第131話 絶望
ミヤマーの姿が突然消え、激しい金属音が鳴った。
いつの間にかショーズィさんとミヤマーが剣をぶつけていて、ものすごい速さで移動しながら次々と剣をぶつけ合っている。
「姫様! 今のうちのニール殿を」
「はい!」
私は吹っ飛ばされたニール兄さんの
息はあるが意識はない。
首の骨は大丈夫そうだが……あ! これは頭を打っている。
私はすぐさま大治癒の奇跡を発動した。激しい金属音が鳴り響く中、ニール兄さんの体が金色の光に包まれる。
「う……」
ニール兄さんが小さなうめき声を上げたところで治療が完了した。とはいえ失神している人を治療したところですぐに意識が戻るというものではない。
運よくすぐに目覚めてくれればいいが、そうでない場合はベッドに寝かしておくほうが望ましい。
「あの、マクシミリアンさん。ニール兄さんを病室まで運びたいんですけど……」
「うむ。姫様では難しいでしょう。ワシにお任せくだされ」
マクシミリアンさんはそう言って気絶したニール兄さんの上体を起こすとニール兄さんの腕を自分の肩にかけるようにして立ち上がらせる。
そのまま器用に体を入れて背負おうとした瞬間だった。
私たちの近くにオレンジ色の球が着弾し、小さな爆発が起きる。
「いけない人だな。魔族を逃がそうだなんて」
ミヤマーが笑いながらそんなことを言ってきた。
その言葉に私の背筋を悪寒が駆け抜ける。
「どうして! どうして魔族をそんなに嫌うんですか!」
「どうして? 魔族は滅ぼさなきゃいけない相手だからだよ。君も聖女なら分かるはずだよ。魔族を滅ぼせば世界は平和になるんだ」
「何を言ってるんですか! 争いの原因は聖導教会じゃないですか!」
するとミヤマーは不思議そうに首を
「魔族がいるからいけないんじゃないか。魔族がいなければ争いなんて起きないだろう?」
「は?」
あまりにも酷い発言だが、ミヤマーはそのことを心の底から信じている様子だ。
「ねえ! 滝川くん!」
ミヤマーはそう言って斬り合っていたショーズィさんのお腹に再びオレンジ色の球をぶつけ、吹き飛ばした。
さらに吹き飛んだ先にまるで瞬間移動でもするかのように回り込むとショーズィさんを蹴り飛ばす。
ショーズィさんの体は地面をゴロゴロと転がり、私たちの前まで飛ばされてきた。
「く、くそっ」
ショーズィさんは血を流しながらもなんとか立ち上がろうとしているが、うまくいっていない。
どうやらもうそんな力は残されていないようだ。
するとミヤマーは意外なことを言ってきた。
「ほら、早く治療しないと」
「え?」
「治療するんでしょ?」
ミヤマーは、一体何を言っているのだろうか?
「ほら、死んじゃうよ?」
「……はい」
私はショーズィさんの怪我の状態を確認する。
蹴られたところは大したことなさそうだ、お腹に爆発を受けたときの傷がかなり大きい。
私は大治癒の奇跡を発動し、ショーズィさんの怪我を治療した。
「ありがとう」
ショーズィさんはそう言ってまた立ち上がった。
「何度やっても結果は同じだと思うけれど、その前にまずは魔族を殺さないとね」
そう言うとミヤマーは直径一メートルほどの大きなオレンジ色の球を出現させると、なんと建物に向かって無造作に放った。
その建物はその爆発で吹き飛び、瓦礫の山と化した。
「さて、どれくらいの魔族を殺せたかな? たくさん殺せていればいいんだけど……」
そう言い放つミヤマーの目からはある種の狂気を感じ、再び私の背筋に悪寒が走る。
「ホリーさん、あいつの呪いを解けませんか?」
ショーズィさんがそう言ってくるが、あのときのショーズィさんとは明らかに様子が違う。
聖域の奇跡でどうにかできる状態ではない気もするが、それしか手が無いのかもしれない。
「ねえ、それよりそこのおじいさん。その魔族のトドメを刺すからどいてほしいんだけど」
「なっ!? お主、一体何を言っているのじゃ?」
「何って、魔族を殺すって言ってるんだけど?」
「剣を持たず、傷ついた戦士を殺すというのか? 恥を知れ! 恥を!」
「え? 魔族なのに? 魔族は滅ぼさないと」
ミヤマーは真顔でそんなことを言ってきた。
どうやらミヤマーの中では人族と魔族が厳密に区別されているらしく、魔族はそれこそ害虫のような扱いようだ。
「やめてください。ニール兄さんは私の幼馴染で、兄のような存在です」
私は覚悟を決め、ミヤマーの前に立った。
「魔族が兄? やっぱり魔族に騙されておかしくなっちゃってるんだね」
「おかしいのはあなたです。魔族だって人族だって、みんな生きているんです。言葉を交わせば分かり合えて、仲良く暮らしていくことだってできるんです」
「君は聖女だからね。魔族にとって利用価値があるから、そうやって騙してるんだよ。でもさ? 魔族を滅ぼせば世界は平和になるんだ。だったら滅ぼしたほうがいいに決まってるでしょ?」
「滅ぼされた魔族はどうなるんですか? それに人族は人族同士で争い、私の両親を殺したそうじゃないですか」
「滅ぶべきなんだから、滅べばいいんじゃない? それに君の両親が殺されたって本当に? 君を騙すためにそう言っているだけじゃないの?」
「姫様を愚弄するとは! ソフィア陛下が! レックス殿下が! 一体どれほど姫様との時間を楽しみにしておられたか!」
「おじいさんがそう考えるならそうなんじゃない? おじいさんの中ではさ。ま、仮にそうだったとしても魔族が滅ぶべきということには変わらないけど」
ダメだ。全く話が通じない。
「ホリーさん、聖域の奇跡を!」
「はい!」
私はすぐさま聖域の奇跡を発動した。
「うっ……」
ミヤマーは一瞬たじろいだ。だがショーズィさんのときのようなことにはならない。
「ふう。それで? 何かをしたみたいだけど、僕の考えは変わらないよ。魔族を倒し、クラウディアを守る。それだけだから」
ミヤマーは狂気を宿した瞳ではっきりとそう言い切ったのだった。
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