第13話:靴が壊れた
「新聞見たよ、キスククアちゃん! 今回もお手柄だったじゃないか!」
「強いだけじゃなくて、慈愛の精神にも溢れている人なんだね!」
「“クルモノ・コバマズ”にこんな素晴らしい冒険者が入ってくれて、本当に良かったよ!」
翌日、キスククア新聞を見た人たちが我先にと私のところに駆け寄ってきた。
弁明する間もなく囲まれる。
「は、はぁ、そんなすごいことなんですかね」
「「謙遜しないでいいんだよ!」」
私は<かかと落とし>しかできないから、魔法とか使える人の方がすごいと思うけどなぁ。
そして、門下生たちは一度実家へ帰った。
なんでも、私の強さをみんなに説明するそうだ。
それはそうとして、今日もまたクエストを頑張ろう。
「今日はどんなクエストにしましょうかしら」
「キスククア君の冒険に同行するには、紙がいくらあっても足りないよー!」
ジャナリーはウキウキルンルンしている。
何はともあれ、さっさと冒険者ランクを上げたい。
ズラリと並んだ依頼表を見ていると、ちょうどよさげなクエストがあった。
〔Cランククエスト ~“マクリーヨの洞窟”に棲みついたボスグールの討伐。マジカライト鉱石の採掘に向かった人を襲っている。安全な採掘のためにもモンスターの駆除を頼みたい~〕
「ふ~ん、Cランクね。できればもう少し高ランクがいいけど、こればっかりはしょうがないか」
「キスククア君なら一瞬でクリアしちゃいそうだ」
どうやら、上位クエストは軒並み他の冒険者たちが受注しているらしい。
もどかしい気持ちはあったけど、とりあえずこのクエストにした。
依頼表をカウンターに持っていって、手続きしてもらう。
「プランプさん、このクエストをお願いします」
「はいよ~……おや、またモンスターの討伐だね。キスククアちゃんなら大丈夫だと思うけど、十分に用心しなよ。ボスグールは手下を増やす能力があるからね」
「ご心配ありがとうございます。しっかり用心して向かいます」
「ボクが絶対に素晴らしい記事にしてみせる!」
その後、しばらく歩くと“マクリーヨの洞窟”に着いた。
魔力を集める特殊な鉱石、“マジカライト鉱石”が豊富に採れる場所だ。
その分、モンスターも集まってくることが多い。
入り口はそれこそ巨大なモンスターの口みたいで、中に吸い込まれるような錯覚があった。
「さてと、じゃあさっそく中に入りましょうか」
「こ、こんな暗いところに入るの?」
「いや……当たり前でしょうよ。ボスグールは洞窟の中にいるんだから」
ジャナリーを引きずるようにして入っていく。
洞窟の中はひんやりしていた。
もちろん薄暗いので、ダンジョンとはまた違った薄気味悪さがある。
ジャナリーはしきりに震えあがっていた。
「ひいいいい! まだ昼間なのになんて暗さなんだあああ!」
「……そんなに怖いんなら外で待っていたらいいのに」
「いいいいいや、記事を書くにはここで引き下がるわけにはいかないよ! それにしても怖いなあああ!」
度胸があるのか無謀なのかよくわからない。
突然、ジャナリーがさらに大声で騒ぎ始めた。
「うわああああ! 頭の上に何か降ってきたああああ! なんだ、なんだ、なんだああああ!」
「ジャナリー、そんなに大騒ぎしないで大丈夫だから。ただの水よ。鍾乳石から垂れてきただけだから」
洞窟の天井には、つららのように鍾乳石が伸びている。
そこから、ぴちょんぴちょんと水が滴り落ちているのだ。
『ウガアアアア!』
ジャナリーをなだめていたら、洞窟の奥からボスグールが出てきた。
一見すると人間だが、動物のような皮をまとっている。
目は血走っていて、恐ろしげな見た目だった。
彼女が大騒ぎするから、引き寄せられたのだろう。
「ほら、ジャナリー。ボスグールが出てきたからどこかに……あれ?」
「ボクなら大丈夫! この岩陰に隠れているから! 存分に暴れ回ってくれたまえ!」
いつの間にか、ジャナリーは少し離れた岩陰に隠れていた。
相変わらず、色んな場所で安全地帯を探す能力が高いらしい。
『ウルアアアアア!』
ボスグールが叫ぶと、ヤツの周りの地面からグールがモゾモゾ湧き出てきた。
こいつはグールを生み出す能力がある。
プランプさんの言っていた通りだ。
だが、いくら手下を倒したところでキリがない。
狙うはボスグール一体のみ。
全身に力を集中する。
〔脳天にかかとを落とすと即死します〕
いつものように、ボスグールの脳天が光りだした。
「おおおー! キスククア君の全身が魔力のオーラに包まれるー!」
『ウグアアアアア!』
ボスグールが雄叫びを上げる。
それを合図に、手下グールたちが勢い良く襲い掛かってきた。
「……目指すはボスの頭のみ!」
手下の攻撃を躱し、一直線にボスグールへと向かう。
今までの地獄の鍛錬に比べたら造作もなかった。
「おーっとー! キスククア君は華麗に手下の攻撃を躱していくぞー! 最短距離で親玉の元へ向かうー!」
ボスグールはそれほど大きくない。
私の身長より少し高いくらいだ。
手下グールを躱した勢いのまま、ボスグールの前に飛び出す。
すると、ボスグールはニタリと笑って鋭い爪を突き出してきた。
私の勢いを利用して突き刺すつもりだ。
『グルアアアアア……?』
そのまま突っ込むと見せかけて、ボスグールの後ろに回り込んだ。
「おおおー! なんと、キスククア君はボスグールの後ろをとったー!」
何回か実戦を経て、<かかと落とし>の使い方がわかってきた。
一撃必殺の技だからこそ、必ず一撃で仕留めるのだ。
敵の攻撃を喰らってはいけない。
ボスグールは私を見失っている。
その隙をつき、わずかに跳躍した。
「その汚い脳みそぶちまけろおおおお!」
ボスグールの脳天にかかとが叩き込まれる。
グシャリと骨ごと潰れる感触がして、ボスグールの体が真っ二つに切り裂かれた。
例のごとく、あっという間に私の身体は死骸まみれになる。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
――い、意外と気持ちいい……。
グールの身体は元々腐りかけていたようで、硬さの中に程よい柔らかさがあった。
他のモンスターとはまた違った快感だ。
「キスククア君の勝利ー!」
「…………はっ」
快楽に支配されそうになったけど、ジャナリーの声で意識を取り戻した。
「キスククア君、少し呆然としていたけど大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。じゃあ、ギルドに帰りましょうかしら」
「プランプさんたちに良い報告ができるね」
一歩踏み出したときだった。
その瞬間、足元からベギィッ! という音がした。
「なななななに、どうしたの!? 敵襲!? 新手!? ひいいいい!」
ジャナリーは大騒ぎしているけど、別に敵襲でも新手でもなかった。
「あっ……靴……」
靴が壊れてしまった。
粉々に砕けた破片が地面に転がっている。
まぁ、壊れるのもしょうがない。
<かかと落とし>で酷使していたからな。
「なんだ~、靴が壊れただけか~。脅かさないでくれよ、キスククア君~、ハハハハハ」
ジャナリーは安心した様子で、私の肩をバンバン叩いてくる。
さっきまでの怖がりな感じは消え去っていた。
「壊れちゃったけど、やっぱり靴は欲しいわね。素足でモンスターの脳天に<かかと落とし>を喰らわすのは、さすがに抵抗があるし」
いくら<かかと落とし>が即死スキルだといっても直はまずい。
モンスターは気持ち悪いし、毒とか持っているヤツも出て来るかもしれないし。
「できれば、頑丈な素材で作れるといいんだけど」
「キスククア君の攻撃に耐えられるとなると、生半可な素材じゃダメそうだね」
二人でう~んと悩んでいるときだった。
「おおーい! 大変だ! 道が塞がっちまってるぞー!」
「なんて大きな岩だ。これじゃ先に進めないぞ」
「とてもじゃないが、剣やハンマーでは砕けそうにないな」
洞窟の外から色んな叫び声が聞こえてきた。
といっても、命の危険にさらされているような雰囲気ではなさそうだ。
「どうしたんだろう……? 何か困っているみたいだけど」
「行ってみよう、キスククア君」
ということで、声がした方に急ぐ。
どうやら、街に向かう道から聞こえてくるようだ。
広い道に出ると、すぐに原因がわかった。
「なるほど……」
「これは困ったね」
ちょうど、道の真ん中を大岩が塞いでいた。
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