第19話:◆キスククア新聞 Vol.4 ~かかと落とし令嬢、盗賊団を撃退す~◆

 本日、キスククア嬢の活躍が報告された。

 今回もまた弊紙は独占取材に成功した。

 依頼人たちのインタビューも掲載されているので、ぜひ最後まで読んでいただきたい。



 彼女が選んだクエストは、ビスカウント男爵家の跡取り娘、ノエル嬢の護衛依頼だ。

 モンスター討伐依頼ではない。

 おそらくキスククア嬢は、強大な己の力を誰かのために使いたかったのだ。

 さて、前回のクエストにて靴が壊れてしまったキスククア嬢。

 今日が新しい靴での初陣だった。

 ギロチンのように鈍く光るかかと、悪魔さえ縮み上がる奇奇怪怪としたデザイン。

 依頼人のビスカウント婦人も、キスククア嬢の靴を羨望のまなざしで見ていた。

 クエストの内容は、隣町までノエル嬢を無事に送り届けてほしいとのこと。

 どうやら、山賊や盗賊の目撃情報があるらしい。

 

「ご安心ください。私たちがちゃんと隣町までノエルちゃんをお送りします」


 この力強い言葉を聞いて、ビスカウント親子も心底安心しただろう。

 重要な御者の務めは、キスククア嬢が率先して引き受けてくれた。

 こじんまりとした森の中を進む道だ。

 牧歌が流れてきてもおかしくないような、のんびりとした時間が流れる。

 暖かい陽気に誘われ、筆者が夢うつつとなっているときだった。



 盗賊団が現れたのだ。

 道を通りたければ通行料を払え、と一方的に主張する。

 しかし、そこは我らがキスククア嬢。

 突然の敵襲にも全く動じない。

 優雅に馬車を降りたかと思うと、敵リーダーの前に立つ。

 盗賊団の中で一番大柄な男だ。

 頑丈そうな鎧も身につけている。

 筆者は緊張していたが、幼子の手前冷静に状況を見守っていた。



 突如、キスククア嬢の強烈な蹴りが敵リーダーの脛を襲う。

 前屈する大男。

 そして、がら空きとなった後頭部にキスククア嬢のかかとが落ちる。


「いい年して人に金をせびるんじゃねええええ!」


 あまりの衝撃で空気が揺れるほどだった。

 その強すぎる威力のせいか、敵リーダーの頭部はモザイクがかかっている。

 しかし、キスククア嬢のかかとが落とされたのは脳天でなく後頭部だ。

 よって、彼が死んでしまうことはない。

 きっと、いくら悪人でも殺してしまうのは良くないと思ったのだろう。

 キスククア嬢の優しさが垣間見えた瞬間だった。


「私は……絶対にキスククアさんのような強い女性になります」


 ノエルちゃん(8歳)に将来の夢を聞いたとき、真剣な眼差しで答えてくれた。

 さっそく、彼女はキスククア嬢を目指して鍛錬を始めたそうだ。

 特注の靴も購入して、かかとを落とす毎日を送っているらしい。

 筆者も未来のかかと落とし令嬢が今から楽しみだ。


「「俺たち、もう盗賊辞めます。本当にすみませんでした」」


 これは考えなしに筆者たちを襲ってきた盗賊団の言葉だ。

 通行料をせしめることに味を占め、ずっとあの道を縄張りとしていたらしい。

 キスククア嬢の反撃を受け、最寄りの衛兵駐屯地に自首をした。

 今後、彼らは懺悔と償いの旅を始めるそうだ。



 キスククア嬢は規格外の力を完全にコントロールしている。

 人間にはその力を行使しない優しさも持ち合わせている。

 そのことからも、やたらと力を振るう粗暴な人間とは一線を画していることが十二分にわかる。

 この先、キスククア嬢はどんな活躍を見せてくれるのか。

 続報を待て。

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