第5話 それはまさかのプロポーズ?
「ところで翠ちゃん。ここ、オリンポスでは日本の戸籍制度を踏襲してますが、ご存知ですか?」
「はい?」
こいつは何が言いたいのだろうか。プルトニウムの盗難事件が発生し捜査していた。そして事件は市長を陥れる為の奸計で、その市長の正体が紅葉だった。
私自身、相当混乱していると思うのだが、それでも日本の戸籍制度がこの事件と全く関わりがない事だけは理解できる。
私はトリニティを見つめる。彼はニコニコと笑いながら、再び壁のパントマイムを披露した。どうやら四方を壁に囲まれている演義らしい。
「要するに、オリンポスでは夫婦同姓なんですよ。翠ちゃんはご自身の姓、
青天の霹靂。
寝耳に水。
馬耳東風?
いや、最後のは違うだろう。
とにかく、目から何枚もの鱗が剥がれ落ちた気分だ。
そうか。そうだった。
あの、超恥ずかしい姓を合法的に、しかも幾多の祝福をも浴びながら変更できる手段があったのだ。
それは結婚。
私は今まで、それを全力で回避してきた。
「ところで翠ちゃん?」
「?」
やや背が低い高校生だった紅葉の姿が、長身でグレーの頭髪のトリニティ市長へと変化していた。
これは魔法?
何なんだ?
まるでキツネにつままれたかのような状況に、私は言葉を失ってしまった。
紅葉は、いや、トリニティ市長は座り込んでしまった私に右手を差し出した。私は彼の手を握り、よろよろと立ち上がる。
「さあ、盗品を押さえに行きますよ」
「はい……」
やっとそれだけが言えた。憧れのトリニティ市長に手を握られどうにかなってしまいそうだ。
そして彼がつぶやく。
「結婚の件、前向きに検討してくださいね。約束ですよ」
こ、これは!
プロポーズされたのか?
彼の言葉に私の脳内は弾け飛んだ。幾つもの閃光が煌めき、その中でバラ色のウェディングシーンが映像化された。ウェディングドレスに包まれた私を彼が抱きしめ、彼の唇が私の唇へ触れる。この溢れる幸福感に溺れてしまった私はその場で気を失ってしまったらしい。
プルトニウムはもう、どうでもよかった。
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