第16話:新しい靴……

「さあ、キスククアちゃん! 頼まれていた靴が出来上がったよ!」

「もうできあがったんですか。すごいですね、プランプさん」

「ちょっと待ってな! 今持ってくるからね!」


 ボスグールの討伐と大岩を砕いてから数日後なのに、プランプさんはもう靴を作ってくれたらしい。

 さすがは優秀な鍛冶師だ。

 もっと時間がかかるものだと思っていた。


「後で履き心地を聞かせてね、キスククア君。記事にするから」

「は、はぁ……」


 キスククア新聞はもうしょうがない。

 私はすでに諦めていた。

 ジャナリーはずっとあのスタンスで書き続けるつもりだろう。

 まぁ、彼女の楽しみを奪うのも気が引ける。

 私が見なければそれで問題はなさそうだ。


「はい、お待たせ! キスククアちゃんの靴を持ってきたよ!」

 

 少ししたら、プランプさんが布を被せた何かを持ってきた。

 ギルドにいる人たちも、なんだなんだと集まってくる。


「これがキスククアちゃんの新しい靴! “モデル・オブ・キスククア”さ!」


 プランプさんがバッと布を外す。

 そこには……かなり、いや、相当どぎつい靴が置かれていた。

 ギラギラ輝く銀色に、ドクロやら悪魔やらの絵が刻まれている。

 靴の先は尖っていて、触るだけで怪我をしそうだね。

 おまけに、やたらと尖っているし。

 た、確かにデザインはおまかせで良いとは言ったけど、さすがにこれは……。


「履き心地を試してみなよ、キスククア君。きっと似合うと思うな」

「う、うん……そうだね」


 とりあえず履いてみることにする。

 サイズは私の足にピッタリだった。

 作りも丈夫そうだし、今後の戦いにも耐えられそうだ。

 デザインがもう少しオシャレと言わず、並みだったらありがたかったけど。


「「おおお~!」」


 一同、歓喜! ……じゃなくて。

 履き心地は素晴らしいんだけどな。

 このデザインはちょっと目立ちすぎるというか、センスが尖っているというか。


「気に入らなかったかい、キスククアちゃん?」

 

 そんなことを考えていたら、プランプさんがしょんぼりしてしまった。


「あ、いや……そんなことはありません! とても気に入りました!」


 慌てて否定するとプランプさんは一瞬で元気になった。

 ガハハハッと豪快に笑っている。


「良かったぁ! アタシのセンスが悪かったらどうしようかと思っていたんだよ!」


 冒険者たちも寄ってたかって盛り上がっている。


「キスククアちゃんにお似合いの靴だな! これほどまで攻撃的な靴は見たことがねえ!」

「まさしく専用品だ! どこからどう見ても、履く人を選ぶもんな!」

「こんな靴、他の誰にも履きこなせないよ! 俺が履いたら靴に歩かされそうだ!」


 右も左も、上も下も大盛り上がりだ。

 わああ! という歓声はとどまるところを知らなかった。


「良かったじゃないか、キスククア君! これで今後の活躍がもっと期待されるね! 今からどんな記事が書けるかと思うと、楽しみでしょうがないよ!」

「ははは……」


 ジャナリーも大喜びだけど、私は乾いた笑いしか出なかった。


「「キスククアお嬢様!」」


 突然、ギルドの扉が勢いよく開かれた。

 ドカドカドカッと何人もの屈強な男たちが入ってくる。

 その先頭には見慣れた女性がいた。

 真っ赤な髪に真っ赤な瞳。

 ガッツさんだ。


「え、あれ? ガッツさん? それに門下生の人たちも……どうしたんですか?」

「私らはカカシトトー流を辞めてきました! これからはキスククアお嬢様の元で修行させていただきます! ここに修行に来ていた門下生からお話は聞いております! 素晴らしい<かかと落とし>の技を、ぜひとも教えてください!」

「ぃえぇぁ!?」


 や、辞めたの? カカシトトー流を?

 というか、私の元で修行って。

 まずいよ、これは。

 ただでさえ恥ずかしいのに教えるって……。

 恥ずかしさで居ても立っても居られないとはこのことだ。


「もうあんな人に教えを乞うなんて考えられませんね! 私らはキスククアお嬢様に心を奪われちまったんです!」

「あ、いや、ちょっ」


 あっという間に、彼らに囲まれる。

 ワイワイとぎゅうぎゅうにされる。

 中には私が助けた門下生たちもいた。


「神の一撃と評される<かかと落とし>を、何が何でも習得したいんです!」

「あんな素晴らしい武術は他にございませんよ! きっと、私はあの技をものにするために生まれてきたんです!」

「俺たちにキスククア流を伝授してください! 命に代えてでも身に着けて見せます!」


 みな、見たこともないくらいの真剣な目をしている。

 ほ、本気だ。

 あまりの熱量にこちらが押されてしまうほどだった。


「ハハハ! キスククアちゃんは人気者だね! うちのギルドには空き部屋がたくさんあるから、みんなもここに泊まれるよ!」

「キスククア君といると、本当に記事のネタが尽きないなぁ~! ハハハハハ!」


 プランプさんもジャナリーも、それはそれは温かい目で私を見ている。

 もう逃げ道はどこにもなかった。


「「ぜひ、キスククアお嬢様に稽古をつけてほしいんです!」」


 とどめの一撃に、それはそれはキラキラした目で懇願された。

 最後の望みをかけて聞いてみる。


「も、もし断ったら……」

「「死にます!」」


 ということで、門下生たちにかかと落としの稽古をつけることになってしまった。

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