第27話:◆キスククア新聞 Vol.6 ~かかと落とし令嬢、暑さの原因を破壊し仮面男を追い払う~◆

 本日もまたキスククア嬢の活躍が報告された。

 弊紙の独占取材にてお送りする。



 突然、“クルモノ・コバマズ”は暑さに襲われた。

 何もしなくとも汗が伝うほどである。

 先日は季節外れの寒さに襲われたばかりだ。

 異常気象に見舞われているのだろうか。

 いや、どうやらこれもモンスターの仕業らしいのだ。

 その正体はフレイムドゴーレム。

 Bランクと階級も高く特殊能力を備えているため、手練れの冒険者でも尻込みするほどの強敵だ。

 このまま、我々は蒸し焼きにされる運命なのだろうか。


「私が倒しに行ってきていいですか? フレイムドゴーレム倒したいです」


 だが、何も心配はいらない。

 すかさず、キスククア嬢が手を挙げてくれた。

 彼女にとっては敵のランクなど、もはや関係ないのだ。

 すぐさまクエストに行くかと思いきや、そこは天下のかかと落とし令嬢。

 クエストへ向かう前に、モンスター図鑑でしっかり情報を得る。

 その余念のなさが、キスククア嬢の強さの秘訣なのだ。



 そして、筆者たちはフレイムドゴーレムがいるという神殿にやってきた。

 まるで、聖女が天に祈りを捧げるような場所だ。

 肩で風を切るように、颯爽と歩くキスククア嬢。

 その瞳には恐怖や緊張といった感情はない。

 フレイムドゴーレムは神殿の奥に座していた。

 キスククア嬢を見ると、すぐに攻撃態勢に入る。

 情報通り、体を構成している石を浮遊させる力があるようだ。

 空中を縦横無尽に駆け巡りキスククア嬢を襲う。

 しかし、全ての攻撃を躱すかかと落とし令嬢。

 やはり、彼女はただ者ではない。

 さらには躱すどころか、逆に足場として利用し空高く飛び上がる。


「てめえのせいで暑いんじゃコラアアア! 人の迷惑を考えやがれ、このクソゴーレムがあああ!」


 キスククア嬢のかかとが、フレイムドゴーレムの脳天に突き落とされた。

 地割れのように引き裂かれる胴体。

 崩れ落ちる石たち。

 相手が非生物のモンスターでも、キスククア嬢は一撃で倒してしまうのだ。

 異常な暑さは消え去り、気温も元通りとなった。

 しかし、神殿は突如として朽ち始める。

 おそらく、フレイムドゴーレムと共鳴していたのだ。

 すかさず走り出すキスククア嬢と筆者。

 間一髪、神殿の崩壊から逃れたときだった。



 仮面男が現れた。

 目撃情報と同じ風体で、手には不気味なスパイクハンマーを持っている。

 お世辞にも趣味が良いとは言えない。

 筆者はキスククア嬢のファンだと予想していたが、どうやら違っていたらしい。

 彼女を襲撃にきたのだ。



 襲い掛かる仮面男。

 いなすキスククア嬢。

 手練れ同士の戦いであることは明白であった。

 相手は武器を持っているが、キスククア嬢にそんなものは必要ない。

 彼女にはどんな装備よりも強い武器がある。


「いい加減にしろおおお! この悪趣味野郎があああ!」


 キスククア嬢の渾身のかかと落としが、仮面男の右肩に振り落とされる。

 骨が外れる音がして、仮面男が地面に倒れる。

 だが、ここで終わるキスククア嬢ではない。


「これで終わりだと思うなあああ! もう一発じゃコラアアア!」


 左肩にもかかとを落とすキスククア嬢。

 もちろん予期せぬ反撃を防ぐためだ。

 彼女は決して油断しない。

 肩を引きずるように逃げて行く仮面男。

 ここまでダメージを与えておけば、他の者を襲おうとも思わないはずだ。


「あんたたちが襲われたと聞いて、アタシは本当にびっくりしたさ。それにしても、キスククアちゃんにはいくらお礼を言っても足りないくらいだね」


 ギルドマスターのプランプ氏も、この一件には顔をしかめていた。

 モンスターでもないのに人を襲うなど、非常に危険な人物だと考えられる。

 念のため、仮面男の注意情報は継続される。

 もし弊紙をお読みの方々が目撃したら、ぜひ知らせていただきたい。

 


 今回もまた、キスククア嬢により世界の平和は保たれた。

 続報を待て。

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