第143話 帰郷
2023/02/08 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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お昼過ぎ、私たちはついにホワイトホルンの門の前まで帰ってきた。どうやら今年は去年にもまして雪が深いようで、積もった雪の高さは街壁よりも数メートルほど高い。
これだけ積もったとなると、全裸四人組の体調が気になるところではあるのだが……。
そんな私たちを門の前では町長とヘクターさんや衛兵さんたちが出迎えに来てくれているではないか!
それに積もった雪の上から門の前までのとても長いスロープが作られていたので、きっとエルドレッド様が事前に連絡をしていたのだろう。
町長はスノーモービルから降りた私たちの前にやってくると順番に挨拶していく。
「エルドレッド殿下、ようこそお越しくださいました」
「ご無沙汰しております」
「ニコラ博士、はじめまして。町長のアリスターと申します」
「ニコラやで。よろしゅう」
「それからニール、ホリー、よく帰ってきてくれた。二人が無事に帰ってきてくれたことを嬉しく思うぞ」
「はい。ただいま戻りました」
「それとそちらの二人がホリーの下僕を志願したという人族だな」
「はい。下僕の将司です」
「姫様にお仕えしておりますマクシミリアンと申します」
「姫? ……まあいい。エルドレッド殿下より事情は聞いている。ホリーのおかげでホワイトホルンには人族に対する偏見はないが、それはお前たち次第では変わるということを肝に銘じるように」
「もちろんです」
「姫様の名誉を傷つけるような真似は絶対にいたしませぬ」
「……いいだろう。その言葉を違えぬようにな」
「はい!」
「もちろんです」
「ではまずは私の屋敷に招待しよう。それとその不思議な魔動車は?」
「ああ、これはスノーモービルっちゅうんや。色々と改良点もあるさかい、量産するかはわからへんけど」
「なるほど。試作品のテストも兼ねてとはこのことでしたか」
「せや。とりあえず換装するで。エル坊」
「ええ」
エルドレッド様とニコラさんはスノーモービルを普通の魔動車へ戻すため、作業に取り掛かり始めるのだった。
◆◇◆
それから私たちは普通の魔動車に戻ったスノーモービルに乗り、町長のお屋敷へとやってきた。
そして応接室に通されると、そこで今回の事情を説明した。
「なるほど。ずいぶんとおかしな照会をなさるな、とは思っておりましたがそのようなことが……」
町長はそう言って神妙な顔つきとなった。
「だがまさかホリーがリリヤマール王国の王女殿下であらせられたとは……。ホリー王女殿下、これまでのご無礼をどうぞお許しください」
町長がいきなり頭を下げて謝ってきた。
「え! やめてください! 私は薬師グランの孫娘のホリーです。だから普通に接してください」
「ですがそれでは……」
「私は魔族の同胞で、この町の薬師です。行ったこともない国のことなんか知りませんし、いきなり亡国の王女様だなんて言われて敬われても困ります」
「……そうか。わかった。そうしよう」
「ありがとうございます」
すると町長は一呼吸置いて私のほうを見てきた。
「それで、ホリーは戦いに行くのだな?」
「はい。このまま聖導教会を野放しにしていたら大変なことになりますから」
「分かった。してエルドレッド殿下、このような少人数でいらした理由をお聞かせ願えますかな?」
「魔王陛下の進軍に併せて少数精鋭で奇襲を仕掛け、教皇を暗殺します。そのためにはあまり人数が多くないほうがいいはずです。また、敵の最高戦力である黒髪の戦士ミヤマーは魔王陛下が釣りだします。それ以外は烏合の衆ですが、時間がかかれば黒髪の戦士を増やされる可能性があります。そのため早急に通路の場所を特定し、作戦を実行する必要があるのです」
「なるほど……。それにしてもリリヤマール王家の女性のみが通ることのできる通路ですか。そのようなものがあるなどにわかには信じらがたいですが、今にして思えばグラン先生がホリーを連れてきたときも不可解ではありました。そのようなものがあると考えれば
「しばらく近隣を捜索することになりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞお使いください。下僕二名には宿を用意しよう」
「えっ?」
「なっ! 姫様の御身を――」
「ホリーはこの町で育った薬師だ。周囲の住人もホリーのことを赤子のころから知っており、彼らにとってホリーは娘のような存在だ。危険などあるわけがない」
「マクシミリアンさん、ショーズィさん、大丈夫ですから。自分の家でくらいは一人でゆっくりさせてください」
「……はい」
「かしこまりました」
二人はようやく引き下がってくれた。
「ニコラ博士はいかがなさいますか? よろしければ我が屋敷に部屋をご用意しますが……」
「いや、アタシはこん二人と同じ宿でええで。できればホリーちゃんとこに近いのがええな」
「かしこまりました」
「エルドレッド殿下には部屋をご用意しております」
「感謝します」
こうしてそれぞれの寝るところが決まり、私は久しぶりのわが家へと向かうのだった。
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