宙を飛んだ。
「ふざけるな! ホリーさんの姿を使って!」
将司は残る三人のホリーの首も落とす。
「はぁはぁはぁ」
「ふふふ。本当にせっかちねぇ。これがもし本当のあの子だったらどうするの?」
暗闇の中から青い肌の邪神がぬっと姿を現した。
「お前!」
将司はすぐさま邪神に斬りかかるが、邪神はそれを余裕の表情で躱していく。
「ダメよ! せっかちは」
邪神がそう言うと強烈な衝撃波がその身から放たれた。将司は剣を盾にしてそれを防いだが、その衝撃で数歩後ずさる。
「仕方ないわね。せっかちなあなたのためにゲームをしてあげるわ」
「ゲーム?」
「そう。ルールは簡単。あの子が夢の幸せを受け入れるまでに私を殺せればあなたの勝ち。でもあの子が幸せを受け入れてしまえばあなたはずっとこのままここに一人で取り残される」
「……どのみちやることは変わらない。お前を倒す!」
将司は邪神を
「あらあら。じゃあいらっしゃい。せっかちな勇者さん」
「言われなくても!」
将司は邪神にマクシミリアンから教わった連撃を放った。だが邪神はひらりひらりとそれを
「まだだ!」
身体強化の段階を上げてさらに素早い攻撃を繰り出すが、それすらも邪神は簡単に躱してしまう。
「くそっ!」
「ふふっ。必死になっちゃって」
「何を!」
「もうすぐがんばる意味なんてなくなるのよ。楽になればいいじゃない」
「ホリーさんは負けない! 敵である人族でさえも治療する人だ! そんなホリーさんの体を奪って人殺しをさせるだなんて! 俺は絶対に許さない!」
「そう? でもあの子は夢の世界を受け入れるわ。それからあなたもここで私に負けて独りぼっちね」
「うるさい! 俺はお前に!」
「無理よ。だって、あなた弱いもの」
邪神は将司にカウンターでデコピンをした。すると将司の体は大きく吹っ飛ばされる。
「ね?」
「ぐ、くそ……」
将司は立ち上がり、邪神を
「ふふふ。そうだ。あなたを元の世界に返してあげましょうか?」
「えっ?」
将司はあからさまに動揺した様子で邪神のほうを見るのだった。
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