第8話:帰ってこない冒険者パーティー

「さて、今日はどのクエストを受けようかしら。また討伐依頼があるといいのだけど」

「キスククア君ならどんな敵も倒しちゃいそうだね!」


 クエストボードに向かおうとした時、やたらと人だかりができているのに気がついた。

 パーティーの募集や、冒険者への連絡事項なんかを知らせるようなボードの前だ。


「どうしたんだろう?」

「やっぱり、ボクの記事は人を魅了する力があるんだね! 記者を諦めなくて良かったよ!」

「?」


 なぜか、ジャナリーは得意気な顔をしている。

 なんだろうと思ったけど、ボードの前に行ったら理由がわかった。


「キ……キスククア新聞……」


 あろうことか、私の名前を冠した新聞がでかでかと貼ってあった。

 書いたのは絶対にジャナリーだ。

 しかも、トロールの討伐がものすごく大げさに書かれてしまっている。


「魔神のごとき存在って……ちょっと大げさに書きすぎでしょうが……」


 こんなんでは、初めて見た人は私をどんな風に想像するかわからない。

 所かまわず<かかと落とし>を連発するバーサーカーみたいな人を想像されたらさすがに困る。

 そして、私の汚い掛け声だけはしっかりそのまま書かれていた。


「ボクはどうしても、みんなにキスククア君の素晴らしさと強さを伝えたかったのさ!」

「「あっ! キスククア嬢ちゃん!」」


 唖然とした気持ちでいると、冒険者たちに見つかってしまった。


「初めてのクエストでトロールを討伐するなんてすげえな! しかも、たった一人だろ!?」

「貴族のご令嬢とは信じらんねえわ! これはすごいお嬢ちゃんだ!」

「今度、俺にも<かかと落とし>を見せてくれよ!」


 あっという間に囲まれ、わいわいがやがやとなってしまった。


「い、いや、ほんと大したことじゃありませんから……<かかと落とし>スキルも、敵の頭にかかとを落とすだけで……」

「謙遜しなくていいんだよ、キスククア君! 褒められたら素直に喜んでいればいいのさ! それで、キスククア君の<かかと落とし>なんだけどね……」


 ジャナリーは嬉しそうにトロール討伐を話し出す。

 と、そこで、ギルドの入り口が勢い良く開かれた。

 何人かの冒険者がなだれ込んでくる。


「お、おい! ファイヤーリザードの討伐に行ったパーティーがヤバい!」

「どうやら、ダンジョンの罠にハマって身動きが取れないらしい! アイテムも底をついて、もう限界みたいだ!」

「このままじゃ命を落としかねないぞ! 誰か応援に行ってくれ!」

 

 冒険者たちの報告を聞いて、ギルドの中が激しくざわついた。


「た、大変! 早くプランプさんに知らせないと!」

「急いで呼びに行こう!」


 カウンターでプランプさんを呼んでいると、大慌てで出てきた。


「冒険者パーティーがどうしたって!?」

「ダンジョンの罠にハマって身動きが取れないらしいです! アイテムも無くて限界みたいです!」


 すぐさま、プランプさんが指示を出す。


「昨日、“温熱ダンジョン”に向かったパーティだね! 急いで応援に向かうよ! すぐに出られる者はいるかい!?」


 冒険者たちは慌てて装備を整えている。

 剣や槍といった武器以外にも、ポーションなどもかき集めている。

 しかし、準備が完了するには少し時間がかかりそうだ。

 それに、武器を持っていると早く走れないかもしれない。


「プランプさん、私が一足早く助けに行ってきます」


 騒然としたギルドを切り裂くように言った。

 幸いにも、私は装備などは特に必要ない。

 すぐに行動できる。


「で、でも、キスククアちゃん! “温熱ダンジョン”もファイヤーリザードもBランクだよ! トロールよりずっと強い敵さ!」

 

 ファイヤーリザードはその名の通り、炎魔法を使うトカゲのモンスターだ。

 火球を放ったり炎の鎧をまとったり、なかなかの強敵だ。


「いえ、大丈夫です! 冒険者たちの救助に専念しますから!」

「わ、わかった! 頼むよ、キスククアちゃん! すぐに応援に向かわせるから、先に行ってておくれ! これが地図だよ!」

「ありがとうございます! 行ってきます!」


 猛ダッシュでギルドから走り出す。

 飛ばせばそれほど時間はかからなそうだ。


「ボクも一緒に行くよ!」


 走っていたら、少し遅れてジャナリーが後から追ってきた。


「ジャナリーも一緒に行くの!? 待ってた方がいいわ。相手はBランクのモンスターだから、トロールよりずっと危ないって」

「いや、ボクも行く! キスククア君のいるところにボクありだからね!」


 ジャナリーの目はいつもより力強い。

 彼女を見ていると、なんだか元気づけられる気がした。


「……そうね! じゃあ、飛ばすよ」

「うん! これでもボクは色んなところに取材へ行っているからね。意外と体力があるのさ」


 走りながら笑顔を交わす。

 そして、私たちは“温熱ダンジョン”へと向かって行った。

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