第15話:◆キスククア新聞 Vol.3 特大号 ~かかと落とし令嬢の信念は岩をも砕く~◆

 本日、キスククア嬢の活躍が複数報告された。

 特大号にて報告する。 



 連日の活躍が止まらないキスククア嬢。

 彼女が選んだクエストは、“マクリーヨの洞窟”に棲息したボスグールの討伐。

 ランクはCであり彼女にとってはやや役不足だが、かかと落とし令嬢は他の冒険者とは違う。

 マジカライト鉱石を採掘する者達のため、このクエストを選んだのだ。

 ああ、なんと慈悲深い。



 そしてやってきた“マクリーヨの洞窟”。

 言わずと知れたマジカライト鉱石の名産地だが、ボスグールの影響か不穏な空気が漂う。

 まさしく、ここには死の気配が満ちあふれていた。

 キスククア嬢は何の躊躇もなく、洞窟内部へと進んでいく。

 その顔には恐怖や戸惑いといったものはまるでない。

 むしろモンスターが怯えて逃げるほどのオーラだった。



 やがて、ボスグールが姿を現した。

 その腐りかけた肉体は、目の前の存在が人外の者であることを否応なしに突きつける。

 筆者たちを見るとすかさず手下のグールを生成する。

 敵は複数。

 対するキスククア嬢は一人。

 しかし、ここで引くのではなく攻め込むのがかかと落とし令嬢だ。

 ボスグール目がけ、全速力で駆け出した。

 手下の攻撃を華麗に躱すと、ボスグールの後ろに回り込む。

 敵の裏をかいたのだ。

 彼女は身体能力だけでなく、判断力にも優れている。


「その汚い脳みそぶちまけろおおおお!」


 キスククア嬢の怒号とともに、はじけ飛ぶボスグールの頭。

 一瞬、筆者は花火と錯覚したほど美しい光景だった。

 嬉々として歩き出すキスククア嬢。

 しかし、大変な悲劇が彼女を襲う。

 なんと、キスククア嬢の素晴らしい靴が壊れてしまったのだ。

 見るも無残な姿になった靴。

 泣き崩れるキスククア嬢。

 だが、かかと落とし令嬢はこんなことではへこたれない。

 気持ち新たに一歩を踏み出す。



 そのときだった。

 洞窟の外から悲鳴が聞こえてきたのは。



 慌てて駆け出すキスククア嬢と筆者。

 隣町へ続く道が巨大な岩で塞がれていた。

 小さなドラゴンはあろうかというほどの大きさだ。

 そして、その前には頭を抱えた男性と荷馬車。

 不幸中の幸いか、大きな怪我はなさそうだ。

 話を聞くと、男性は行商人だった。

 巷で流行中の氷菓子“アイス・フルーツ”を運搬中、落石に巻き込まれたとのこと。

 氷菓子の冷却を頼まれたが、あいにくと我々に魔法は使えない。

 しかし、キスククア嬢には魔法より強大な力がある。


「氷魔法は使えませんが、私のスキルを使えば岩が砕けそうです」


 そう、<かかと落とし>だ。

 巨石を前にしたとたん、彼女の体に途方もない魔力が練り上げられる。

 相手が自然の産物だろうが微塵の容赦もないのだ。

 その疾走は大地を揺るがし、その跳躍はヴァルハラまで届きそうなほど。

 もはや、その姿は伝説のヴァルキリーそのものだ。

 

「道を塞いでるんじゃねえええ! このクソ岩がああああ!」


 裸足にもかかわらず、古代龍のブレスに匹敵するほどの一撃。

 巨石はチーズを切るように両断されていく。

 正義の味方、かかと落とし令嬢。

 彼女に不可能はない。

 

「あんな一撃見たことねえや……たぶん、一生忘れることはねえだろうな」


 これは行商人、ホーカー氏(45)の言葉だ。

 どんな苦難もかかと一本で打ち砕く、キスククア嬢。

 その頼りがいのある背中は歴戦の猛者を思わせる。



 そして、割った巨石から“ハジマガネ鉱石”が出てきた。

 Aランクの非常に貴重な鉱石だ。

 この頑強さなら、キスククア嬢のかかと落としに耐えられる靴が作れそうである。

 めでたく、靴にする素材も見つかったのであった。



 キスククア嬢の靴を作るという大役は、我らがギルドマスター、プランプ氏(38)が担うことになった。

 皆も知っている通り、殿堂入りしたこともある一流の鍛冶師だ。

 彼女の鍛冶スキルならば、最高の靴が出来上がるに違いない。


「世界中で一番頑丈な靴を作ってやるさね」


 プランプ氏は力強くコメントしてくれた。

 どのような靴が出来上がるのか、今から楽しみで仕方がない。


 “研ぎ澄まされた信念は岩をも砕く”。


 身をもって証明してくれたキスククア嬢であった。

 さて、彼女の信念を見る機会はこの先もあるのだろうか。

 続報を待て。

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