第5話:初めてのクエスト
「ふぁぁぁ、よく寝たなぁ。キスククア君も昨日は眠れた? ……って、どうして床で寝ているの?」
「あ、いや、ちょっと、ベッドでは上手く寝れなかったというか、何というか」
翌朝、私の身体はビッキビキになっていた。
あなたの寝相が悪くて眠れなかった、と言った方がいいのだろうか。
でも、面と向かって言うのは悪いしな……。
と、悩んでいたら、ジャナリーは納得した様子で笑顔になった。
「そうか! これも修行なんだね!」
「え」
ジャナリーはなるほど、なるほど、と手をポンポン叩いている。
「寝ているときも鍛錬を積むなんて、本当に尊敬するよ!」
キラキラした目で迫ってくる。
完全に否定するタイミングを逸してしまった。
「そうじゃなくて、ジャナリーの寝相が……」
「謙遜しなくていいよ! ご飯を食べたら、さっそくクエストに行こう!」
朝食もほどほどにロビーへ降りてきた。
まだ朝早いのに、冒険者たちがたくさんいる。
「クエストってどんなのがあるのかな」
「そういえば、キスククア君はまだ冒険者になったばかりだったね。まずはボクが案内するよ」
ジャナリーはロビーの奥にある壁に連れていってくれた。
色んな大きさの紙が無造作に貼られている。
「クエストは依頼という形で、このボードに貼ってあるんだ。アイテム収集やモンスター討伐の類が多いかな」
「えーっと……薬草の採取、鉄魔石の採掘、ゴブリンの討伐……ずいぶんとたくさんあるわね」
一通り眺めてみると、多種多様のクエストが張り出されていた。
「“クルモノ・コバマズ”は、色んなダンジョンが集まっている地域のちょうど真ん中にあるんだよ。だから、クエストには困らないのさ」
「ふーん、それならすぐに強くなれそうね」
「キスククア君はすでに十分強いよ」
クエストを探していると、カラフルな紙が目に入った。
どうやら、依頼ではなく広告のようだ。
「なんだろう、これ。え~っと……魔王討伐部隊!?」
そこには、何人かの騎士と勇者っぽい男性、そして〔来れ、強者!〕という文字が描かれている。
「その広告はどのギルドにもあるね。最近勇者が現れたみたいで、王国は騎士団の他にも本格的に戦力を集めているんだ」
「私もこれに入りたい!」
この部隊に入れば、父親のつもりで魔王をぶちのめせる。
まさか、こんなに早く願いが叶うなんて。
「気持ちはわかるけど、魔王討伐部隊に入るには冒険者ランクがAにならないといけないよ。キスククア君は冒険者になったばかりだから、まだDランク」
「え」
たしかに、紙には〔Aランク以上の冒険者に限る〕と書かれている。
マジか。
「クエストを達成するとギルドからポイントが貰えて、いくらか貯まるとランクは上がっていくよ」
「へぇ~、そんな仕組みがあるの」
「ポイントは一緒に戦った冒険者で分けるから、大人数で行けばいくほど自分の取り分は減るって感じかな」
「なるほど、だったら私は絶対に一人で行くわ。ポイントを分けたら、その分魔王討伐が遠くなっちゃうもん」
「キスククア君は本当にすごい情熱の持ち主だ」
血眼になって難しそうなクエストを探す。
少し探していると、よさげなヤツがあった。
「よし、これにする」
〔Cランククエスト ~森の泉に出現したトロールの討伐。水源として使われる泉をトロールが占領しており、周辺住民が困っている~〕
クエストのランクは、先日倒したラージオークと同じだ。
私の得意な格闘戦になりそうだし、ちょうどいいだろう。
「これにするの? 中級者向けだと思うけど」
「早く冒険者ランクを上げたいのよね(さっさとAランクになって、魔王ぶちのめし隊に加わりたい)」
「おおお~! さすがはかかと落とし令嬢だ!」
「だから、その呼び名はやめてって」
依頼表をカウンターに持っていく。
「プランプさん、このクエストでお願いします」
「はい、わかったよ……って、モンスター討伐クエストじゃないか! しかも、Cランク! 薬草採取とかの簡単なクエストで経験を積まなくて良いのかい?」
心配そうな顔で私を見ている。
「ご心配なく、腕には覚えがありますので。私はとにかく冒険者ランクを上げたいのです(早く魔王をぶちのめしたい……)」
「おおお~! 良い心がけだよ! 冒険者になるには強気じゃないと! それに、ラージオークを倒したキスククアちゃんなら平気だろうしね!」
結局、プランプさんは笑顔ではんこを押してくれた。
「トロールは足が遅いから、危なくなったら逃げて来るんだよ」
「ありがとうございます、プランプさん」
ということで、ギルドから出ようとしたときだった。
「キスククア君! ボクも一緒に連れて行って! ボクは冒険者登録していないから、ポイントを分けることもないよ!」
ジャナリーにグイッと掴まれた。
「連れて行ってって、モンスターの討伐だから危険よ」
「キスククア君といれば、すごい記事が書けると思うんだ! それに、取材には危険がつきものだからね! お願いだよ!」
彼女の目はギラギラと光り輝いている。
あまりにもグイグイ来るので、仕方なく同行させることになった。
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