第118話 非道なる陰謀

2022/12/29 騎士団長の名前が間違っていた箇所を修正しました

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「ルーカス、帰ったか」

「はい」


 聖導教会の大聖堂へと戻ってきたルーカスは教皇の居室へとやってきた。


「首尾は?」

「勇者は敗れました」


 すると教皇は顔を真っ赤にし、執務机を両手で強く叩いた。


「なぜだ! 洗脳は完璧だと言っていたではないか!」

「はい。ほぼ完璧でした。仮に呪いが解かれたとしても、自らの魔力で自動的に再洗脳する状態となっていました」

「ではなぜ!」

「まず一つは聖域の奇跡です。探し求めていたリリヤマールの忘れ形見は聖域の奇跡までも使えるようです」

「くそっ!」

「それに加え、魔道具に詳しい魔族の介入がありました」

「魔道具に詳しい魔族だと? 奴らは自らの肉体と魔力を鍛えることをたっとんでいるはずだ。そんな奴らが魔道具だと?」

「はい。そのはずでした。ですがその魔族は彼女と協力し、聖導のしるしに込められた呪いをその場で解除していました」

「何? だがどうやって? 聖域の奇跡をかけられた隙を突かれたのか?」

「いえ、敗れたのは実力です。あのできそこないは正面から戦い、敗れました」

「なんだと!?」

「あれは恐らく魔王、もしくはそれに近しい類いの存在でしょう」

「……そうか。魔王には召喚勇者でも及ばぬのか」


 教皇はそう言うと、がっくりと肩を落とした。


「いえ、そうでもないでしょう」

「どういうことだ?」

「あのできそこないを呼ぶのに生贄とした聖女はたった一人。しかも長年やっていながら見習いの域を脱することが出来なかったできそこないです」

「……」

「つまり、できそこないを使ってもできそこないしか呼べぬということです」


 教皇はルーカスに険しい視線を向ける。


「ですので今度は聖女アリシア、聖女ベアトリクス、そして聖女エスメラルダを生贄としましょう」

「なっ!? その三人を!? 彼女たちは我が聖導教会でも屈指の聖女ではないか!」

「はい。彼女たちの命を捧げれば、きっと素晴らしい勇者を召喚できるはずです」

「だが彼女たちを失えば……」


 教皇は眉間にしわを寄せる。


「ですが、このまま手をこまねいているわけにはいきません。今回はかなりの数の村を浄化しましたから、今ここで滅ぼしておかねば魔族どもの報復は苛烈を極めるでしょう」

「ぐっ……だがいくら強い勇者を召喚し、洗脳してたとしても解除されてしまっては意味がない。みすみすこちらの手駒を減らすのは、魔族どもを利するだけではないのか?」

「はい。そのとおりです」

「ならば! あの勇者をもう一度!」

「いえ、不可能でしょう。魔族どもが素直にあの男をこちらに返すとは思えません。リリヤマールの忘れ形見を宛がい、こちらに復讐の刃を向けさせることだって考えられます」

「だが……」


 教皇は渋い表情となった。


「ですから、今回は大聖女クラウディアの協力をお願いします」

「何? だがクラウディアは……」

「問題ありません。聖導のしるしがございます」

「……何をさせるつもりだ?」

「簡単なことです。呪いによって無理やり行われた洗脳は解けます。逆に言えば、そうでなければたとえ呪いを解いたとしても洗脳が解けることはありません」

「何を……言っておるのだ?」


 直接の返答をしなかったルーカスに教皇は不審そうな表情を浮かべる。


「聖女アリシアとあのできそこないを利用し、実験を行いました」

「実験?」

「はい。聖女アリシアにはあのできそこないが、あのできそこないには聖女アリシアが理想の異性であると洗脳状態で言い聞かせたうえで、二人きりにさせました」

「なっ! 神に貞操を捧げた聖女を男と二人きりにさせたのか!?」

「はい。結果、聖女アリシアはあのできそこないの気を引こうとしていました」


 それを聞き、教皇は表情を曇らせた。


「ですが、あのできそこないはきっぱりと断りました」

「何?」

「どうやらあのできそこないには忘れられない女がいるようで、おそらくその相手はリリヤマールの忘れ形見でしょう。前回捕虜になった際に一目惚れでもした、といったところでしょうか」

「なんだと?」


 教皇はムッとしたような表情になったが、ルーカスは表情一つ変えずに言葉を続ける。


「次は使える勇者を召喚します。そして勇者は大聖女クラウディアに恋をし、大聖女クラウディアも勇者に恋をするでしょう。相思相愛となった勇者は人族の希望となり、邪悪なる魔族を自らの意志で滅ぼし、我々は平和を手に入れる。そういう筋書です」

「……そのようにうまくいくのか? 特にあのクラウディアは……」

「問題ありません。もうすでに仕込みは終わっています」

「何ッ!? 一体どうやって!」

「丁寧に説得をしただけです。大聖女クラウディアは神の教えに忠実であるがゆえに説得は容易でしたよ」

「……」

「あとは教皇猊下、あなたのご決断次第です」


 教皇は厳しい顔で押し黙ってしまった。


「自らの意志で魔族を滅ぼそうとするのであれば、聖域の奇跡は意味を成しません。そうして魔族は勇者の手によって浄化され、リリヤマールの忘れ形見は我らの手に戻るというわけです」

「……いいだろう。貴重な聖女を三人も潰すのだ。失敗は許されんぞ」

「もちろんです。我らの理想を実現させるためにも必ずや」


 そう言って執務室を出るルーカスを教皇は苦虫をみ潰したような表情で見送った。


 一方のルーカスはゾッとするほど冷たい笑みを浮かべていたのだった。


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 予約の設定に失敗しておりまして、本話は昨日(12/28) 公開予定のお話です。

 本日(12/29) 18:00 にもう一話更新する予定となります。

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