第25話:暑さの元凶をぶちのめす

「ここがフレイムドゴーレムのいる神殿……さすがに、ずいぶんと暑くなってきたわね」

「な、なかなかに威厳のある建物じゃないかぁ」


 その後、しばらく歩いてフレイムドゴーレムが作っているという神殿までやってきた。

 案の定、ジャナリーはビビりだしている。

 神殿という名の通り、見た目は大事な儀式をするような場所だ。

 正面には大きな教会みたいな建物が建っている。

 そして、布が多いドレスは死ぬほど暑い。

 このときばかりは新しい服を買おうと思った。


「でも、良かった。仮面男に遭遇しなくて。戦う前から余計な体力は使いたくないからね」

「きっと、この暑さで逃げていったんだよぉ」

「そんなにくっつかないでよ。ただでさえクソ暑いんだから」


 ジャナリーがベタベタ引っ付いてくるので余計に暑い。

 こんなことなら、ファイヤーリザードを倒したときに涼しい服でも買っておけばよかったな。

 昔から、服を買うのはお金がもったいないと思っていた。

 せめてその場しのぎとして、歩くスピードを少し速める。

 風が当たって涼しいからだ。


「キ、キスククア君~、ちょっと歩くのが速すぎやしないかい? も、もうちょっとゆっくり歩こうよ~」

「そんなこと言ったって暑いんだもん。さっさとフレイムドゴーレムを倒して、早く暑さから解放されたいの」

「ジュ、ジュースでも飲んでから行こうよ~」


 ジャナリーの言うことを聞いていたらキリがない。

 やがて、教会的な建物の前に来た。

 人々が祈りを捧げるような厳かな雰囲気はなく、どことなく不気味な感じがする。

 

「この中にフレイムドゴーレムはいるのかしら」

「そそそそそ、そんなのボクに聞かれてもわからないってぇ~」


 ギギギィ……と、扉を開けて中に入る。

 外から見たよりだいぶ広かった。

 がらんとしていて、ただの広い空間だ。

 そして、奥の方に一つだけある大きな椅子に、そいつは座っていた。


『ニ、ニンゲン、イケニエ……スル』


 フレイムドゴーレムだ。

 大人の5倍はありそうな大きさだった。

 体は赤い石でできていて、わずかな隙間から炎が噴き出している。

 私たちを見ると、ズシンズシンと近づいてきた。


「今あいつボクたちを生贄にするって言ってたよおおお! 人間の体を材料にして新しいゴーレムを作るんだあああ! いやだああ、ボクはまだゴーレムになりたくないいいい!」

「大丈夫よ。戦うのは私だから」


 何度も彼女とクエストに出ていると、だいぶ対応に慣れてきた気がする。


〔脳天にかかとを落とすと即死します〕


 ゴーレムの脳天も頭のてっぺんにあるようだ。

 人間と同じだな。

 よし、集中してこいつも一撃で倒すぞ。

 気づいたらジャナリーは消えていた。


「がんばれー、キスククア君ー! ボクのことは心配しないでくれたまえー!」


 と、思ったら、だいぶ離れたところに移動している。

 やっぱり、安全地帯を見つけるのが大得意なようだ。


『オ、オマエ……イケニエニ……ナレ』

「おおおっとー! いきなり、フレイムドゴーレムがバラバラになっていくー!」


 突然、フレイムドゴーレムの両腕が分解された。

 体を作っている石がふわふわと空中に浮かぶ。

 石一つ一つが炎をまとっていた。

 熱を使って浮いているようだ。


「図鑑の通りってことね」

『シ……ネ……』

「ゴーレムの体が雨あられのように降り注ぐー! キスククア君は躱し切れるのかー!?」


 炎の石は縦横無尽に私を襲ってきた。

 四方八方から飛んでくる。

 ファイヤーリザードの火球とは違って、軌道が読みにくい。

 全身に神経を集中して全力で避ける。


『グ……コシャクナ……』

「さすがはキスククア君だー! 一撃も喰らっていないぞー!」

「……そうだ! 逆に、これを利用すれば……!」


 飛んでくる石を足場にして、空中に飛び上がっていく。

 フレイムドゴーレムの頭はもうすぐだ。

 最後の石を思いっきり蹴って空高く舞い上がる。


『ナ、ナゼ……コウゲキガ……キカナイ!』

「キ、キスククア君が飛んだー!? 彼女は鳥だったのかー!?」


 垂直に思いっきり右のかかとを振り上げる。

 いつものように、脳天はぼんやりと光っていた。


「てめえのせいで暑いんじゃコラアアア! 人の迷惑を考えやがれ、このクソゴーレムがあああ!」

『ゲゴアアアア!』


 かかとがゴーレムの頭に食い込む。

 頑丈な石造りのはずなのに、ベコッと凹んでしまっていた。

 ガラガラガラ! とゴーレムの体が崩れていく。

 生物のモンスターをぶちのめしているときとは、また違った快感だ。

 ゴーレムの石は硬いけど、芯のところはわずかに弾力があった。

 一瞬かかとに抵抗を感じて、それがさらに快感を増してくれる。

 これはこれでハマるぞ……も、もっと気持ちよくなりたい……。


「キスククア君の勝利ー!」

「…………はっ」


 快楽の海に沈みそうになったとき、ジャナリーの声が頭の中に響いてきた。

 すぐに意識を取り戻す。

 危うく戻れなくなるところだった。

 それにしても、<かかと落とし>の快感は病みつきになる。

 気をつけないと。


「キスククア君にかかれば、ゴーレムみたいな防御系モンスターも瞬殺だね! さすがはかかと落とし令嬢だ!」

「だから、その呼び名はやめてちょうだいよ」


 フレイムドゴーレムが倒されると、嫌な暑さも消え去った。

 やれやれ、と額の汗をぬぐう。

 あとはギルドに帰るだけだ。

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