第41話:いざ、魔王城へ

「みなの者、覚悟はできているな?」

「「はい、もちろんです……!」」


 その後、私たちは魔王城近くまで来ていた。

 城から少し離れたところにうっそうとした森があり、そこに身を隠している。

 王国騎士団には転送魔法が使える人もいて、準備ができ次第ここまで転送してもらったのだ。

 向こうに見える魔王城は王宮よりひと際大きい。

 所々の尖った屋根がとても禍々しかった。

 全体に木の根っこみたいな模様が入っていて、ドクドクと脈打っている。


「キ、キスククア君~大丈夫かなぁ。とうとう魔王城まで来ちゃったよぉ」


 さっきから、ジャナリーは私のドレスを掴んで震えている。


「みんなと一緒に待っていれば良かったのに……」

「ボクは勢いだけはあるけど、後のことはあまり考えないんだ」


 周りには王国騎士団の一行以外にも、“クルモノ・コバマズ”の冒険者や門下生たちもチラホラいる。

 みんな、Aランクではないけど、ダーリーさんに力を認められたのだ。

 もちろん、ガッツさんも来ていた。

 みんな今まで以上に真剣な顔だ。


「みなの者、良く聞け。魔王は最上階にある“魔王の間”にいることが確認されている」


 ダーリーさんが魔王城を指しながら最後の確認をする。

 

「我々の目標は魔王だけだ。魔王は大地から無限にエネルギーを供給できる。元より、長期戦はこちらの不利だ。そこで、私の防御魔法を使って一点突破する。みなの魔力を一塊とし、強固な鎧のようにして敵の攻撃を防ぎつつ最上階へ走り抜ける」


 こちらの戦力は手練れが揃っているとはいえ、無用な戦いは無い方がいい。

 ダーリーさんの作戦にはみんなが賛成していた。

 王国騎士団の一人が尋ねる。


「ですが、団長。魔王が城内の別の場所にいる可能性もないでしょうか?」

「その点は心配ない。魔王は城全体から大地の魔力を吸収している。普段から強大なエネルギーを得ているが、その反動として“魔王の間”から出ると非常に弱ってしまうのだ。“魔王の間”にいると確信して問題ない」


 どうやら、王国騎士団は大変に長い時間をかけて、細心の注意で情報を得てきたらしい。

 だから、こうして事前に作戦をたてられたのだ。


「<アーマー・オブ・エブリワン>発動! みなの者、私の周りに集まれ!」


 ダーリーさんを白っぽい光が囲む。

 私たちも近づくと、討伐隊の全員がバリアに包まれた。

 魔力が体から少しずつ放出されていくのを感じる。

 一人一人の魔力は少ないが、集めたエネルギーは大きな塊となった。


「よし、行くぞ! 目指すは魔王のみ! 他のモンスターは相手をするな! “魔王の間”目指して一点突破だ!」

「「はい!」」


 それを合図に、私たちはいっせいに駆け出した。

 勢い良く城門を目指す。


『『ギギガアアア!』』


 森から出た瞬間、見張りのモンスターたちがいっせいに襲いかかってくる。

 だけど、ぶ厚いバリアが全ての攻撃を弾いてくれた。

 あっという間に魔王城へ近づく。

 すぐ目の前の城門は堅く閉ざされていた。

 おまけに、結界の魔法陣が貼られている。


「リフ殿! お願い申す! 結界ごと城門を砕いてくれ!」

「はい! <セインティア・マイティースラッシュ>!」


 リフさんの聖剣が光り輝き、巨大な斬撃となって城門を木っ端みじんに砕いた。

 かなり爽快感がある光景だ。

 いいなぁ、気持ちよさそうで……。

 武器で敵を破壊するのも、なかなかに気分がスッキリしそうだった。


「「さすがは、リフ殿だ! よし、この勢いのまま突っ切るぞ!」」


 魔王城に入り、一塊のまま階段を登っていく。

 モンスターたちの攻撃を防ぎつつ、リフさんに尋ねた。


「最上階までの道がわかるんですか?」

「僕たちは何年もかけて偵察して、少しずつ情報を集めてきたのです!」


 1階、2階、3階……と、一塊になって最上階へ向かう。

 みんなで魔力を集めているので、バリアもすごく頑丈だ。

 全員で一丸となり、モンスターたちを弾き飛ばしていった。

 あっという間に“魔王の間”まで着いた。


「よし、みなの者。ここが“魔王の間”だ! 全員で魔王を倒すぞ!」

『『ガアアア! ゲアアアア!』』


 しかし、弾き飛ばしたモンスターが後ろからやってきた。

 このままじゃ挟み撃ちにされてしまう。


「ぐっ……ここは私たちが引き受ける! リフ殿、キスククア嬢! 何としてでも魔王を倒してくれ!」


 モンスターの群れは、ダーリーさんたちが引き受けてくれた。

 すぐに戦闘が始まったようで、激しい戦いの音が聞こえてくる。


「行きましょう、リフさん!」

「はい、絶対に勝ちますよ!」

「ひぃぃぃ、ボクはもう気絶しそう」


 重厚な扉を開ける。

 奥には大きな椅子が一脚だけ置いてあった。

 そして、そこに座っているのが……。


『ふんっ……ここまで来れたことだけは褒めてやろう。だが、この快進撃もここまでだ』


 みんな、声の主を見て息を呑んでいる。

 緊張を跳ねのけるように、リフさんが声を張り上げた。

 

「これ以上貴様の自由にはさせないぞ! 僕達がどれだけ恐怖を感じているかわかっているのか!」

「キ、キ、キ、キスククア君……! あ、あ、あいつが……!」


 もはや、ジャナリーは緊張しすぎて言葉になっていない。


「大丈夫、落ち着いて。ここまで来たら自分にできることをするだけだわ」


 私は目の前のそいつを睨みつける。

 人間よりもずっと大きな体に、頭の横からうねるように生えた2本の角。

 そして……父親に似た、赤くてギョロリとした性格の悪そうな目……悪人みたいな笑みが染みついた表情……灰色のくすんだ髪……。

 待ち望んでいた日がやってきた。

 いよいよ、魔王(父親似)との対決だ。

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