最終話:今後の予定

「「宴の始まりだよー! かんぱーい!」」

「「かんぱーい!」」


 私たちは今、王宮の広場にいる。

 魔王を討伐し、国中を上げての大きな宴が開かれていた。

 周りには“クルモノ・コバマズ”の冒険者、門下生、王国騎士団……などなど、私と関わった全ての人たちがいる。

 みんな笑顔で楽しそうに騒いでいた。

 息つく間もなく、たくさんの料理や飲み物が持ってこられる。

 どれもこれも大変に豪華だった。


「なんか、ここまでしてもらうなんて申し訳ないですね」

「何を仰いますか! キスククア嬢のおかげで魔王は討伐できたのですぞ! これくらいのことはさせてください!」


 国王陛下が率先して食べ物を渡してくれる。

 私は玉座と同じ高さの椅子に座らされていた。

 ほとんど王様と同じ扱いだ。

 あまりの高待遇に、さっきからずっとドキドキしている。


「キスククア嬢は国の英雄になられたんですから、もっと堂々として良いんですぞ」

「そうだよ、キスククア君は王国で一番の功労者なんだから」

「“クルモノ・コバマズ”からこんな素晴らしい冒険者が出るなんて……アタイも嬉しくて涙が出るよ」

「キスククアお嬢様の元に来られて、私たちも本当に幸せでございます」


 しきりに持ち上げられるので、あははと誤魔化しているときだった。

 急に広間の外が騒がしくなってきた。


「ど、どうしたんでしょう」

「おや、もう来てしまったようですな」


 扉がガチャッと開き、たくさんの人たちが流れ込んできた。

 みんな、どことなくジャナリーに似ている雰囲気だ。

 手にはペンと本を抱えている。


「え? あの人は誰ですか?」

「ボクがいた記者ギルドの人たちだよ! ボクの新聞を送ったら、ぜひキスククア君を取材したいってさ!」

「そうなんだ、ジャナリーがいたところの記者たちか。でも、あの人たちが来ちゃって大丈夫なの?」


 彼女に初めて会ったとき、追い出されたと聞いていた。

 過去の嫌な記憶が蘇ってしまうのではないだろうか。


「いや、もう昔のことは気にしていないよ! ボクの実力は彼らを超えてしまったからね!」


 ジャナリーは鼻高々だ。

 どうやら、無駄な心配だったらしい。

 そうこうしているうちに、四方八方を記者に囲まれる。


「「キスククアさん! あなたにとって<かかと落とし>はどんな存在ですか!?」」


 ずいずいずいっと、迫られる。

 みんなワクワクしていた。

 私にとっての<かかと落とし>か……。

 

「…………人生……ですかね」

「「おおお~! なんて深いんだ!」」


 答えを聞いて、記者たちは猛烈なスピードで書きまくる。

 私の人生は<かかと落とし>のスキルを授かったときから始まったような気がする。

 このスキルを貰ったからこそ、ジャナリーに会えて、プランプさんに会えて……みんなに出会えたのだ。

 外れの力でも、ましてやゴミなんかじゃない。

 私にとっては大事な宝物なんだ。


「キスククアちゃんのおかげで平和が訪れたよ! どんなに感謝してもしきれないね!」

「これで安心して暮らせるよ! 本当にありがとう!」

「キスククアお嬢様は全世界の救世主となられました! 私たちはこれからもついていきます!」


 入れ替わり立ち替わり、色んな人がお礼を言いに来てくれる。

 中には涙を流している人までいた。

 少しずつ、自分の行いが皆を救ったのだと実感してきた。


「うっうっ、ボクもキスククア君の活躍を思い出すと涙が止まらないよ」


 その中でも、ジャナリーが一番涙を流していた。

 何より、彼女がいたからここまで来れたような気がした。

 そっと、ジャナリーの手を握る。


「ありがとう、ジャナリー。私についてきてくれて」

「キスククア君……ボクこそお礼を言わせてよ。キスククア君のおかげで、これからもボクたちは平和に暮らしていける。本当にありがとう」


 私たちは堅い握手を交わした。

 この日のことは、これからも絶対に忘れることはないだろう。


「キスククア君はこれからどうするんだい?」

「これからか……」


 ジャナリーに聞かれ、今後のことを考える。

 そういえば、魔王を倒した後のことは何も考えていなかった。

 ずっと、父親似のあいつをぶちのめすことしか頭になかったからなぁ。

 今まで通り、クエストをこなしていく日々でも良いかも。

 そんなことを考えていたら、リフさんがやってきた。


「もし、キスククアさんがよろしかったら、僕たちと一緒に魔王軍四天王を倒してくださいませんか?」

「魔王軍四天王ですか?」


 そういえば、魔王軍にも四天王がいたっけ。

 魔王に劣るとも劣らないとも言える、恐ろしく強い4体のモンスターたち。

 正直なところ、私はあまり気乗りしなかった。

 ぶっちゃけ魔王を倒してスッキリしたからな。

 その反面、目標を達成してちょっと寂しい気もする。


「キスククアさんがいらっしゃれば、どんな敵も敵なしだと思うんです。あ、これは別に面白いことを言おうとしたわけじゃなくて……」

「私なんかがいても役に立つとは思えませんが」

「そう言わずに、ぜひお願いします。こいつらを倒さないと、真の平和は訪れないのです」


 勇者さんが一枚の紙を見せてくれた。

 タイトルには魔王軍四天王一覧と書いてある。

 似顔絵か。

 どれどれ……ん?

 似顔絵をみていると、私はその顔に釘付けになった。


――……四人の兄と似ているんだが?

 

 いや、こんなことあるのか?

 揃いもそろって私の家族と似ているなんて。

 だが、見れば見るほどそっくりだ。

 彼らが変装していると言われてもおかしくないほどだった。


「あの、確認なんですが、こいつらは元は人間だったとかないですよね?」

「ははは、何を言ってるんだい、キスククア君。モンスターたちの元が人間だなんてあり得ないじゃないか」


 そして、その顔を見ていると、忘れかけていた怒りが沸々とわいてきた。

 長兄には私がまだ6歳の頃、遊び半分でモンスターの巣に放り込まれた。

 次兄には毎日のように崖の上から突き落とされた。

 次次兄には1日3回魔法攻撃の練習台にされていた。

 次次次兄には日常的に袋叩きにされていた。

 忘れてかけていた怒りが沸々と湧いてくる。


「許せませんね、こいつら。今すぐにでもぶちのめしたくて仕方ありませんよ」

「「おおお~、さすがはキスククアさん(君)だ!」」


 周りの人たちは、また謎に盛り上がっている。

 どこかで見たような光景だった。

 一転して、リフさんが険しい顔で話す。


「しかし、魔王の部下と言えども相手は四天王です。ほとんど魔法と同じ力を持っていると考えて間違いないでしょう」

「大丈夫です、何も問題はありません。私が絶対に四天王を倒します」

「「おおお~!」」

「これでまたキスククア君の素晴らしい記事が書けるんだね! ボクはなんて幸せなんだ!」


 みんなが盛り上がる中、私は拳を握りしめる。

 私の冒険はまだまだ終わらないのだ。

 これからもよろしくね、みんな。



◆◆◆

最後までお読みいただきありがとうございました!

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かかと落とし令嬢はチートな踵で無双する~空前絶後のゴミスキルと追放されたけど、即死を楽しんでるだけで感謝されます。私の美しいフォームに魅せられ、国中の超絶優秀な人材が集まり実家は崩壊しました~ 青空あかな @suosuo

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