第100話 出生の秘密(2)
レックスがフォディナの町に到着すると、すでに町の外ではゾンビとの戦闘が発生していた。
「側面から火矢を射掛けろ!」
レックスの号令に従って騎兵隊が隊列を組んでゾンビの集団の横を駆け抜け、そこに次々と火矢を射掛ける。
火矢が命中したゾンビは体の一部が焦げ、そこから腐った肉が焼ける不快な臭いが漂い始める。
その臭いにおびき寄せられるかのようにゾンビたちがそちらへと向かっていく。
「うおおおおおっ!」
レックスはゾンビたちが集中している箇所に向かって火球を放った。サッカーボール大の火球がゾンビの群れの中に着弾し、瞬く間にゾンビを炭に変える。
「罠を作れ! おびき寄せて燃やせ!」
こうしてレックスはゾンビとの接触をできるだけ避けるように立ち回り、巧みにゾンビたちを町から離れるように誘導していく。
そうしてしばらくすると、町の守備隊から合図が送られてきた。
「よし! 準備は整った! 罠に誘導しろ!」
「はっ!」
レックスの率いる騎馬隊は動きを変え、今度は合図の送られてきたほうへとゾンビの誘導方向を変えた。
そして油の染み込んだ
やがてゾンビたちがレックスたちに釣られてその一帯に侵入したところで、火矢が放たれた。
するとあちこちで炎が燃え上がり、ゾンビたちを次々と燃やしていく。
あたりには腐肉が焼ける不快な臭いが立ち込める。
その臭いに釣られたゾンビたちが、まるで自殺をするかのように続々と火の中へ飛び込んでいく。
そんな光景があちこちで繰り広げられている。
「やれやれ。なんとかなったかな」
「殿下、お見事でした」
「いや、お前らの動きに助けられた。次もこの調子で頼むぞ」
「はっ!」
こうしてゾンビの襲撃を退けたレックスはフォディナの町へと入るのだった。
◆◇◆
フォディナの町も女王ソフィアの出産を前にお祝いムードとなっていた。そんな町の迎賓館でレックスは中年の男性から歓待を受けている。
彼はこの町の町長で、やや小太りで頭髪が大分後退しているものの、親しみやすい笑みを浮かべている。
「王配殿下、大変な時期にようこそお越しくださいました」
「いや、ゾンビが出ちまうのは私たち夫婦の個人的な事情でもあるからな」
「そのようなことは! 民の誰もがお世継ぎの誕生を心待ちにしているのです」
「そうか? そう言ってもらえるとホッとするよ」
レックスはそう言ってふっと大きく息を吐いた。
「にしても、結構被害が出たな」
「はい。当初は千ほどだったのですが、最終的には万を越える数になっていたようです」
「いくらソフィアが聖域の奇跡を展開していないからといって、そんなにすぐにゾンビは湧かないはずなんだがな」
「ええ、そうですよね。私もおかしいと思っているのですが、さっぱり原因が……」
「ああ。だが放っておくわけにはいかないだろう」
「調査をしていただけるので?」
「当然だ。突然こんな数のゾンビが湧くなんてただ事じゃない」
「ですが、ソフィア様がご回復なされば……」
「まあ、そうなんだがな。だが明らかな異常事態だ。何かあるなら調べておきたいし、それに誕生日にゾンビが出たなんざ、娘が可哀想だからな」
「ああ、さようでございますか。はは、殿下も父親の顔をされるようになりましたなぁ」
「んっ? そうか?」
「ええ。お二人の愛に包まれてすくすくとご成長あそばれる姫様のお姿が思い浮かびます」
町長はそういって優しい笑顔を浮かべた。
「ああ、そうだな。そうだといいな。いや、私が必ずそうしてみせる!」
「ええ、その意気でございます」
町長の言葉に、レックスは満更でもない表情を浮かべたのだった。
◆◇◆
翌日、レックスたちがゾンビのやってきた北側を調査しようと準備をしていると、血相を変えた町長が飛び込んできた。
「どうした?」
「大変でございます! シェウミリエ帝国が! 攻めて参りました!」
「なんだと!?」
「その数なんと十万! 東門はすでに破られ、もはや防衛は不可能でございます」
「な、なんということを……」
「殿下! どうか殿下だけでもお逃げください! 殿下の御身にもしものことがあれば陛下は!」
「ぐ……」
レックスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、小さく頷いた。
「分かった。私が脱出すればすぐに投降しろ。無駄に犠牲を出す必要はない。いいな?」
「ははっ! 必ずや!」
町長がそう答えたのを確認すると、レックスは迎賓館の中へと戻っていった。そして秘密の脱出用通路を通り、町を脱出するのだった。
その様子を見送った町長はぼそりと呟いた。
「ああ、お生まれになる王女殿下のお姿を一目でいいから拝見したかった……」
◆◇◆
レックスたちが脱出してしばらくすると、フォディナの町の東門が破壊され、シェウミリエ帝国兵たちが次々と乗り込んできた。
彼らは口々に叫んでいた。
「神を信じぬ悪魔どもを殺せ!」
「魔族の信奉者どもに死を!」
シェウミリエ帝国兵は住民たちを手当たり次第に殺害し、そしてあちこちに火を放つ。
燃え盛る家から出てくる住民をシェウミリエ帝国兵は次々と殺していく。
こうして世継ぎの誕生を前に喜びに包まれていたフォディナの町は徹底的に破壊され、その住人のほぼ全てが虐殺されたのだった。
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