第9話 国産と銅貨
ドリアードであるリアのでかい声にビックリしてこちらを見ているルナに、なんでもないよと手を振って教えてあげる。
ルナはそれを確認すると鬼ごっこへと戻って行った。
「ルナがびっくりするだろう? 急にでかい声を出すなよなぁ」
俺はリアに文句を言いつつペット用の食べ物の袋を開けていく。
開けた袋の中から漂う匂いのせいだろうか、俺を噛んでいた魔物達が急に大人しくなった。
「リア、お前の配下の魔物に食べ物をあげていいか?」
一応主人に確認しないとな。
ウルフの子供は俺の前で奇麗にお座りして舌を出して物欲しそうな表情で見てきている。
ケンカをやめたハーピーとヒポグリフも俺のあぐらの上から見上げてきている、頭上のローパーは見えないけど……プルプル震えているような気もする。
リアから返事がない。
俺の開けていた袋にがさっと手を入れて中身を取り出すリア、そしておもむろにそれを食べる。
おいおい……それペット用のササミジャーキーだぜ? 人間には味が薄いと思う……リアは人間じゃなかったか、その場合どうなるんだ?
目を瞑りモグモグとササミジャーキを食べるリアは、カッと目を見開き。
「やっぱり! これも異世界の物ね、魔力の宿り方が異世界肥料とかに似てるしすごく美味しい! ……どういう事?」
どういう事と言われましても何について聞かれているのか……あそうか。
「これは鳥のササミって言う部分をオーブンでじっくりと焼いたような物で――」
「作り方を聞いてるんじゃないわよ!」
リアは俺の説明にかぶせ気味に突っ込みを入れてきた。
違うの? ……じゃぁササミの原産地とかか? えーと袋の裏に書いてあったっけかな……うん。
袋を確認した俺は顔をリアに向けて。
「国産だね」
リアが俺の頭をスパンと叩いてきた、いたいんですけど?
後ローパーも一緒に殴っているよな……俺の頭から弾かれたローパー君が芝生に落っこちている。
彼は主人に殴られて寂しそうだ、いやまぁ表情なんてないけれども、そのウネウネ具合は悲しいんだよね?
「そういう事じゃなくて何で――」
とそこにトテトテと走り寄ってくるルナ、うんリアさんちょっと黙っててくれる? ルナが来たので。
俺はリアの口の中にササミジャーキーを大量に放り込み強制的に黙らせる。
「もごっ!」
ルナは俺の前に来ると手に持った物を見せて来る。
「マスタ、ハコさん!」
うんうんそうだね箱だね……箱?
「いやルナさんや、リアの部屋の物を取ってきちゃだめだよ?」
俺はそう言ってルナの持つ箱に手を伸ばすと、バクッ、箱に手を噛まれた。
いってぇ! ってこいつミミックか! ちょ、イタイイタイ、俺がコントのような事をしていてもルナはまたすぐ駆け出して行く。
やっと離れてくれたミミックは、お座りしたウルフの横あたりでパカパカとフタを開閉している。
これは俺にも分かる、笑ってやがるなこいつ……。
取り敢えずまだ大量に口の中に入れたササミジャーキーを食べているリアの返事を待たずにウルフやハーピー達にエサをあげちゃう事にした。
だってすごい大人しくして俺を見上げているんだもの……さっきまでの傍若無人な君らは何処にいった?
それぞれにササミジャーキーをあげると喜んで食べ始め、ローパー君も……君のその触手の震え方は喜びでいいんだよね?
チビトレントには肥料を少し撒いた芝生の上に置いてやる、微妙にクネクネワサワサと枝葉を動かしているのは喜んでいるのかね?
そして物を食べる事の出来ないミミックは少し寂しそうにカタタッとフタを鳴らしている。
俺はインベントリから一枚の銅貨を出して彼に……いや彼女かもしれないがミミックに見せた。
銅貨に気づいたのかミミックは俺の前に来てピタっと止まると、蓋が横に来るようにコロンッと転げた……えーと……土下座か? たぶん謝っているのだと思う。
「もう俺を馬鹿にしたりしないって言うならこれをやる」
ミミックは宝になる物を自分の中に入れておきたいという習性があるらしい。
ミミックはパカッと一度フタを開け閉めした、たぶん頷いた?
それならと、銅貨をピンッと親指で弾いてミミックの上に落ちてくる軌道で飛ばす。
ミミックはフタを開けて銅貨を受け止め、カランッ、空っぽの箱に一枚の銅貨というお宝が初めて入った訳だ。
そうして嬉しそうにグルグルと芝生の上をピョンピョンと飛び回るミミック。
どうやってジャンプしているんだろな……謎だ。
あ、彼らにおやつをあげ終わるまで待っててくれたリアさんに手を向ける、どうぞ話をしてください、と。
時間がたってだいぶん落ち着いたのかリアは静かに語る。
「異世界からのアイテム購入は種類が決まっているって聞いた事があるの、何故貴方は肥料と……ジャーキーだっけか? 系統の違う物を二種類も購入できちゃうの?」
リアの話を聞いたが、勘違いしているようなので教えてあげる事にした。
「なぁリア、ルナが着ているあの白を基調としたワンピースドレスなんだが、ルナに似合っていて可愛いと思わないか?」
「控えめに言って最高ね! お持ち帰りしたいわ! ……って話をずらさないでよ! 言いたくないならまぁ……しょうがないけども」
リアは膨れた頬でそう言った。
ルナは持ち帰らせないよ?
「いやいやそうじゃなくてな、あのワンピースドレスも異世界の物をDPで購入した物だ、そしてルナが着ている物はすべて異世界アイテムだな」
ルナに似合って尚且つお値段もお得な感じの物を探すのに苦労したんだよなぁ。
……何せあのサイズのワンピースだけでも数万種類以上あったからな……まあ値段でカテゴライズしたらかなり絞られたが……でもお高い物の中にもルナに似合いそうな服がかなりあったんだよな……くっ……貧乏が憎い。
リアはポカンとした表情を見せた後にルナを見る、真剣に見る、なんなら目が光っているように見えるくらいジッと見ている。
不審者かな? もしもしポリスメーン。
そしてリアは俺の胸ぐらをつかんで前後に揺すってくる。
「何よあれは! 魔法効果とかついているじゃないの! 全部って下着も? 魔法付与された衣服は出回っていない訳じゃないけど一体いくらすると思っているのよ……」
ほほう? ルナの服に魔法効果とな? なにそれ大丈夫かな?
「なんでそんな事が分かるんだ? それと魔法効果の内容も分かる?」
俺をいまだに揺さぶってくるリアにそう質問をぶつける。
変な効果ならルナが危険だしな。
「鑑定の魔眼よ! 魔法効果はそれほど高くないけど〈清浄〉とかついてたわね、汚れにくいから貴族とかが買ってくれるわよ?」
やっと俺を揺さぶるのを止めてくれたリアがそう教えてくれた。
道理でルナの服は奇麗だなーと思ってたんだ。
俺が着まわしているのは神様に初期からインベントリに入れて貰っていたこの世界の服で、ちょいちょいメニューで洗う必要があるのに……いやまぁルナの服もメニューで奇麗にはしていたけど。
それをやる意味あるのかなって思うくらいには奇麗だったから、ルナは服を汚さない天才か! って思ってたんだよな。
「つまりこれからもルナの服は奇麗なんだな? なら問題ねぇな」
「大有りよ! だーかーらーなんでそんなに色々買えちゃうの? しかも貴方が買えるって事はお安いんでしょう? あ……」
騒いでいたリアが急に何かに気づいた様に押し黙る。
「どうしたリア? オトイレか?」
スパンッとリアの張り手が俺の頬に決まる。
「違うわよ! ドリアードはオトイレに行きません! いいわね? ってそうじゃなくて貴方のダンジョンメニューが特殊すぎるの、安いお値段であれが手に入るってばれたら狙われるからね?」
頬がすごく痛い、ってそれはまずくね?
「やばいじゃんかそれ!」
「やっと気づいたの? 絶対にお安く手に入るってばらしたら駄目だからね? それと異世界のすごいアイテムを破格の安さとかで外に売ったりしちゃった?」
リアの質問に俺は考える……そういや街でアイテムを買ってそれを詳しく調べるとコアのメニューに登録されるからってんで、俺の物は全部街で買ったものだな。
質の良い日本産の異世界アイテムとかってルナ用以外に何か買ったっけ……? 買っていない……な。
「出していないな、飯とかは部屋の中で消費しちゃっているし、基本的にルナの物とここの土産くらいしか外に出していない」
リアは息をゆっくり吐きながら安心したようで。
「はぁーそう……それなら良かった、いい? この世界にないようなアイテムを安く外に出しちゃだめだからね? 出すならちゃんと相場を考えた高めの値段を付けなさい、何処かのダンジョン連合が出張ってきたら貴方なんて……ルナちゃんは私が引き取るから安心しなさい!」
おい。
俺なんてどうなるんだよ、そして勝手にルナを引き取るな、お前に渡すくらいなら〈ルーム〉に一生籠っているわい……まぁそれは不可能だけども。
そんな会話をリアとしていると、ウルフ達が俺のお腹に頭をグリグリと押し付けたりしているのに気づく、お代わりが欲しいのかな?
「なぁリアこいつらにお代わりあげていいか?」
魔物の子供達を指さしながらリアに聞く。
「いいけども……、貴方達! このご飯は特別美味しい物でこれが普通じゃないんだからね? それを理解しつつ食べるのよ?」
リアは魔物達にそう注意していて、魔物達は了解とばかりにそれぞれの返事の仕方で応えていた。
そういや異世界の物は取り寄せると変異するんだから、飯も美味くなるのか……あれ? それってつまり……。
「ルナと一緒に食べているから美味しいと思ってたんだが異世界産の物だったからか!? ……いややっぱりルナと一緒に食べてたから余計に美味しかったんだな」
俺のセリフを聞いてリアが、貴方鈍すぎるでしょう、とか呟いているが、聞こえませーん。
俺はササミジャーキーを皆に配り、チビトレントの足元に肥料を足す、ミミックには……ジャーキーいる?
……いやほら、俺もそんなに金持ちじゃないからね……。
……。
……。
くぅ……後一枚だけだからね?
俺の財布からさらに銅貨が一枚消えた。
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