第128話 まさかの再会

 ホリーたちが逃げていくのを見送った将司は決意の炎をその瞳に宿し、ボーダーブルク砦のほうをにらんでいた。


「俺は、もう間違えない。ホリーさんを守る」


 将司はそうつぶやいた。そうしてしばらくすると、将司はおもむろに動き出した。


 身体強化を発動し、すさまじい速さで砦内を駆けていく。

 

「……いた」


 するとすでに砦の中に侵入し、魔族の兵士たちを斬り殺す宅男の姿を発見した。


「おい! やめろ!」


 その声に反応し、宅男は将司のほうを振り向き、目を見開いた。


「……滝川くん?」

「え?」


 宅男は将司のことを認識しているようだが、将司は宅男が誰だか分かっていない様子だ。


「そうか。滝川くんもこの世界に召喚されていたんだ。滝川くんはどっち側? 魔族を殺すなって言われた気がするけど?」

「……お前、誰だ?」


 そう答えると、宅男の顔はさっと赤くなった。


「ああ、そうかい。クラスメイトすらも覚えていないてわけか。生徒会所属でスポーツ万能、クラスでもモテモテの人気者にはオタクなんて眼中になかったってことかな」

「オタク……え? まさか、お前、宮間か?」

「……ああ。やっと思い出してくれたんだね。で、滝川くんはどっち側?」

「どっち側? 何言ってるんだ。こんな侵略戦争、さっさとやめるんだ! ゾンビは魔族が生み出したものじゃない! 魔族だってゾンビ退治に手を焼いているんだ!」

「……そっか。滝川くんはそっち側なんだ。もしかして魔族に洗脳されてるのかな?」

「おい! 宮間! しっかりしろ! お前は教皇に呪いをかけられてるんだ!」

「呪い? 何を言ってるの? それは滝川くんのほうだろう? クラウディアが嘘を言うはずがない。僕はクラウディアを守るために、魔族を滅ぼすんだ!」

「おい! 宮間! クラウディアが誰かは知らないが、魔族を滅ぼす必要なんてない! お前は騙されてるんだ!」

「……やっぱり魔族に洗脳されてるから話が通じないのかな? なら仕方がない。僕が滝川くんを正気に戻してあげるよ」


 宅男はそう言うと、魔族たちの血で濡れた聖剣エクスフィーニスを将司に向かって突きつける。


「……仕方ない。なら俺がお前を止めて、呪いを解いてやる」


 将司も覚悟を決め、魔剣を構えた。二人はお互いに間合いをはかりながら隙を窺っている。


 ひりつくような空気の中、先に動いたのは宅男だった。


 爆発的な身体強化で距離を詰めると目にも止まらない速さの一撃を放つ。将司はそれをギリギリのところでステップバックしながら剣筋を逸らし、なんとか距離を取った。


「……滝川くん、降参しない?」

「な、何を……」

「もう今ので分かっただろう? 滝川くんは僕に勝てない。滝川くんの魔力は少なすぎる」


 余裕の表情を浮かべる宅男に将司は悔しそうに唇をんだ。


「一応同級生のよしみだからね。滝川くんは助けてあげるよ。魔族に騙されてるだけだろうしね。魔族を滅ぼして世界を平和にして、僕はクラウディアと一緒になるんだ」

「お、お前……」

「ああ、そうだ。騙されてるといえば、聖女の子も一人、騙されているから連れてきてほしいって言われてるんだけど、滝川くん知らない?」

「お前もか! なんでお前らはあの娘に!」

「あれ? もしかして滝川くん、その聖女の子のために人間を裏切ったわけ? あれだけ学校でモテまくってたのに?」

「は? 宮間、お前何を……」

「それにさ。その聖女の子だって可哀想だよ? 聖導教会で神様にお祈りして、神様の力が借りられるようにならないと本当の奇跡は使えないんだからね」


 宅男は余裕たっぷりな様子で将司を説得してくる。


「ふざけるな! 聖導教会は! 教皇は俺に呪いをかけて人殺しをさせたんだ!」

「ふーん。魔族は滅ぼすべき敵なんだ。敵はいくら殺したっていいでしょ? ほら、こんな風に」


 宅男はそう言うと自分の周囲にオレンジ色の球を出現させると、周囲を取り囲んでいた魔族の兵士たちに向けて一斉に放った。


 魔族の兵士たちはオレンジ色の球を避けることができず、着弾と同時に起きる爆発で体の一部が吹き飛ばされてしまった。当たり所が悪く、一撃で命を落としてしまう者もいる。


「おい! 宮間!」

「何? だって、ここは戦場だよ? 戦場にいる魔族を殺してるのに何怒ってるの?」

「宮間! しっかりしろ! 戦う必要なんてどこにもないんだ!」

「ああ、もう。うるさいなぁ。その無駄にきれいごとばっかり言うところも変わってないね」

「……」

「じゃあ、僕はこの砦の魔族を滅ぼさないといけないから、しばらく静かにしててよね」


 宅男はそう言うと、再び身体強化を発動すると将司に斬りかかるのだった。

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