第35話:凶暴なドラゴンが襲来した

「さて、今日もクエストに行くのだけど……そういえば、私の冒険者ランクはどうなったんだろう?」

「キスククア君ならAランクどころかSランクでもおかしくないね」


 今までランクを確認する暇もなく、ずっとクエスト一筋だった。

 <かかと落とし>の爽快感にハマってしまい、冒険者ランクのことは特に確認していない。

 一番大事なことなのに私としたことが……。

 まぁ、しょうがないか。

 それほど、<かかと落とし>には中毒性があるということだ。

 

「さっそく、プランプさんに確認してもらおうかな」

「ボクの勘だけどSランクになっているのは間違いないね! もしかしたらSSランクかも……そんなレベルの冒険者は人類が誕生して初めてのことだよ!」

「ちょ、ちょっとやめてよ。まだ確認すらしていないんだから」


 カウンターに行くと、いつものようにプランプさんがいた。


「おはよう、キスククアちゃん。今日もクエストかい?」

「はい、そうなんですが……その前に確認したいことがありまして。プランプさん、私の冒険者ランクってどうなっていますか」

「ああ、冒険者ランクだね。ちょっと待ってて、今計算するから」


 プランプさんはペンでさらさらと書いていたかと思うと、すぐに笑顔になった。


「キスククアちゃんのランクはBだよ! しかも、もう少しでAランクになれそうだね」

「え、ほんとですか!?」

「ああ、ほんとさ。それにしても、こんな早くランクを上げていく冒険者は初めてだね。Bランクになるには、最低でも1年はかかることが多いのに」


 やった。

 Bランクになれた。

 クエストを着実に達成してきたおかげだ。

 ここまでくればAランクまであとちょっとだ。


「キスククアお嬢様! Bランクになられたのですか! もうそれほどまでに力をつけられたんですね!」

「え?」


 気がついたら、ガッツさんを筆頭に門下生たちが集まっていた。

 

「さすがはキスククアお嬢様ですね! 冒険者になって間もないというのに、もうBランクですか!」

「きっと、今まで努力されてきたことが実を結んだんですね! 私も嬉しいです!」

「俺たちでさえまだCランクでまごついているのに! なぁに、すぐに追いついて見せますよ!」


 もちろん、門下生も手練れの集まりだ。

 だけど、彼らは互いにパーティーを組んでいるので、その分ランクの上昇が遅いのだろう。

  

「プランプさん、これからもクエストを達成していけばAランクになれるんですか?」

「ああ、そのことなんだけどね。Aランク以上の冒険者だけちょっと条件があるんだ」

「条件……ですか?」


 何やら含みのある言い方だった。

 ただクエストを達成するだけじゃダメなんだろうか。


「Aランク以上のクエストを、最低1つは達成しないといけないのさ。やっぱり、Aランク冒険者は別格だからね」

「へぇ~、そうなんですか。というか、そりゃそうですよね。強いって証明しないといけないわけですし」

「もちろん、Bランクも十分に難しいクエストなんだけね、Aランク以上は別なのさ。モンスターの強さもグッと段違いになるよ」


 ここまでは順調に来れたけど、むしろこれからが本番のような気がしてきた。

 気持ちが引き締まる思いだ。

 そうだ、プランプさんはAランク以上って言ってたけど……。

 

「ランクにはAより上があるんですか?」

「あるにはあるんだけどね。Sランク冒険者なんていったら、もはや半分伝説上の存在だよ。ここ数十年は現れていないレベルさ」

「そんなにですか……たしかにほとんど伝説ですね」

「そもそも、モンスターだって高ランクになるほど種類が少なくなっていくものなんだよ」


 そう言いながら、プランプさんはモンスター図鑑を見せてくれた。

 Aランクに近づくほど、ページが薄くなっていく。

 どうやら、モンスターもAランク以上のヤツは見かけることも少ないらしい。

 ジャナリーは余裕そうな顔で図鑑を眺めていた。


「もちろん、魔王を倒したらSランクは確定だろうね。キスククア君なら簡単になれそうだ」

「せっかくここまで来たんだから、最後までしっかりやらないと。私はAランクを……いや、Sランクを目指します」

「「おおお~!」」


 私の目標は父親のつもりで魔王をぶちのめすことだ。

 ただそのためだけに、今まで頑張ってきた。

 <かかと落とし>のおかげで、だいぶストレスは解消されている。

 だが、やっぱりまだ心はスッキリしないのだ。

 この鬱憤を晴らしたい。

 そんなこんなで話していたら、他の冒険者たちも集まってきた。


「“クルモノ・コバマズ”からSランク冒険者が出たら、それこそ伝説だな!」

「Aランクだってまだいないってのによ! いつの間に、そんなに強くなっちまったんだ!?」

「キスククアちゃん、今のうちにサインを書いといてくれ!」

「サインだなんて、そんな……」


 みんなで話しているときだった。

 突然、ギルドの外が騒がしくなった。

 人々の悲鳴や、逃げ回る音が聞こえてくる。

 それどころか、地鳴りみたいな衝撃まで感じる。

 ビリビリ……と空気が小刻みに揺れていた。

 

「どうしたのかしら、何かあったみたい」

「キスククア君、外に出てみよう」


 ギルドから出ようとしたら、何人もの冒険者たちが転がりこんできた。

 みんな、体がボロボロだ。

 プランプさんが大慌てで近寄る。


「いったいどうしたんだい!? なにがあった!?」

「「プ、プランプさん、大変です! ドラゴンが襲来しました! すぐに状況を確認してください!」」

「なんだって!?」


 慌ててみんなで外に出る。

 その瞬間、私たちの間に緊張が走った。


「キ、キスククア君……どうしよう」

「こ、こいつはえらいことだ……お前たち、戦闘準備に入りな!」


 ま、まさか……。

 いつにも増して緊張する。

 ギルドの上空を巨大な黒いドラゴンが飛んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る