第10話 〈ルーム〉考察

 触れ合い魔物園での鬼ごっこに疲れたのかルナは芝生の上でお昼寝、お昼前だから午前寝? をしている。


 日本製の柔らかいブランケットをかけてあげているルナの周りには、捕まえた魔物の子供達も一緒に寝ている。


「だいぶん静かになったな、そういや今日はラハさんいないのか?」


 寝返りをしたルナにブランケットをかけ直してあげながら俺はリアにそう問いかける。


「今日はルナちゃんが来る日だしね、ダンジョンの調整とか面倒な仕事の予定があったんだけど全部ラハに押し付けてきたわ!」


 清々しい表情で酷い事を言っているリアだった。


「しかしほんと不思議よねぇゼンのメニューは、異世界のご飯も買えちゃうし安いし……なんでだろね?」


 ある程度俺の買ってきた物を教えたんだが、その都度リアは面白リアクションを返してくるんだよな……。


「と言われてもなぁ……他の異世界出身ダンジョンマスターは物の価値が低くても購入値段が高いんだろう? それって品物というよりは手数料が……あ……いやでも?」


 俺はリアと会話している時に一つの可能性を思いついた。


「ゼン……貴方何かに気づいたわね!? 何々、聞かせなさいよ~ほれほれ~うりうり~」


 俺の横に座っているリアが俺の頬に指を突き刺しながらそう聞いてくる。


 リアの聞き方が軽い、お昼の芸能ニュースを見ながら芸能人の浮気報道にお菓子を食べながら独り言で突っ込んでいるがごとく軽い。


「えーとな、異世界の物を購入するのが高いのはこの世界と異世界の距離? が遠いから取り寄せるのに手数料がバカ高くなっているんじゃねーかなって」


「んん? ごめんちょっと意味が分からないわね」


 リアが頭の上に、細かい葉や花の付いているツルっぽい髪の毛でハテナマークを作っている、芸が細かいな、芸人か?


「俺の世界だと品物を輸送して貰う時のお値段が距離や場所によって変わるんだよ、頼むお店がある場所に近いならお安く、遠く離れた場所なら高く」


「それなら分かるわ! 行商人が運ぶ距離によって値段を変えていくやつね!」


 リアがツル髪の毛でビックリマークを作っている、芸人か?


「それでだ、俺の世界で言う離島からの購入が、この世界の異世界アイテム購入関係の事柄に似てるんだよ、離島だとめっちゃ輸送料が高いし頼める品物の種類も少ないんだ、場所が遠くて運ぶのが難しいからって断られる感じ」


「へー何処の世界も僻地は大変なのねぇ……でもその説明は分かりやすいわね」


 リアのツル髪の毛は何も示さなかった。


「んでな、俺の場合なんだが、俺の〈ルーム〉って何処にあると思う?」


「え? そりゃぁ空間魔法みたいに……あれ? 何処にあるの?」


 リアのアホツル毛でハテナマークが復活した。


「それを確定できないから予想でしかないんだけどさぁ、俺の〈ルーム〉がこの世界より異世界に近い場所にあったとしたら?」


「……輸送料が安くなるし……近いから色んなお店も輸送してくれる?」


 えーとリアの頭上のそれは……ジグザグだしショックなネタを雷っぽく表している? クイズかな?


「うん、でもそれだと〈ルーム〉を開けるコストの問題とかもどうなってんだって話になるんだが……神がくれたユニークスキルだからって事で説明つくかなぁ?」


「つくわよ! 神様に最初に貰うスキルは強力な物が多いの、でも普通は戦闘系スキルを貰うマスターが多いからね、空間系のスキルでも転移する奴を貰った奴はいるけど、貴方の部屋みたいなスキルをお願いした奴は私が知っている中ではいないわね!」


 リアは興奮して声が大きくなっている……ルナが起きちゃうから大きな声を出さないでくれると嬉しいんだが。


「となると俺の〈ルーム〉はこの世界よりもずっと異世界に近い場所にあって、設置したコアが日本に近いからお安く色々買える? って予想は……合っているかな?」


 もしくは〈ルーム〉が神様がいる場所に近いとかもあるかもだけどなぁ……。


 リアは、ほぅーと長い溜息をつくと。


「可能性はあるわよね、実際にお安く色々買えてしまう訳だし、成程ね……でも余計にゼンの力がばれたら面倒よねぇ……強くなりなさいゼン、悪意を跳ね返せるくらいにね……」


 リアがキリッとした表情でそう言ってくる。

 急に真面目になると対応に困るんだが。


「そうだな、俺は魔物を召喚する意味があんまりねぇからな、自身の強化にDPを使うのがいいんだろな」


 魔物を出しても〈ルーム〉がまだ狭いからなぁ……あれ? 〈ルーム〉は今ダンジョンでもあるんだし拡張できるのだろうか? 手持ちのDPが少なかったし、そっち系のメニューは触ってなかったっけか……。


 俺が新たな疑問を抱いていると。


「昔々この世界には、とある奇特な人間型ダンジョンマスターがいました」


 リアがいきなり語り始めたので黙って聞く事にする。


「そのダンジョンマスターはコアを自身の体に埋め込み設置しました」


 俺よりやばいやつがいた、体に埋め込むってなんだよ……。


「そいつはコアのDPを全て自身の強化に使用していきました、東に強い魔物がいると聞けば殴りに行き、西に攻略が困難なダンジョンがあると聞けばコアを壊しに行く」


 脳筋ダンジョンマスターって感じかね?


「そうして強くなり過ぎたそいつはDPを使用するのをやめて、スキルに頼る事ない戦いを求めるようになりました、過ぎ去った後にはダンジョンも強い魔物もいなくなる、災禍と呼ばれる存在の誕生です」


 ……。


 リアの語りが終わったようなので聞いてみる。


「えーと自分にDPを使い過ぎるなって事?」


「ある程度の強さは必要だけど、非常識に強くなりすぎると災禍がやってくるぞ、というダンジョンマスター新人に教える教訓ね」


 なるほど教訓をこめた御伽噺みたいな物か


「昔にはそんな怖い存在がいたんだなぁ……」


「え? 今もいるわよ、だから私だって個としてあまり強く成り過ぎないように気をつけているし、ダンジョン攻略が難しいって噂とかが流れないように情報操作もしているわよ? あいつ面倒くさいし」


 え?


「その災禍って現役なの? さっき昔々って言ってたじゃんか」


「そりゃ昔っからいるんだもの、そう言うわよ」


 まじかー、やべーダンジョンマスターもいるもんだなぁ……。


 リアが続けて語り掛けてくる。


「ちなみにその災禍はSランク冒険者だったりするのよね、人社会だと英雄よね?」


「災禍なんて呼ばれているSランク冒険者とか嫌だよ! 怖すぎる!」


「ああ、えっと災禍呼びはダンジョンマスター側だけの呼称ね、冒険者としての名前は……ごめん忘れたわ、いっつも災禍って呼んでいるし」


「昔っからいるなら年齢とかおかしいと思わないのかね……」


 俺は疑問を感じる訳だが。


「魔物を倒してくれるなら誰でもいいんじゃないの? エルフが耳を隠しているとでも思われてるんじゃないのかしらねぇ?」


 災禍って呼んでるならちゃんと世間にどう思われてるとか調べろよ……呑気か。


 俺はリアに対して。


「結局のとこ――」

「はょマスタ……」


 ルナが起きてきた、リアの声が煩かったかな?

 でもまぁお昼ご飯に丁度良い時間だな。


 なのでリアとの話は終了します。


「おはようルナ、よく眠れたかな? そろそろお昼の時間だしご飯にしようか?」


 俺はそう声を掛けながらルナ用のブランケットをインベントリに仕舞っていく。


 ご飯のワードでルナは目が覚めたのだろう。

 シュタッっと立ち上がると。


「マスタ! ごはん!」


 うんうん元気だね、じゃぁご飯にしようか。


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