第24話:今度は暑くなってきた

「今日のクエストはどうしようかな。できれば、またモンスターを倒す依頼がいいのだけど(気持ちよくなれるから)。手頃なモンスターとか出ていないかな」

「キスククア君は本当に向上心が高いよね。尊敬しちゃうなぁ」

 

 簡単に朝ごはんを食べて、ロビーへ向かう。

 相変わらずジャナリーの寝相は最悪だ。

 それでも、床の硬さにはだいぶ慣れてきた。

 最近はよく眠れるようになっている。

 ロビーに降りると、さっそくプランプさんがいた。

 ちょうどクエストボードを整理している。


「おはようございます、プランプさん。何か良さそうなクエストありませんか?」

「おや、今日もクエストかい? ちょっと休んでもいいんだよ」

「あ、いえ、とにかく早くランクを上げたいんで」

「こんなに上昇志向の強い子は久しぶりだよ。さすがはキスククアちゃんだね。モンスターの討伐依頼はたくさんあるよ」


 クエストボードを眺めていると、体が暑くなってきた。

 ただ見ているだけなのに、タラリと汗が伝う。


「なんかやけに暑いなぁ。今日は気温が高いのかしら」

「ボクも暑くなってきたよ。きっと、キスククア君の魔王討伐に向けた情熱が漏れ出しているんだ」

「そんなことはあり得ないでしょうに」


 そういうことを話しながらクエストを探していると、ある依頼が目に入った。


〔Bランクモンスター フレイムドゴーレムの討伐 ~炎の神殿を建設し、周囲を高温状態にしている。暑さに耐えられないため、討伐を依頼する~〕


「え、この暑さもモンスターのせいなんですか」

「そうなんだよ。フレイムドゴーレムは人の迷惑なんか考えないからね」

「まったく、どうしてこの辺りは迷惑モンスターばかりいるんだ。さすがのボクも参ってしまうよ」


 プランプさんも暑いみたいで、額から零れる汗を拭っている。

 寒さの次は暑さかよ。

 こう気温が上下されると困るだろうが。


「私が倒しに行ってきていいですか? フレイムドゴーレム倒したいです」


 今度はBランクだから、ポイントもたんまり貰える。

 私は早く魔王討伐部隊に入りたいのだ。


「キスククアちゃんは本当に行動力があるね。ランクが高くて、他の冒険者たちは怖じ気づいているパーティーも多いのに」

「いえ、私の力が何かの役に立てばこれ以上ないほど嬉しいので(ついでに私も気持ちよくなりたい)」

「キスククア君はお手本のような冒険者だなぁ」


 ということで、フレイムドゴーレムの討伐には私たちが行くことになった。

 おっと、その前に。


「プランプさん、モンスター図鑑を見せてくれませんか?」

「ああ、もちろんいいよ」


 図鑑をめくると、Bランクの欄にフレイムドゴーレムの説明があった。

 自分の体を自由自在に分解できると書いてある。

 そして、ゴーレムの体を造っている石がバラバラになって、空中を飛んでいる絵も描かれていた。


「なんか普通のゴーレムとは違いそうですね」

「こいつはちょっと特殊なモンスターでね。体の石を飛ばしてくるんだ。炎の熱で浮かんでいるらしいよ」

「へぇ~、そんなことができるんですか」

「遠距離攻撃もできるから気をつけなよ」


 なるほど、これは有用な情報を得た。

 モンスター討伐には事前の準備が大切だ。

 図鑑を書いてくれた人に心の中で感謝した。


「「それじゃあ、行ってきます」」

「あ、そうだった、キスククアちゃん、ジャナリー。ちょっと待っとくれ。また別に、気になる情報があるんだよ」


 ギルドを出ようとしたら、プランプさんに呼び止められた。

 いつもは見ないような怪訝な顔をしている。


「気になる情報ってなんですか?」

「なんだか怖いなぁ」

「最近、気持ち悪い仮面をつけた男がうろついているらしいんだよ。アタシらは仮面男って呼んでいるけどね」

「「仮面男……?」」


 いったいどんな男だ。

 まぁ、名前通り仮面をつけているんだろうけど。

 兜みたいな防具を被る人は良くいるが仮面とは珍しい。

 もしかしたら、特殊な魔術師の類かもしれない。


「数日前から、ギルドの様子を伺うように森の中をうろうろ徘徊しているんだよ。ほんとに気色悪くてねぇ」

「そいつは気持ち悪いヤツですね。どうしてそんな男がうろついているんでしょう」

「ぜひ取材したいところだけど、ちょっと薄気味悪いな。というか、むしろご遠慮願いたいね」


 ジャナリーもなんか嫌そうな顔をしている。

 記者でも取材したい人とそうでない人がいるのだろう。


「今のところ害はないんだけど、ああいう輩は何をしてくるかわからないからね。十分に気をつけて行っておいで」

「「は~い」」


 仮面男の件はしっかり注意するということで、フレイムドゴーレムの討伐へと向かうことになった。

 用心しながら歩き始める。


「もしかして、仮面男って冒険者になりたい人かな。それで、ギルドの様子を伺っていたとか」

「違うと思うよ。さすがに数日も様子見することはないだろうし。冒険者になりたかったらすぐに登録するはずさ」

「う~ん、それもそうか」


 ギルドに新しい冒険者が来ることは別に珍しくない。

 私が“クルモノ・コバマズ”に来てからも、ちらほらと新しい人が来ていた。


「話を聞いて思ったんだけど、ボクはキスククア君のファンなんじゃないかと思うんだ」

「ファンんん~? 私の~? 意味わからないでしょうが」

「いや、きっとそうだよ! ギルドの様子を伺っていたように見えたのは、キスククア君の様子を探っていたのさ!」


 ジャナリーは納得したような清々しい表情をしている。

 疑問が解消してスッキリしたとでも言いたげだ。


「なにそれ、なおさらあり得ないわ。私に何の用があるのよ」

「だから、キスククア君のことが気になっているんだよ。話しかけるタイミングを図っていたのさ。かかと落とし令嬢はモテモテだね」

「いや、そんなわけはないと思うけど」


 どうして私がそのように思われるのか検討もつかない。


「ひょっとして、キスククア君のサインが欲しいのかも」

「そんなまさか。どうして私のサインなんかを欲しがるの」


 ジャナリーが突拍子もないことを言うので笑ってしまった。


「だって、キスククア君の活躍は留まるところを知らないんだから」

「へらず口を叩いてないで、周囲を警戒しながら向かいましょう。ダンジョンに行く前に怪我でもしたら大変だわ」


 ジャナリーと辺りを見回しながら歩を進める。

 気をつけながら、私たちはフレイムドゴーレムの元へと向かって行った。

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