第134話 壊滅
「ホリー、こいつなら動かせるぞ。ボーダーブルクまでなら魔力も大丈夫だ」
ニール兄さんが崩れかかった倉庫から一台の魔動車を見つけてきた。
私たちは今からこの魔動車に乗り、ボーダーブルクへと避難するつもりだ。
というのもボーダーブルク南砦はミヤマー一人に破壊され、もはや誰が指揮官で誰が生き残っているのかも分からない状況となっている。魔動車を探しに行ってくれたトラヴィスさんも行方不明だ。
壁だってあちこちが崩れ落ちておりもはや敵兵の侵入を阻むことはできないうえに、ミヤマーは撤退したものの他の敵兵はまだ残っているはずだ。
このままここに留まっていたら敵兵に囲まれてしまうだろう。
「ショーズィ殿、北門にも敵兵が攻めてきておった。露払いを頼めるか?」
「もちろんです。ホリーさん、任せてください。絶対に道を切り開いて見せます」
ショーズィさんはキラキラした目を私に向けてきた。前のような
だが悪気はないのだし、あのときのことはすべて呪いが原因なのだ。
私はその気持ちをグッと押し殺し、ショーズィさんに笑顔を向ける。
「はい。その、無理しないでください」
「もちろんです!」
ショーズィさんは嬉しそうにそう答えた。
それから私たちは魔動車に乗り込み、ニール兄さんの魔力が尽きないようにゆっくりと北門を目指す。
すると正面から白い鎧の一団が私たちのほうに向かって進んできた。
あれは、聖騎士だ。
「ホリーさん、絶対に出ないでくださいね!」
ショーズィさんはそう言うとものすごい速さで聖騎士たちに突っ込み、あっという間に倒してしまった。
「すごい……」
「ショーズィ殿は人族としては規格外の魔力の持ち主。あのミヤマーという男が例外なだけで普通の人族など相手ではございません」
「そうなんだ……」
私たちはショーズィさんが切り開いてくれた道を通り抜ける。すると後ろからものすごい速さで走って追いついてきたショーズィさんが魔動車に飛び乗ってきた。
「ホリーさん、倒してきましたよ」
ショーズィさんは褒めてほしそうな目で私のほうをじっと見ている。
「あ、はい。ありがとうございます。すごかったです」
「はい!」
するとショーズィさんはものすごく嬉しそうにしている。
なんというか、まるで飼い主に褒められて尻尾をブンブンと振って喜ぶ犬のようにも見える。
「ホリー、スピードを上げるぞ」
ニール兄さんはそう言うとボーダーブルクを目指し、魔動車はスピードを上げるのだった。
◆◇◆
それから私たちは人族の兵士に襲われることなく、無事にボーダーブルクへと戻ってきた。
だが、そこは私たちの知っているボーダーブルクではなかった。
町の南側には巨大なクレーターが出来ており、爆発の衝撃で数多くの建物が倒壊している。
きっと多くの死傷者が出ているに違いない。
ただそのクレーターの北側のある一点で爆発が食い止められたらしく、そこから北側へ扇状に無傷な領域が広がっている。
その領域には町の中央にある町庁舎も入っており、建物も無傷なように見える。
「ホリー」
「うん。早く町庁舎に行こう。怪我人がきっとたくさんいる」
「ああ」
こうして私たちは滅茶苦茶に破壊された町の中を通り、町庁舎へとやってきた。
私は魔動車から降りると入口を警備している兵士のところへと向かう。
すると私に気付いた兵士のほうから声をかけてきた。
「あの、ホリー先生、ですよね?」
「はい。ホワイトホルンのホリーです。ボーダーブルク南砦から戻ってきました」
「ああ! 助かった! ホリー先生! 早くこちらへ! オリアナ町長が!」
「え? オリアナ町長が?」
「はい。我々を守って!」
「分かりました。早く案内してください」
私は不慮の事故を避けるためにニール兄さんたちを残し、町庁舎の隣にあるいつもの病院へと駆け込んだ。するとそこは想像以上に酷い状況になっている。
病室に収容しきれなかった患者さんが所狭しと寝かされ、苦しそうにうめき声を上げていたのだ。
そんな彼らの一人が私に気付く。
「ホリー先生?」
「え? 奇跡の天使!?」
「これで助かるのか?」
「ホリー先生、どうかこの子を」
寝かされた人たちがなんとか体を動かし、私のほうへとにじり寄ってくる。
「あ……」
「すみません! 治療は順番になります! 通してください!」
兵士の人がそう言ってくれるが、彼らのパニックは収まらない。
すると騒ぎを聞きつけたのか、病院のスタッフが続々と集まってくる。その中にチャールズさんもおり、すぐさま私に駆け寄ってきた。
「ホリー先生、早くこちらへ! こんな正面から入っちゃダメです」
「すみません」
「早く」
私はチャールズさんに手を引かれ、一旦病院の外に出た。
「ホリー?」
「姫様?」
「ホリーさん?」
すると入口で立っていた三人が心配そうに駆け寄ってきた。
「なんだか私が入ったらパニックになっちゃって」
「裏口にご案内します。皆さんもこちらへ」
「はい」
こうして私たちは裏口からへと入るのだった。
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