第11話:◆キスククア新聞 Vol.2 ~お手柄、かかと落とし令嬢。行方不明の冒険者パーティーを救う~◆

 本日もキスククア嬢が活躍したという情報が入ってきた。

 弊紙が最速でお届けする。



 先日、紙面にてキスククア嬢の活躍を報告しているときだった。

 ダンジョンへ行っていた冒険者パーティーがまだ帰還していない、との一報が入る。

 張り詰めるギルド。

 慌ただしく準備を始める冒険者たち。

 そのような緊迫した状況で、我先にと手を挙げた人物がいた。

 キスククア嬢である。


「プランプさん、私が一足早く助けに行ってきます」


 これほどまでに安心できる言葉があるだろうか。

 彼女は危険なクエストであろうが、まったく物怖じしない。

 想像を絶するような地獄の鍛錬を積んできたのだろう。

 筆者も同行の許可をいただき、密着取材させてもらった。



 向かう先はBランクの“温熱ダンジョン”。

 温かいはずなのに、不思議と寒気がする。

 吹き抜ける気持ち悪い温風。

 地面に散らばるモンスターの死骸。

 さすがは高ランクのダンジョンだ。

 経験豊富な筆者でさえ、緊張の糸を緩められなかった。

 


 暗がりの中を一直線に進んでいくキスククア嬢。

 背後から慎重に後を追う筆者。

 途中、ダンジョンの罠などに襲われるが、彼女の機転のおかげでどうにか歩を進められた。

 広い空間に出た瞬間、突如として暗がりが明るくなる。

 キスククア嬢が魔法を使ったわけではない。

 遠くで火球が放たれているのだ。


「きっと冒険者パーティーだわ! 急ぎましょう!」


 キスククア嬢は恐怖心などおくびにも出さず、颯爽と駆け出す。

 その姿はもはや歴戦の猛者のようだ。

 そして、とうとうBランクのファイヤーリザードが現れた。

 ランクも能力もトロールをさらに上回る強敵だ。

 全身から燃え盛る炎は、近づくだけで体が炭になりそうなほど熱い。

 冒険者パーティーもどうにか生きているようだが、その熱さに苦戦していた。



 一般的には火球の攻撃が強力なので、水属性の魔法で遠距離攻撃するのが定石とされている。

 しかし、そこはキスククア嬢。

 彼女に遠距離攻撃などという概念はないのだ。

 どんな敵もかかと一本で殲滅する。

 それがキスククア嬢なのだ。


 

 華麗に火球を躱すキスククア嬢。

 まるで火の周りを舞う蝶のようで、非常に幻想的な光景であった。

 筆者も冒険者たちも、思わずその美しさに見とれてしまった。

 火球が効かないとわかると、ファイヤーリザードは炎の鎧に身を包む。

 接近戦で優位に立とうというのだろう。

 普通ならばここで攻撃を諦めるところだ。

 だが、キスククア嬢は違う。

 猛然とファイヤーリザードに駆け寄った。


「消えてなくなれえええ! このクソトカゲええええ!」


 大地が割れそうな勢いで振り下ろされるかかと。

 吹き荒れる風圧。

 軋む天井。

 何人も寄せ付けぬ稀代の一撃が迸る。

 キスククア嬢のかかとが炎の鎧ごと切り裂いていく。

 はじけ飛ぶファイヤーリザード。

 慈雨のごとき降り注ぐ血の雨。

 その中心で、相変わらず恍惚とした表情のキスククア嬢。

 危機を脱した瞬間は、意外にも美しい光景であった。

 しかし、その顔にはどこか不満が残っているようだ。

 彼女の心は、どこか満たされていないのかもしれない。



 そして、無事にダンジョンから出られたところで、衝撃の事実が発覚する。

 冒険者パーティーは、カカシトトー流の門下生たちだったのだ。

 もちろん、彼らは互いに面識がある。

 期せずして、キスククア嬢は自分の知り合いを助けたことになる。


「「戦いの女神が舞い降りたのかと思いました」」


 これはカカシトトー流の門下生たちの言葉だ。

 みな、キスククア嬢に深く感謝の意を表している。



 今回もキスククア嬢のおかげで尊い命が守られた。

 この先彼女を満足させる敵は現れるのだろうか。

 続報を待て。

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