第4話 オリンポス市長と権謀術数


「耳よりな情報があるの。あの、プルトニウムを盗んだ犯人はグラディエーターよ」


 狐耳のビアンカが窃盗犯の情報を話し始めた。グラディエーターとはオリンポス市内で悪さをしている半グレのチンピラ集団だ。既に都市警察からはマークされているはず。しかし、この件はレッドフォックスの犯行ではなかったのか。


「上手く情報操作してたんだよ。そしてレッドフォックスに罪を被せた」

「なるほど」

「ムカツクよね」

「そうだな」


 親しげに話している紅葉とビアンカだ。しかし、どうして彼女がこんな情報を持っているのか。


「あの……ビアンカちゃん? 何故そんな事を知ってるの? レッドフォックスの事も知ってるの?」

「あはは。それはね、私たちがレッドフォックスだから」

「私たち?」

「そう。私と紅葉トリニティがレッドフォックスなのです」

「え?」


 マジでびっくりした。


 コスプレ少女と紅葉がレッドフォックスだったとは。その紅葉と私が組んで遺失物捜査をしていたとは……こういうのを驚天動地きょうてんどうちって言うんだろうな。

「あー。みどりちゃん、騙すつもりはなかったんだよ。この件は僕も知らなかった最新情報さ」

「そうそう、最新情報。ミニスターをコキ使って情報収集したんですよ」

「ミニスター。報告を」


 紅葉の呼びかけに応じて付近の空間が歪み、その中から白人の少年が姿を現した。


「本当に人使いが荒いんだから」

「アンタ、AIでしょ」

「AIにも人格はあるし人権だって尊重されるべきなんです」

「そんな与太話は聞こえない。さっさと報告して」


 人格化したAIが実体化して長時間労働に対して苦言を呈しているのだが、その上司はそれをまるっと無視している……のだろうか。このコスプレ少女はあのくそババアより性質が悪いのかもしれない。

 不機嫌そうな表情のままミニスターが報告を始めた。


「一見、テロリストの犯行に見せかけていますが、政治的な権謀術数であると断定します」

「詳細を」

「はい。今回、グラディエーターを雇ったのは副市長のアヤベ女史です。半年後の市長選に備え、トリニティ市長の失脚を狙った犯行です」

「ほう。私をテロリストに仕立てると?」

「肯定します」


 少年の言葉に紅葉が頷く。


 待て。

 ここ、火星連邦首都オリンポスの市長はトシ・トリニティ。彼は政治家でちょっと年食ってるが「お父さんにしたい人ランキング」で常にトップクラスのイケメンである。私が密かに憧れている人物だ。目の前にいる紅葉とは似ても似つかない。いや、顔は似ている気もするが、身長はかなり低いし親子ほどの年齢差があって同一人物とは思えない。しかし、先ほど紅葉は自分の事を市長と言った。


 混乱して何の事かわからなくなった私は、その場に座り込んでしまった。マジで困った。 


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