第129話 勇者 vs.勇者

 キイン!


 剣と剣がぶつかり合う音がボーダーブルク南砦に鳴り響いた。


「あれ? 絶対に反応できない速さにしたつもりなんだけどな」


 宅男は意外そうな表情を浮かべ、距離を取った。


「……俺のほうがお前より剣の腕が上だ。そんな程度の低い剣技で俺を倒せるわけがないだろ」

「ふーん。まあ、いいや。じゃあ、こうすればいいってことだよね」


 宅男はオレンジ色の球を生み出すと、将司に向かって次々と浴びせていく。


「く、くそっ」


 将司は必死に避けるが、流れ弾が次々と砦の建物を破壊していく。


「このっ!」


 将司も負けじとオレンジ色の球を放って相殺するが、将司の放出する数は宅男の二割ほどに留まっており、将司は防戦一方となっている。


「あ、そうか! このままこの砦を壊しちゃえばいいんだ」


 宅男はいいことを思いついたとばかりにオレンジ色の球の数を倍に増やし、無差別に砦を破壊していく。


「こんの!」


 将司は魔剣に魔力を流すと赤い斬撃を放ったが、宅男はそれを軽々とかわした。


「ああ、やっぱりさっきのは滝川くんだったんだ。それにしても何? その剣。完璧に呪われてそうな見た目だよね。あ! その剣を壊せば正気に戻ったりする?」

「正気じゃないのはお前だろうが!」

「僕は正気だよ。クラウディアを守るために魔族を滅ぼす。そうすれば世界は平和になるんだ」

「そんなことしたって平和になるわけないだろうが!」

「ゾンビを生み出す元凶がいなくなれば平和になるでしょ?」

「それが違うって言ってるんだ! ゾンビを生み出しているのは魔族じゃない!」

「だから、滝川くんは魔族に騙されてるんだよ。やっぱり魔族に騙された聖女の子が言っていたから信じちゃった感じかな?」

「それはお前のことだろうが! そのクラウディアが聖導教会の手先なんじゃないのか?」


 すると宅男は顔を真っ赤にして怒りだした。


「ふざけるな! クラウディアはそんな女性じゃない! クラウディアが僕を騙すはずなんてない!」

「お、おい……」

「僕を馬鹿にするのはまだしも、クラウディアを悪く言うことは許さない。撤回しろ! さもないと……」


 宅男は剣を将司に向け、すさまじい形相でにらみつける。


「……宮間、お前だって同じだよ。あの娘は騙されてなんかいない。それに聖導教会があの娘を欲しがるのは、聖女を保護するなんて理由じゃない。あいつらはあの娘が自分たちで滅ぼしたリリヤマール王国の王女だからだ。普通の聖女とは比べ物にならないほど強力な奇跡の力を使えるリリヤマール王国の女王の血筋を取り込み、聖導教会の権威を強化するために俺を! それに宮間を利用しているんだ」

「ふーん。言いたいことはそれだけ?」

「おい! 宮間!」

「僕はクラウディアを信じる。クラウディアの目を見れば分かる。クラウディアは嘘なんてついていない!」

「宮間!」

「黙れよ。僕がそんな話をされて信じると思う? 滝川くんだって信じないよね?」

「……話合いの余地はなしか」

「最初からないよ。あるのは滝川くんは降参して、その聖女の子も僕が保護する。それだけだよ」

「仕方ない」


 将司は剣を構え、一気に間合いを詰めると連撃を放った。しかし宅男は余裕をもってそれを躱す。


「無駄だって。たしかに滝川くんのほうが剣技は上かもしれないけど、魔力のほうは僕のほうが圧倒的に上なんだ」


 宅男は急加速して距離を取ると直径一メートルほどのオレンジ色の大きな球を三つ出現させた。


「くらえ!」


 宅男は一つを将司に向けて、残る二つはそのあたりの建物に向けて放った。


「くそっ!」


 将司は自分に向かって飛んできたオレンジ色の球を赤い斬撃で迎撃するが、残る二つの球は近くの建物に着弾し、跡形もなく吹き飛ばした。


「なんてことを!」

「なんてこと? 魔族の軍事施設を破壊しただけじゃないか。それにもし人間相手だったとしても、これは敵の軍事施設の破壊だよ? 滝川くん、戦争やってる自覚ないの?」

「お前!」

「反論できなくなったんだ。ならもういいよね。この砦は僕たち聖導教会が破壊するから」


 宅男は小馬鹿にした表情でそう言うとさきほどと同じようなオレンジ色の大きな球を次々と出現させ、周囲へ無差別に撃ち込み始めた。


 砦は次々と破壊され、周囲は瓦礫がれきの山と化していく。


「宮間ァァァァァァァ!」


 将司は叫び、すさまじい速さで突撃していく。


 激しい金属音が三度みたび鳴り響き、遅れて一度巨大な爆発が起こった。


 土煙がもうもうと上がる中、人影が放物線を描いて飛んでいく。それは百メートル以上離れた場所にある壊れかけの建物に背中から落下した。


 すると建物はその衝撃で崩れ落ち、瓦礫の山と化した。その瓦礫の山に宅男は余裕綽々よゆうしゃくしゃくな面持ちでゆっくりと近づいていく。


「あれ? 死んじゃったかな? 手加減したつもりだったんだけど……」


 宅男はほんの少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべるのだった。

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