第33話:◆キスククア新聞 Vol.6 特大号 ~かかと落とし令嬢、花粉の襲来を駆逐する~◆

 本日、キスククア嬢の活躍が三件も報告された。

 弊紙も嬉しい限りである。

 まとめてお知らせする。



 その日、ギルドは類まれなる強敵の襲来を受けた。

 視野を妨害し、鼻腔の奥深くにまで侵入し、自らの意志とは関係なく強制的に空気を排出させられる――そう、花粉だ。

 我々に容赦なく襲い来かかり、筆者の目と鼻はもはや限界だった。

 どうやら三体の花粉モンスター、ブタクサリアン・ヒノキリア・スギノイジンが原因らしい。

 そのような深刻な事態の中、救い主として手を挙げてくれた者がいる。


「ゲホッ……プ、プランプさん、お願いします。私にやらせてください。絶対に全部倒してきます。誰かが倒すのを待ってなどいられません」


 そう、キスククア嬢だった。

 やはり、かかと落とし令嬢は他の者とは違う。

 凶悪なモンスターが相手でも、常に我々のためを思って行動してくれているのだ。



 筆者たちは“リュタモナカの森”へと向かう。

 森は黒々とした木々に囲まれ、まるで幽霊でも出てきそうな雰囲気を醸し出していた。

 何の躊躇もなく歩を進めるキスククア嬢。

 もはや見ているだけで安心できる。

 そして、いよいよ現れた花粉モンスター、ブタクサリアン。

 何本ものブタクサの茎と葉が、互いにねじれるようにしてその身体を構成している。

 花粉の詰まった実を飛ばすという、大変卑しい攻撃をしてきた。

 降り注ぐ花粉の雨あられ。

 キスククア嬢は攻撃を避けつつ接近するのかと思ったが、木陰に隠れたまま動かない。

 何かを考えているようだった。

 なんと、この窮地の中でキスククア嬢は新技を編み出したのだ。


「くらえ! かかとスラッシュ!」


 キスククア嬢のかかとから放たれた衝撃波が、勢い良くブタクサリアンに襲い掛かる。

 風の斬撃は切れ味鋭く、その無数の鞭を切り裂いた。

 もう一発かかとスラッシュを放ち、敵の攻撃手段を奪う。

 そして、怒涛の勢いで接近するキスククア嬢。

 筆者が勝利を確信した瞬間だった。


「鼻がムズ痒いんじゃ、こらぁ! 消えちまえ、この野郎おおお!」


 キスククア嬢のかかとが、ブタクサリアンの脳天に直撃する。

 切れ味の良い鎌で草を刈り取るように、その体は引き裂かれていった。

 凶悪な花粉モンスターも、キスククア嬢の前ではあっけなく撃沈するのであった。



 束の間の休息。

 歩みを進めるほど黒さを増す森の中。

 にもかかわらず、キスククア嬢は決して怯えるような様子を見せない。

 彼女を見習い、筆者も冷静に状況を分析していた。



 突如として、暗闇から現れた巨大な植物系のモンスター。

 ヒノキリアだ。

 その名の通り、ヒノキが突然変異したのだろう。

 ブタクサリアンより数倍大きく、その幹から生えているのは太い枝。

 人の骨など簡単に砕けそうなほど力強い。

 そして、葉に付着している忌々しい花粉たち。

 見ているだけで筆者の鼻と目は痒みが引き起こされるほどだった。



 ブタクサリアンより激しく襲い掛かってくる花粉の攻撃。

 その威力は地面が抉れるほどで、筆者などは木端微塵にされてしまうだろう。

 しかし、キスククア嬢は決して焦ったりしない。

 木陰で攻撃をやり過ごしたと思うと、先ほどのかかとスラッシュで牽制する。

 だが、ここで終わるかかと落とし令嬢ではない。

 なんと、更なる新技を生み出したのだ。


「えい! かかとインパクト!」


 唯一無二のかかとから繰り出される巨大な竜巻。

 筆者はそのような光景は初めて見た。

 竜巻はいとも簡単にヒノキリアをなぎ倒す。

 キスククア嬢が生み出した新技の集大成だった。


「お前のせいで鼻と目がめちゃくちゃだろうがああああ!」


 そして、すかさず叩き込まれるかかと落とし。

 真っ二つに割られるヒノキリア。

 あっという間に、凶悪なモンスターは朽ち果てた大木になってしまった。

 安堵していたその瞬間。

 ヤツが現れた。

 最後の花粉モンスター、スギノイジンだ。

 ヒノキリアさえ超えるようど巨大なモンスターで、経験豊富な筆者も思わずうろたえるほどだった。

 スギノイジンは我々を見つけると、鋭い葉と一緒に花粉の実を飛ばしてくる。

 どちらも威力は申し分なく、真正面から戦っては負傷が免れないだろう。

 だが、キスククア嬢はどこまでも冷静だった。


「かかとインパクト! からの、かかとスラーッシュ!」


 まずは、新技二連発でスギノイジンにダメージを与える。

 そして、敵が倒れた瞬間を狙い一直線に頭部へ。

 ここまで来れば、もうスギノイジンに勝ち目はない。


「花粉を飛ばすなああああああ! お前らのせいで散々迷惑してんじゃボケエエエエ!」


 キスククア嬢は渾身の力で、スギノイジンの脳天にかかとを落とす。

 かち割れていく巨大な身体。 

 空気も正常に戻り、心置きなく呼吸することができた。

 花粉のためか、筆者の目と鼻からはとめどなく液体がこぼれ出る。

 いや、違う。

 キスククア嬢の成長に感動しているのだ。

 手を取り合い、互いに喜びを分かち合う。

 そして、取り戻された清純な空気。

 筆者はこの瞬間をずっと待ち望んでいた。



 我らが目鼻の救世主、キスククア嬢。

 彼女の活躍は留まるところを知らない。

 続報を待て。

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