第139話 赤い宝玉の秘密
私たちはキエルナにある魔道具研究所に戻ってきた。ニール兄さんの義手をミヤマーとの戦いで壊されてしまったため、新しいものに交換するためだ。
「おお! 来よったな! さあ、こっちやで」
私たちが到着すると、なんとニコラさんが満面の笑みで出迎えてくれた。そしてニール兄さんの右手を掴んで研究所の奥へと引っ張っていこうとする。
「ニコラ! まだ手続きが終わっていません」
「ん? 手続きなんて後でやればええやろ。それよりはよ試したいねん」
「ダメです。まったく、子供じゃないんですから」
「エル坊は固いなぁ」
「ニコラが緩すぎるんです!」
「はぁー、しゃあないな。ほな……ん? なんや? 人族が二人もおるやん。んん? そっちの兄ちゃん、ずいぶんと魔力強そうやなぁ」
「え?」
ニコラさんがショーズィさんに興味を持ったようで、ショーズィさんをジロジロと観察し始めた。
「ニコラ! いい加減にしてください! 初対面の人に失礼でしょうが!」
「はぁー、しゃあないな。待ってやるからはよ手続きしぃや」
「……」
ニコラさんは相変わらずだ。もうこういう人だと分かっているので驚かないが、最初に会ったときはずいぶんと驚かされたものだ。
「そういやホリーちゃん、その宝玉の調子はどうや?」
「え? 調子ですか?」
「せや。力が弱まったりとか、体に影響があったりとか、なんかあるか?」
「いえ。そういったことは特に無いですけど」
「んー、さよか。ちゅうことはあの回路は上手くできとったんやな。ちょいと見せてくれへんか?」
「はい」
私がペンダントを渡すとニコラさんはそれを確認し始める。
「うん。完璧や。しっかり機能しとるな。さすが、ホリーちゃんの母親の血を固めただけはある」
「え?」
「は? ソフィア陛下の?」
「ニコラ!」
「あ!」
ニコラさんはしまったという表情を浮かべると、愛想笑いを浮かべる。
「いや、ちゃうねん。ええと……」
おかあさんの……血?
「ホリーさん、ここでは他人の目があります。研究室に移動してからお話します。
「……はい」
私たちは手続きを終え、ニコラさんの研究室へと向かったのだった。
◆◇◆
「スマン! アタシが悪かった!」
開口一番、ニコラさんが謝ってきた。
「どういうことですか? 説明してください」
「それはな」
「いえ、私から説明しましょう。隠すように提案したのは私ですから」
エルドレッド様はそう言って説明を始めた。
「以前、その赤い宝玉は何かの血を固めて作ったものであるというお話をしたのは覚えていますね?」
「はい。この宝玉は未知の生物の血で、ボーダーブルクのものは人族の血だったんですよね?」
「そのとおりです。以前奇跡の付与をお願いしたとき、私たちはこの宝玉がホリーさんに縁のある者の血で作られたものではないかと考えていました。奇跡の力を伝達する素材を探して実験したときのことを覚えていますか?」
「はい。聖銀糸という糸だけ、奇跡を発動できたんですよね」
「そうです。聖銀糸と同じようにこの血で作られた宝玉も魔法を一切受け付けない。しかし奇跡はよく馴染む。そして血は通常、その人の魔力の特性と一致します」
「それって……」
「そうです。ホリーさんの生き血を抜き、宝玉として固めれば理論上は同じような宝玉となるはずです。そして聖導教会の連中が手に入れることができたホリーさんと同じ特性を持つ人物の血、それはホリーさんの母であるソフィア陛下でしょう」
「そんなことって……」
あまりのことに私は二の句が継げなかった。
「なんたる外道か! だから連中はあのとき執拗に陛下のご遺体を奪おうと!」
マクシミリアンさんが怒りを露わにしており、ニール兄さんとショーズィさんも拳をぎゅっと握って震わせている。
「ホリーさんにお渡ししたのは、ホリーさんのルーツに繋がる何かが得られるのではないか、というだけでした。ですが今回の状況を突き合わせると、そのような結論にしかなりませんでした。さすがにそれをお伝えするのは酷かと思い、内緒にするように口裏合わせをしたのですが……」
「スマン。ホンマにスマンかった」
きっと悪気はなかったのだろう。説明にも納得できるし、聖域の奇跡を付与してからはむしろ私を守ってくれている。
なぜか手放したくないと感じたのは私のお母さんだったからで、ゾンビを生み出す呪いを与えられていたときはきっとお母さんがそんな風に
そう考えるとなんだかスッキリする。
「いえ、大丈夫です。この宝玉は私のことを守ってくれました。それに実はお母さんが守ってくれたんだって考えると私、とても嬉しいです。教えてくれてありがとうございました」
「そう言っていただけて胸のつかえが取れました」
「せやな。アタシもや」
エルドレッド様とニコラさんはそうして
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