第23話:◆キスククア新聞 Vol.5 ~かかと落とし令嬢、寒さからギルドを救う~◆

 本日もまた、キスククア嬢の活躍が報告された。

 独占密着取材にて報告する。



 突如、“クルモノ・コバマズ”は冷気に襲われた。

 冬はまだまだ先だというのに、息が白くなるほどの寒さだ。

 その原因はヤリンヒ洞窟に出現したコールドコボルドだった。

 キスククア嬢は魔神のような形相で依頼表を睨む。

 その顔からにじみ出ているのは怒りのオーラ。

 思わず、周りの人間たちも気圧されるほどである。

 そう、彼女は他人に迷惑をかける者どもを許せないのだ。

 

「ぜひ、私にやらせてください。いえ、私にしかできないのです! こいつは…………私の獲物です!」


 これは彼女の強い意気込みが感じられる言葉だ。

 キスククア嬢はどんなクエストでも決して手を抜かない。

 魔王討伐という大きな目標に向けて、一歩ずつ着実に進んでいた。



 ヤリンヒ洞窟に着いた筆者たちは、いきなり洗礼を受けた。

 吸血コウモリの群れに襲われたのだ。

 一目散に逃げなければ、あっという間に血を吸われミイラにされてしまう。

 しかし、キスククア嬢は全く動じない。

 直立不動の態勢のまま、淡々とやりすごす。

 それだけではなく、筆者をかばって飛来物の襲来まで受け止めてくれた。



 そして、とうとう現れたコールドコボルド。

 手当たり次第に周囲を凍らせる、非常に手強い敵だ。

 我々を見つけると、すかさず氷のつぶてを飛ばしてきた。

 キスククア嬢は迫りくる攻撃を蝶のように躱す。

 攻撃が止んだ一瞬の隙をつき、コールドコボルドの懐に入り込んだ。

 そして、その美脚を垂直に掲げた。


「てめえのせいで糞がついたんじゃ、オラァアアア!」


 キスククア嬢のかかとが、コールドコボルドの脳天に食い込む。

 パンを潰したようにひしゃげる骨。

 噴水のごとくほとばしる脳。

 いつものように、ものの一撃で勝負はついてしまった。

 相変わらず、悪魔のように微笑むキスククア嬢。

 やはり、彼女はただ者ではないと実感させてくれる。

 だが、クエストはこれで終わりではなかった。

 

「どうやって割ろうかな。魔法攻撃が効かないみたいだし」


 そう、まだコールドコボルドが作った氷の壁が残っている。

 どうやら、これが寒さの元凶らしい。

 岩登りが不得意な筆者を背負って登るキスククア嬢。

 弱者への溢れんばかりの優しさが彼女の強さの秘訣かもしれなかった。



 やがて、壁の頂上に着いた筆者たち。

 氷の壁は魔法攻撃が効かないという報告もあり、破壊するには苦労が予想される。

 しかし、そこはキスククア嬢。

 彼女のかかとに壊せない物はないのだ。

 

「寒いんじゃあああ、このクソ壁があああ! 二度と出てくんなあああ!」


 彼女の気迫に満ちた掛け声とともに、鉄槌のように振り下ろされるかかと。

 砕け散る氷。

 魔神のような表情で佇むキスククア嬢。

 奇跡の<かかと落とし>が一日に二度も見られるなど、筆者は願ったり叶ったりだった。


「いやぁ、キスククアちゃんには感謝してもしきれないね」


 これはギルドマスター、プランプ氏(38)の言葉だ。

 彼女だけではない。

 ギルド中の全員がキスククア嬢に感謝していた。


「「キスククアお嬢様は本当にお優しい心の持ち主なんですよ」」


 カカシトトー家からやってきた門下生たちの言葉。

 キスククア嬢は決して私欲のために力を振るったりはしない。

 彼女は弱者を守るためにしか力を使わないのだ。

 キスククア嬢の更なる活躍が楽しみである。

 続報を待て。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る