第138話 移動の謎
「そのとおりです。私が潜入調査した結果に加え、マクシミリアン殿のホリーさんの出生とリリヤマール王国滅亡のお話、オリアナさんをはじめとするボーダーブルクに古くから住んでいる住民への聞き取り調査、そして現在の状況証拠から判断した結果、ホワイトホルンにはホリーさんだけが、いえ、リリヤマール王家の女性だけが通ることのできる秘密の通路が存在していると考えて間違いないでしょう」
「え? どういうことですか?」
「マクシミリアン殿も言っていたとおり、サンプロミトにはそのような通路が存在しているとみて間違いありません。私は今回の潜入調査でその一部とみられるものを確認しました」
エルドレッド様は私の目をじっと見てくる。
「確認した通路の一つ目は、おそらくホリーさんのお母様がグラン先生にホリーさんを託したであろう場所です。ですので当時の城、現在は聖導教会が大聖堂として使っている建物に続いていることでしょう。そしてもう一つはそこからすぐ向かいの何もない山の中腹にありました。マクシミリアン殿、何か心当たりはありませんか?」
「山の中腹……そうですな。王家の女性のみが祈りに使うとされる施設があると聞いたことはありますが詳しくは……」
「なるほど。では王族以外にはそのように説明していたのかもしれませんね」
エルドレッド様がそう言うと、マクシミリアンさんも小さく頷いた。
「では続いてもう一つの謎についてです。グラン先生はリリヤマール女王ソフィア陛下の出産をサポートするために度々サンプロミトの城を訪れていた。しかしグラン先生が通ったという記録がボーダーブルクはおろかコーデリア峠にすらないのです」
「それは……おじいちゃんはこのあたりを通らずにサンプロミトに行っていたってことですか?」
「そのとおりです。ホリーさんがグラン先生に連れられてサンプロミトを脱出したのは生まれた当日の七月九日です。誕生日についてもお祝いをしていた当時を知る者たちがおりましたので、この日付については間違いありません」
「はい」
「そしてグラン先生がホリーさんを連れてホワイトホルンに現れた日付はなんと七月十日、つまり翌日なのです」
「え?」
「ホワイトホルンに問い合わせをした結果、住民登録をした記録が残っていました。その日付が七月十日です」
「それって……」
「そうです。グラン先生はなんらかの方法で山を越え、たった一晩でホワイトホルンに戻ってきたのです。そのうえグラン先生はホリーさんを連れ帰る前、大量の荷物を持ってホワイトホルンを歩いて出たという証言も複数得られたそうです。その時期に多少の幅はありますが、五月であったということは間違いありません。マクシミリアン殿、グラン先生は五月から城に滞在し、ソフィア陛下を診られていたのではないですか?」
「……そう、ですな。たしか五月の中ごろからだったと記憶しております」
「つまり、グラン先生はホワイトホルンからサンプロミトへと短時間で移動する方法を持っていたということです」
「でも、リリヤマール王国の女性だけが通れるならおじいちゃんが一人で通れたのがおかしくないですか?」
「その鍵がホワイトホルンを襲ったゾンビの元凶となったあの赤い宝玉です。今はホリーさんが身に着けていますね」
「はい」
私はお守り代わりのペンダントをそっと持ち上げた。
「その宝玉はリリヤマール王家の女性の代わりとして機能させることを目的として作られたもののはずです」
「え? 王家の女性の代わりですか?」
「そうです。グラン先生がリリヤマール王家の女性の同伴なしにホワイトホルンからサンプロミトへと移動できたということは、なんらかの鍵があればその通路は通れるということです」
「はい」
「聖導教会の連中がこの宝玉のみを通すことを意図していたのか、それともリリヤマール王家の女性と同伴しているのと同じように機能することを想定していたのかは分かりません。ですが聖導教会の連中はこのリリヤマール王家の女性のみが通れる秘密の通路の存在を知っており、その宝玉を魔族領に送り込んで取り返しのつかない数のゾンビを放とうとしていたことは間違いありません」
「そんな……」
「ここからは私の推測ですが、おそらくその宝玉にはリリヤマール王家の女性と同伴しているのと同じようには機能せず、宝玉のみがホワイトホルンの近くに移動したのでしょう。もし鍵として機能するのであればゾンビを発生させる魔道具になどはせず、兵士を送り込むために使っていたでしょうからね」
なるほど。それは私もそのとおりだと思う。
もし聖導教会の奴らが兵士を送り込むことに成功していたら真っ先に襲われていたのはホワイトホルンで、そうなればきっと多くの犠牲者が出ていたはずだ。
仮定の話ではあるが、そう考えただけでもゾッとする。
「はい。あとは、ホワイトホルン側の秘密の通路がどこにあるのかが分かれば私たちはサンプロミトを奇襲できるというわけです。ホリーさん、グラン先生は何かソフィア陛下からの依頼書などをお持ちだったのではありませんか?」
「え? あ……その、おじいちゃんの遺品にはまだ手をつけていなくて……」
「そうですか。申し訳ありませんが、今からホワイトホルンに戻り、それを確認していただくことは出来ませんか?」
「それは……」
遺品を整理してしまうとおじいちゃんがいないということを再認識させられ、おじいちゃんと過ごした日々に区切りがついてしまうような気がしてずっと後回しにしていたのだ。
だが、もうそろそろ整理するべきときなのかもしれない。
「わかりました。ホワイトホルンに戻りましょう」
こうして私はボーダーブルクを離れることとなったのだった。
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