第10話:感謝の宴

「よーっし! 今日は宴だよ! お前たち、ジャンジャン酒を持ってきな!」

「「おおおー! 飲みまくるぞー!」」


 プランプさんの一声で、酒盛りが始まった。

 冒険者パーティー(実家の門下生たち)の、帰還祝いの宴だ。


「キスククアちゃんもいっぱい飲んだり、食べたりしてね! 今日の主役はあんただよ!」

「は、はぃ、ありがとうございます……」


 ドカドカドカッ! と大量の食べ物やお酒が持ってこられる。

 私は小食だけど、ほとんどをジャナリーが食べてくれるので助かった。

 それにしても……と、門下生たちに話しかける。


「まさか、冒険者パーティーがあなたたちだったなんてね」

「いやぁ、面目ありません。腕試しのつもりで身分を隠してクエストに挑んだはいいのですが、ダンジョンの罠にはまっちまって……」

「モンスターの群れは退けたんですが、ファイヤーリザードに苦戦していたんです」

「やっぱり、準備はきちんとしていかないといけませんね」


 門下生たちは申し訳なさそうに、みんなに謝っていた。

 プランプさんは諭すように、優しく怒っていた。


「まぁ、今回はキスククアちゃんのおかげで何とかなったけど、これからは気を付けてくれよ」

「「ごめんなさい」」


 みんながしょぼんと反省したところで、さらにたくさんの料理が運ばれてきた。


「さあ! わかったんなら良いんだよ! 今日はたんとお食べ!」


 それを合図に宴が始まった。

 暗い雰囲気は消え去り、わいわいがやがやと楽しそうだ。


「それにしても、キスククアお嬢様は強くなられましたね。あのファイヤーリザードを一撃で倒してしまうとは」

「俺たちでは絶対に炎の鎧を突破できませんでした。熱くて近寄ることもできなかったんですよ」

「まさか、あの小っちゃかったキスククアお嬢様が、こんなにお強くなられるなんて……」


 門下生たちは、ぱああっと顔を輝かせていた。


「どうもありがとう。日頃の鍛錬が身についていたのかな」

「キスククア君は昔から努力家だったんだね! いやぁ、旨いなぁこれ」


 私もちょっとずつ料理をいただいていた。

 おいし。


「それにしても、キスククアお嬢様の<かかと落とし>は大変に美しいフォームでした! まるで女神様のように美しく……命の危機に瀕しているというのに、思わず目を奪われてしまいましたよ」

「長年、カカシトトー流にお世話になっておりますが、俺はあんな技は初めて見ました!」

「あれはご自身で編み出した技なのですか!? オリジナリティに溢れでた技でしたね!」


 門下生たちは身を乗り出すようにして迫っている。


「ま、まぁ、編み出したというか、技というか、スキルというか……」

「「スキル!?」」


 さりげなく誤魔化そうと思ったのに、門下生たちはすごい勢いで食いついた。

 さすがは武術の強さを追い求めている者たちだ。

 興味津々といった感じだった。


「「それで、キスククアお嬢様のスキルはどんな能力なのですか!?」」


 みんな、キラキラした目で私を見ている。

 しょうがないので、ぼそりと誰にも聞こえないように呟く。


「…………<かかと落とし>」

「「<かかと落とし>!?」」


 門下生たちはギルド中に轟くような大声で復唱した。

 ただでさえ声が大きいのに、お酒も入っているからかすごい大声だ。


「いや、ほら、そんなに大きな声で言わなくていいから……」

「<かかと落とし>なんてスキル聞いたことがねえぞ!」

「キスククアお嬢様にふさわしい、素晴らしいスキルだな!」

「どんな武術も太刀打ちできないですって!」


 みんなして、ワアワアギャアギャアと大騒ぎしている。

 その様子を見て、プランプさんが嬉しそうにやってきた。

 

「キスククアちゃんは色んな人に慕われていたんだね」

「す、すみません、うるさくって」

「何言ってるんだい。明るくていいことさ。みんな、キスククアちゃんが大好きってことなんだよ」


 プランプさんや周りの冒険者たちも嬉しそうだ。

 きっと、賑やかな様子が好きなんだろう。


「そうだ! キスククアお嬢様の活躍は、カカシトトー流の仲間にもお伝えします!」

「ぃえ!?」


 門下生の一人が言った瞬間、みんなも賛同しだした。


「そうだそうだ! あれはまさしく戦乙女の一撃だった! 他のヤツらにも伝えないと損だ!」

「カカシトトー流どころか、キスククア流が生まれますね! お嬢様のフォームを見れば、他の門下生たちもやってきますよ!」


 門下生たちはとてつもないハイテンションだ。

 そして、流れるように実家の批判を始める。


「キスククアお嬢様を追放するなんて、ご当主は何を考えているんだ! 俺はもうカカシトトー流を辞めるぞ!」

「そうだ! キスククアお嬢様は誰よりも鍛錬に身を捧げていたじゃないか! それなのに追放するなんておかしい!」

「ご当主やご子息たちは、キスククアお嬢様のことを大事に思っていないんだ!」


 冒険者たちも一緒になって大盛り上がりだ。


「今回も良い記事が書けそうだぞー!」


 ジャナリーは酒場の隅っこで、バクバク食べながら猛烈に何かを書きなぐっていた。


「こ、この前みたいな記事はやめてよね」

「うおおおお! 筆が進むー!」


 そっとジャナリーに頼んだけど、まるで聞こえていない。

 だいたい内容は想像つくけど、もはや私は諦めていた。

 せめて、大袈裟でないよう祈るしかできない。


「キスククアお嬢様! もう大丈夫ですからね、私たちがみんなに真実をお伝えしますから!」

「助けに来てくれなかったら、俺たちは今頃どうなっていたのかわかりません!」

「いくら感謝してもしきれません! これも全部、キスククアお嬢様のおかげですよ!」


 門下生たちは笑顔で私の手を握る。


「ど、どういたしまして」


 相変わらず、褒められ慣れていない私はたどたどしかった。

 だけど、みんなのおかげでやさぐれた心がほぐれていく気がした。

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