第150話 すれ違い

 宅男は百人の聖騎士を連れ、フォディナの救援に向かった。


 だが宅男が到着したときはすでに遅く、フォディナにはシェウミリエ帝国の旗は掲げられていなかった。


「そんな! 間に合わなかったなんて!」

「……いかがいたしましょう? 引き返しますか?」


 驚く宅男に対して一緒にいる聖騎士の一人がそう尋ねる。


「僕たちだけで奪還するのは……」

「いくら勇者様がいるといえども無謀でしょう」

「だよね。でもなんとか状況だけでも確認できないかな」

「危険ではありませんか? フォディナには魔王が来ているという噂です。町の中で戦われては住民たちの巻き添えは避けられますまい」

「そうだね。じゃあ、中間あたりで待ち伏せをして、出てきたところを倒す作戦にしよう」

「なるほど。それであればこちらが地の利を活かせますし、奇襲が成功すれば魔王を討てるやもしれません」

「そうしよう。どこかいい場所は……」


 こうして宅男たちは魔王がフォディナを出たところを倒す作戦を練り始めるのだった。


◆◇◆


「ふむ。黒髪の戦士は出てこなかったな。どう思う?」


 フォディナをあっさりと制圧した魔王は側近の男に尋ねる。


「よもや臆病風に吹かれたということはないでしょうが……」

「だが南方に出たという話もない。サンプロミトに引きこもっているのか?」

「一度戻ったということはたしかなようですが……」

「だがボーダーブルクを町ごと消し去ろうとするほど聖導教会に傾倒しているのだ。黙って傍観しているとは思えんがな」

「それでしたら、この町の聖導教会の幹部を処刑してみてはいかがでしょう?」

「……いいだろう。やっておけ」

「ははっ」


 そして即日、フォディナの聖導教会を束ねる主教コンスティンをはじめとする聖導教会の幹部の公開処刑が執り行われることとなった。


 罪状はラントヴィルでの住人の虐殺を指示したというものである。


 彼らは聖導教会の法衣をまとったまま、町の中央広場に設置された一段高い舞台の上にに引っ立てられた。


「聖導教会フォディナ教区主教コンスティンの罪状を告げる。この男は先の戦役において聖騎士を動員し、ラントヴィルにおいて行われた村民の虐殺に加担した。よって魔王ライオネルの名において極刑に処す」


 拡声魔法によって罪状が読み上げられ、町中に響き渡る。


「バ、バカな! このワシがそんなことを! おい! お前たち! ワシを助けろ! 魔族の言いなりになど!」


 コンスティンはでっぷりと太った腹を揺らしながら処刑の様子を見物している者たちに命令するが、その命令に従うものはいない。


 お互いに顔をちらりと見合わせる人はいるものの、武器を持った魔族たちを見るとすぐにうつむいてしまった。


「おい! 魔族の言いなりになっていると神罰が下るぞ! この不信心者どもがっ!」


 これがコンスティンの最後の言葉となった。処刑を執行した魔族の魔法によってコンスティンの首はあっさりと飛び、観客たちからはどよめきと悲鳴、そしてため息が聞こえてくる。


 それからも続々と処刑が行われ、日が沈むころにはフォディナの聖導教会の幹部たちの処刑は完了したのだった。


◆◇◆


 フォディナとサンプロミトの間で道が狭くなっている場所を見張っていた宅男のところに一人の聖騎士が青い顔をしてやってきた。


「勇者様、大変です。なんとフォディナで公開処刑が! 魔族どもが我らが聖導教会の者を処刑したそうです」

「えっ?」

「コンスティン主教をはじめとして、主だった教会の司祭クラスは全員公開処刑されたそうです」

「なんでそんなことを……」

「名も知らない村で行われたという虐殺とやら濡れ衣を着せられたようです」

「なんてことを!」


 宅男は剣を強く握り、怒りをぐっとこらえている。


「勇者様……」

「分かってるよ。町で戦えば被害が大きすぎる。ここで魔王が通るのを待って、必ず討つ。魔王が通ったときは周りの魔族を頼む。僕必ず魔王を倒すから」


 宅男の力強い言葉に周りの聖騎士たちは大きくうなずく。


 宅男はそんな彼らに頷き返すと、再び道のほうへと視線を向けるのだった。


◆◇◆


 主教を失い、主のいなくなったフォディナの大聖堂の一室で魔王が側近の兵に尋ねる。


「動きはあったか?」

「いえ。相変わらず黒髪の戦士の情報はありません」

「慎重な男なのか? いや、だが前に攻めてきたときはかなり単騎で突っ込んでいたと聞くが……」

「ここは奴らの本拠地の一つ前の都市ですので、聖導教会側が手元に置いているのかもしれません

「……もしや、我々は攻めすぎたか?」

「……」

「ふむ。まさかここまで弱いとは思っていなかったのだがな。さて、どうしたものか」


 魔王はそう言って自身のあごに手を当てて考えるような仕草をしたのだった。

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