第38話:王国騎士団にスカウトされる
「キ、キスククア君、あの人達は王国騎士団だよね。どうしてこんなところに来たんだろう?」
「「お、俺たちに何か用かな……」」
ジャナリーだけじゃなく、他の冒険者や門下生たちもうろたえていた。
王国騎士団に会うことなど滅多にない。
私も少なからず緊張していた。
「どうして王国騎士団がこちらに……?」
恐る恐る尋ねる。
すると、先頭にいた初老の男性が前に出てきた。
「私は団長のダーリーと申します。“クルモノ・コバマズ”の冒険者の方々ですかな? ギルドマスターの方はどちらに?」
灰色っぽい白髪に、髪と同じグレーの瞳が優しそうな印象だ。
年は重ねていそうだったけど、その体はがっしりしている。
プランプさんも緊張しながら前に出てきた。
「ア、アタイがギルドマスターのプランプだよ」
「そうでしたか。この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ない」
ダーリーさんは頭を下げる。
すると、王国騎士団のみなさんも首を垂れた。
よく見ると、みんな体がボロボロだ。
所々血が出たり、鎧も壊れていたりしている。
「我々はグロリアスドラゴンの討伐に向かっていたのですが、どうやら2体いたようで……。そのうちの1体は仕留めたのですが、もう片方を取り逃してしまったのです。誠に不甲斐ない! 今が一番大事なときなのに……!」
「ほ、ほら、頭を上げなよ。グロリアスドラゴンは無事に倒せたからさ。みんな、手当するよ!」
「か、かたじけない……!」
プランプさんが慌てて指示を出して、みんなで治療を始める。
ジャナリーが小声で話しかけてきた。
「キスククア君、グロリアスドラゴンは王国騎士団が戦っていた相手だったんだね。だから、“クルモノ・コバマズ”まで飛んできたんだ」
「そうみたいね。騎士団の人たちも倒すのには苦労していたみたい」
ひとしきり治療が終わり、グロリアスドラゴンの死体を確認することになった。
「……治療までしていただき誠にありがとうございます。さて、先ほどグロリアスドラゴンを一撃で葬ったお嬢さんに、ぜひお話を伺いたいのですが……」
「キスククア君ならここにいるよ! ほら、キスククア君、早くおいで!」
「わ、わかったから、そんなに押さないでって」
ジャナリーにぐいぐいぐいっと押され、騎士団の前に出てきた。
ダーリーさんが握手してくれる。
「グロリアスドラゴンを倒してくれて本当にありがとう。改めて礼を申し上げる。そなたの一撃は誠に素晴らしかったですぞ。あなたも冒険者ですかな?」
「はい、“クルモノ・コバマズ”にお世話になってまして、キスククア・カカシトトーと申します」
「「え! カ、カカシトトー家のご出身なのですか!?」」
王国騎士団はしきりに驚いている。
そして、互いにひそひそ相談していた。
父親たちのことだ。
もしかして、私の実家が迷惑をかけているのでは……。
「あ、あの、何かあったんですか?」
「レインソンス伯爵が約束を破ったせいで、魔王討伐に向けた戦力が確保できず困っていたのです。団員候補になるはずの門下生が一人もいないとか……。おまけに、彼が行っていた異常な鍛錬なども問いただされている状況でございます」
……いや、マジか。
あの父親は何をやっているんだ。
そんなことされたらすごい迷惑をかけるだろうに。
きっと、調子に乗って大口を叩いていたんだろう。
私が呆れている間にも、ダーリーさんたちは慎重に死骸を確認している。
「す、すごい……あのグロリアスドラゴンが真っ二つだ。あなたはリフ殿に匹敵するほどの力の持ち主ですな」
そのとき、騎士団の奥から一風変わった男性が出てきた。
「いや、団長。グロリアスドラゴンが相手では、僕でも難しいかもしれません」
騎士団に比べるとずいぶんと華奢な人だ。
しかし、その体からは強者にしか見られないオーラが出ている。
もしかして、この人は……。
「紹介が遅れてしまいましたな。彼は勇者のリフ殿ですぞ」
さらりとした金髪に海のような青い瞳。
どこかの偉い貴族のような見た目だ。
背丈は私と同じくらいだった。
華奢に見えたけど、やはり鍛えているのだろう。
服の上からでも薄っすらと筋肉の盛り上がりが見えた。
「初めまして、キスククアさん。私は勇者に任命されたリフと申します。先程の素晴らしい一撃を見させてもらいましたよ。あまりの強さに鳥肌が立ちました」
「いや、それほどのことでは……」
リフさんとも握手を交わす。
思ったより力強い手だった。
「それで、キスククアさんはどのようなスキルをお持ちなのですか?」
「……え? ス、スキルですか? ど、どうしてそんなことを……」
「あんなにすごい能力は、今まで見たことがありません! ぜひ、あなたの力を教えてください!」
「「そうですよ! 私たちにも教えてください!」」
リフさんを筆頭に、騎士団のみなさんまで集まってくる。
大変にキラキラした目だ。
どこかでこのような光景を見た気がする……。
今度は一回で伝えきりたいので、少し大きな声で白状した。
「か……<かかと落とし>……です」
「「<かかと落とし>!?」」
みんなとにかく驚いている。
やっぱり、この反応はすごく恥ずかしい。
「団長、キスククアさんにも魔王討伐部隊に入っていただくのはいかがでしょうか」
「え!? 私がですか!?」
突然、リフさんは予想もしないことを言った。
それを聞いて、ダーリーさんは顎に手を当てて考え込んでいる。
「ふむ、たしかにそれは良い考えだ……先ほどのグロリアスドラゴンを倒したのは素晴らしい一撃だった」
「団長、彼女は他の誰にもないような力を持っています。カカシトトー家からの戦力が期待できなくなった今、少しでも優秀な人材を集めるべきです。キスククアさんの<かかと落とし>は絶対に役立つはずですよ」
「で、でも、討伐隊に入るにはAランク以上の冒険者じゃないとダメなんじゃ……?」
入りたいのはやまやまだけど、私はまだBランク冒険者だ。
「プランプ殿。キスククア殿の冒険者ランクはいくつですか?」
「グロリアスドラゴンの討伐がカウントできるなら、キスククアちゃんはAランクになりましたよ」
「ほんとですか、プランプさん!」
そうか、さっきの戦闘レベルはAランククエストと一緒なんだ。
プランプさんは笑顔でグットサインをしてくれた。
「それなら何も問題はありません! キスククアさん、ぜひ僕たちと一緒に魔王討伐へ向かってください。あなたのお力が必要なのです」
「我らが魔王討伐計画を進めているのと同じように、魔王軍も人類制服計画を進めています。四天王を各地に派遣して領土を広げようとしています。ですが、これはチャンスです。四天王が不在のところを我々は狙う予定なんです。ぜひ、我らに力を」
リフさんも騎士団のみなさんも、本当に真剣だ。
魔王相手では戦力がたくさんいるに越したことはない。
何より、私の目標がすぐそこまで来たのだ。
「はい、もちろんです。私の力が役に立てば、何より嬉しいです」
「ありがとうございます、キスククアさん! あなたがいれば百人力……いや、千人力どころか万人力ですよ!」
「「やったー! キスククアちゃん (君)が魔王討伐隊に選ばれたぞ!」」
門下生や冒険者たちも嬉しそうに喜んでくれている。
中でも、ジャナリーがひと際喜んでいた。
ということで、私も王国騎士団に同行することになった。
いよいよ、ずっと待ち望んでいた魔王(父親似)との対決だ。
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