第152話 勇者召喚計画

「これって……」


 表紙の次のページにはショーズィさんの名前とともにひどいことが書かれていた。


────

召喚勇者:ショーズィ

使用聖女:アイリーン

結果:

 召喚成功。正義感が強い。魔力量は通常の人族よりは多いものの、魔王を倒すには至らなかった。

 また、聖導のしるしによる洗脳は成功するも、リリヤマールの忘れ形見によって解除された。現在は魔族に降っているものと思われるため、見つけ次第処分すること。

反省点:

 使用した聖女の魔力が低すぎたため、召喚勇者の魔力も中途半端な結果となった。また、聖導のしるしによる洗脳は奇跡の前には無力であることが確認された。召喚勇者に対する洗脳は最小限に留め、それを操るために適切な駒を適切なレベルで洗脳することが必要となるだろう。

────


 この他にも召喚した日付など様々なことが記録されている。


 しかしあまりにおぞましいその内容に私は思わず少し気持ち悪くなってしまった。


 駒、洗脳、処分。


 こいつらは一体人をなんだと思っているのだろうか?


 思わずちらりとショーズィさんのほうに視線を送るが、ショーズィさんは外を警戒しているようでこの書類の内容は見えていないだろう。


「やはり聖女を生贄に使っていましたか」


 横から覗き込んできたエルドレッド様はそう言って眉をひそめた。


「はぁー。自分で呼んどいて殺すって、頭おかしいんとちゃうんか?」

「それが聖導教会のやり方なのでしょう」


 私は次のページをめくってみる。


────

召喚勇者:タクオ

使用聖女:アリシア、ベアトリクス、エスメラルダ

途中経過:

 召喚成功。正義感が強いが自分に自信がなく、女と話したことがない。魔力量は期待通りの高さであり、魔王を倒せるのではないかと期待される。

 大聖女クラウディアを洗脳し、男女の関係とさせることで忠実な駒となっている。現時点では成功といえるだろう。

注意点:

 大聖女クラウディアが教会からの離脱を考えるに至ってしまった。場合によっては大聖女クラウディアを生贄として新たな勇者を召喚することを検討すること

────


 ……名前が違うが、これはミヤマーのことだろうか?


「ミヤマーという名前ではなかったのですね」

「あ、それは……」


 エルドレッド様のその言葉にショーズィさんは気まずそうな表情を浮かべた。


「宮間っていうのは苗字で、宅男があいつの名前です」

「なるほど。そういうことですか」

「これも酷いですね」

「ええ。大聖女とまで持ち上げた存在すらも利用するとは……」


 エルドレッド様は険しい表情になる。


 本当にそのとおりだ。愛する女性から言われたことであれば信じてしまうのは仕方のないことなのだろう。


 だが、自分たちが利用した女性が愛ゆえに自分たちから離れると生贄にする?


 一体どこまでこいつらは!


「もう一枚ありますね」


 私はもう一枚めくってみた。そこには勇者の名前は記録されておらず、生贄とされる聖女のところにはバージニアとシンシアという名前が書き込まれている。


 そして召喚の日付は……今日だ!


「エルドレッド様! この日付って!」

「まずい! 教皇がこの部屋にいないのは召喚をしようとしているからです! ショーズィさん!」

「は、はい! 召喚の間は地下です!」


 私たちは大慌てで教皇の執務室を飛び出したのだった。


◆◇◆


「侵入者がいたぞ!」

「先へは進ませるな!」


 ショーズィさんの先導で召喚の間を目指す私たちはすぐに見つかってしまい、どこからともなくわらわらと聖騎士が湧いてくる。


 一体どれだけの聖騎士がこの建物にはいるというのだろうか?


 あまりの数に辟易していると、ヘクターさんが突然意外な申し出をしてきた。


「殿下、私が敵を引き付けましょう」

「ヘクターさん!?」

「分かりました。お願いします」


 その申し出をエルドレッド様はすぐさま許可した。


「ホリーちゃん、このままもたもたしていると新しい敵が呼ばれてしまうんだろう? ならばこういう役目をする人だって必要なんだ」

「ヘクターさん……」

「ニール、ホリーちゃんをしっかり守れよ」

「はい」

「じゃあ、また後でね。ホリーちゃん」


 ヘクターさんはそう言って私たちの背後から迫ってくる聖騎士の集団に突っ込んでいった。


「あ……」

「大丈夫。隊長は強いんだ。ホワイトホルンなら町長の次に強い。そう簡単にやられないさ」

「……うん」

「さあ、行こう! 教皇を止めないとまたあのミヤマーみたいなのが!」

「そうだよね。うん」


 こうして私たちは背後をヘクターさんに任せると再び前へと進むのだった。

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