第42話:途方もない快感
「覚悟しなさい、このクソ親……魔王!」
「お前の命も今日限りだ!」
『はっ、ずいぶんと威勢のいい小娘と小僧だな。いいだろう、一撃で殺してやるわ! <クルーセル・フレア>!』
巨大な黒い火の玉が猛スピードで私たちに襲い来る。
放たれた瞬間、室内の気温が上がった。
かなりの高温らしい。
「キスククアさん! あいつの攻撃は僕が防ぎます! 僕を盾にして、あの素晴らしい一撃を喰らわせてください!」
「はい! わかりました!」
「<セインティア・マイティーインパクト>!」
リフさんの聖剣からキラキラと輝く衝撃波が放たれる。
黒い火球に勢い良く当たると、木っ端みじんに打ち消した。
あれも気持ちよさそうな技ね……じゃなくて!
魔王に向かって猛然と突き進む。
「がんばれ、キスククア君ー! 頼む、魔王を倒してくれー! 人類が幸せになれるかどうかは、君にかかっているんだー!」
ジャナリーは巨大な柱の影に身を隠している。
魔王城に安全地帯があるのかわからないが、彼女がいるからきっとそうなんだろう。
『我に歯向かうとはいい度胸よ! 消えてなくなるがいい! <クルーセル・フレアメテオ>!』
魔王の指先から無数の火球が飛んでくる。
全てを躱しきるつもりで避ける。
『ほぅ、これを躱すか!』
「キスククア君の身体能力は人の領域を超えているぞー!」
私は幼少期からずっと無理矢理鍛錬させられていた。
もはや、半分いじめだったけど。
嫌で嫌でたまらなかった。
だけど、その努力が今ここで活かされていると思うと不思議だった。
『ぐっ……身軽な……!』
「そのまま進んでください! キスククアさんが攻撃するとき、僕が魔王の動きを一瞬止めます!」
火球は縦横無尽に襲い来る。
軌道は自由自在で予想は難しかった。
それでも、私だって色んなクエストを経験してきたんだ。
避けきることは造作もない。
「いっけー、キスククアさん! あなたの強さを魔王に見せつけてください!」
『チィッ! なぜ当たらないんだ! 我の攻撃だぞ!』
魔法に疎い私でも、繰り出される攻撃は膨大な魔力を使っていることがわかる。
いくら城からエネルギーを得ているといっても、常に供給されていないと賄えないはずだ。
魔王は大地から無限の魔力を得ている。
だけど、その弊害として“魔王の間”はおろか、椅子から動くことさえできないのだ。
さっきから遠距離攻撃が主体なのも、きっとそれが原因だろう。
「はああ! <セインティア・パラリシス>!」
『ぐっ……体が動かん!』
リフさんの聖剣から、金色の光が迸る。
魔王をグルグル巻きにして動きを止めた。
今がチャンスだ!
思いっきり右脚を振り上げた。
全身の力をかかとの先に集中させる。
その瞬間、魔王の顔が引きつった。
『き、貴様、それほどの力をどうやって手に入れた!? や、やめろ、やめろおおおお!』
「私が今までどれほど苦しんだかわかっているのか、このクソ親父いいいい!!!」
『ぐわああああああ!』
渾身の力でかかとを振り落とす。
今までで一番の全力を出した。
かかと落としなんてもんじゃない、もはや隕石を落とす勢いだ。
骨がひしゃげて、脳みそが飛び散る。
その瞬間、私は天国にいるのかと錯覚した。
――と、途方もない快感だ……。
体中を激しい快感の電流が流れて意識が薄れる。
こいつはヤバい。
私は快楽の海に深く深く沈んでいく。
「キ……キスククア君の勝利ー!! みんなー、キスククア君が……キスククア君が魔王を倒したよー!!」
ジャナリーの涙声がうっすらと頭に響く。
だが、私は快楽の海に沈んでいくばかりだ。
「「やったー、キスククアさんが魔王を倒したぞ! 俺たちの勝利だ! って、キスククアさん! 大丈夫ですか!?」」
王国騎士団の一行も駆け寄ってきた気がする。
おそらく、魔王が倒されてモンスターたちは逃げてしまったのだろう。
心地よさで頭が朦朧とする。
これほどまでに気持ちいい感覚は初めてだ。
「大変だ! キスククア君がぼんやりしちゃってるよ!」
「「きっと、全ての力を使われたのです!」」
みんなが私の肩をガクガクと揺すっている気がするけど、そんなことはどうでもいいよ。
あまりの気持ちよさに気絶しそうだ。
「キスククア君! しっかりするんだ!」
やがて、ジャナリーの声で現実に戻ってきた。
「あ、あれ……? 私はいったい……?」
「キスククア君は意識が失ったかのように茫然自失としていたんだよ。でも、良かった、意識を取り戻して」
ジャナリーはうるうるとした目で私を見ていた。
リフさんも安心した様子でみんなを集める。
「さあ、みんなでキスククアさんを胴上げしましょう! 我らが人類の救世主の誕生ですよ!」
「「わああああ!」」
「え、いや、あの、ちょっと……」
あっという間に、私の周りに討伐隊が集まってきて胴上げされる。
「「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! キスククア、ばんざーい!」」
ついに、私は魔王(父親似)をぶちのめしたのだ。
かつてないほどの爽快感を感じる。
こんなに気分が爽やかなのは初めてだ。
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