第8話 ふれあい魔物園
トテトテと俺に向かって走ってくるルナ、お腹の前で両腕を使いウルフの子供を抱えている。
ルナは俺の側にやって来ると、そのウルフの子供を俺に見せつけるように。
「マスタ、子犬さん!」
ウルフだけどな。
「そうだなルナ、子犬可愛いなぁ」
俺は肯定しつつも一番可愛いルナの頭を撫でる。
くすぐったそうにしているルナは、ウルフの子供を手放すと、また走って行った。
今俺はドリアードのリアがいる樹海ダンジョンの最奥に来ている。
青い空の元、地面は柔らかい芝生で覆われ小石の一欠けらすらないそこは素足で走っても大丈夫なんだとか、なので俺もルナも靴を履いてない素足状態だ。
リアがルナのために自身の部屋である庭園の横を拡張して、そんなエリアを作り上げていたんだよね。
……どんだけDPかかるんだろうかこれ、そんな芝生の上にDPで召喚された魔物の子供達がルナと鬼ごっこをしている。
ダンジョンに魔物を召喚する場合いくつかパターンがあって、ダンジョンマスターに忠実な者やそうでない者もいる、召喚するのにかかるDPが変わってくるんだよね、勿論ここにいる魔物の子供達は全てリアに忠実な魔物だ。
魔物の子供達にルナを傷つけないように厳重に注意してあるらしく、出来れば俺も傷つけないように注意して欲しいと思う。
俺はウルフの子供に足を甘噛みされながらそう思う訳だ。
そうしてまたトテトテと俺に向かって走ってくるルナ。
「マスタ、鳥さん!」
ハーピーの子供だけどな。
「そうだな鳥さん可愛いな」
俺はやっぱり一番可愛いルナの頭を撫でる。
ルナはハーピーの子供を俺に押し付けると、また走って行った。
俺はあぐらを組んで座っているのだが、その部分に投げ込まれたハーピーの子供は俺の腕を噛んで来るので……ちょっと痛い。
ハーピーは上半身が女性で手や下半身が鳥なんて言われているが、例に漏れずそんな感じの見た目だった。
フサフサの毛が大事な部分を覆い隠してくれているのはありがたい……イタタ……歯がギザギザしていて噛まれると痛いんですけど……。
俺はすぐ隣に座っているリアに語り掛ける
「なぁリア、この子達に俺に攻撃してこないように命令してくれないだろうか」
子供型の魔物だから力もないし致命傷にはならないのだけれど、痛いもんは痛いんだが……。
「ふんっ! ルナちゃんは貴方にばっかり来るんだものそれくらい受け入れなさい、はぁ……それにしても青空の元、サラサラの銀髪ロングをなびかせて芝生の上を素足で駆けまわるルナちゃんは可愛いわねぇ、白いドレスが似合っているわぁ……私に絵心があればこの瞬間を描くのだけれど……いえ、それ系のスキルを取得しても今のルナちゃんを写し取る事は出来ないかもしれないわね……」
リアは恍惚とした表情でルナを見ながらそんな事を言っている。
俺は思う訳だ。
つまりこれは日本で言うと、ピクニックに遊びに来ている他人の子供を見て可愛いと興奮をし、そして写真を撮ろうとしているって事だよな……リアさんアウトー!
前の世界なら通報しているレベルだ。
またルナがトテトテと走り寄って来る。
「マスタ、えーとえーと……木さん?」
悩んでいるルナも可愛いので頭を、あ、リアに先越された。
ルナは俺に声を掛けてきたんですけどー?
「これはトレントの子供ね、木でいいわよルナちゃん」
ルナの頭を撫でながらそう教えているリア。
トレントの子供は盆栽が歩いているような感じで……実はこれって普通にトレントを呼び出すよりDPかかるよね?
俺のコアでもスライムくらいなら呼び出せるんだが、子供のスライムってか、基本のサイズを変更しようとするとDPが余計にかかるんだよな……。
トレントの子供も俺に渡された。
あんまり動かないみたいなので、座っている俺の前に置いて日光浴させておく。
そしてまだハーピーやウルフの子供らにガジガジと腕や足を噛まれている訳です、こうなったら必殺技を出すしかない!
「リア、インベントリ使っていいか? 土産を出したい」
「お土産? いいけどまた異世界の肥料かしら? ダンジョンオークションだと中々競り落とせないからありがたいわ」
リアが嬉しそうに笑顔を浮かべながらそんな事を言って来るので土産は中断だ、ちょっと話を聞きたい。
「俺の他にも異世界からのダンジョンマスターはいるんだろう? なら異世界肥料なんてオークションにたくさん出てくるもんじゃねーの?」
金になるならじゃんじゃか出品するもんじゃね?
リアは呆れた表情をしながら。
「あのねぇ……異世界のアイテムがこの世界に来ると変異するって言ったわよね? 私のような植物型魔物にとって異世界肥料は素晴らしい嗜好品なのよ、おかげで出品されるそういったアイテムは値段の釣り上げ合戦になるの……出品者は値段が下がるような出し方はしてこないし、一番貴重な異世界肥料アイテムは直接取引の餌にしてくるし……数年に一度しか咲かない貴重な花と交換だとか言ってくるのよ? むかつくったらないわよ」
頬を膨らませつつそんな事を言うリアだった。
そこにトテトテとまたルナが走り寄ってくる。
「マスタ、えーと馬さん? 鳥さん? えーと……」
ルナが持ってきた子は、鷹の上半身と馬の下半身を持つ魔物の子供だった。
俺はリアに先んじてルナの頭を撫でながらその魔物の名前を教えてあ――
「これはヒポグリフって言うのよルナちゃん」
あ、こら!
リアが先に教えてしまった……。
ルナはリアの説明をコクコクと頷いて聞いていて、可愛い。
そして俺のあぐらの上に放り投げられるヒポグリフ、こらこらハーピーとケンカしないの、そしてケンカを止めようとした俺の腕を嘴で突っつかないでくれ。
ルナはまた走り出して行く。
あぐらの上のケンカを俺の腕を犠牲にする事で止めながらリアに聞いていく。
「つまり俺が購入出来る異世界の品は貴重品になりうると?」
日光浴しているトレントの頭? を撫でながらリアが答える。
「そういう事ね、よわっちぃ頃に他の植物系魔物のダンジョンマスターにそれが知られたら貴方監禁されるわよ?」
なにそれ怖い。
本当に最初に出会ったダンジョンマスターがリアで良かったと思う、そんな思いを抱きつつ隣のリアを見る。
そこには息を荒げながらうっとりとした表情で、ルナが走っている姿を見ているリアがいた。
出会ったダンジョンマスターがリアで良かったと……思いたい……。
「そんな訳だから、貴方の出す異世界肥料には期待しているのよ、植物型配下へのご褒美とかにもなるしね」
リアがそんな風に言ってくる。
ん? そういやなんかリアの言い方がおかしくね?
「なんで植物系限定なんだ?」
俺は疑問に思った事を聞く。
リアは呆れた感じで。
「なんでって、異世界のアイテムなんて買える種類は少ないって話じゃない、貴方はあの肥料とかを買えるメニュー構成なんでしょ? それに購入もすっごい高いらしいし、貴方がDPの少ない状況にもかかわらず、あんなにたくさんの肥料や活力剤を出したからこそ誠意を感じたのだけれど? ……ってあれ? ……そういえばコアレベルも低いような魔素不足であの量を買える物なの……?」
ほーへーはーん……つまりどういう事だってばよ?
取り敢えず俺は一つの事実を教える。
「あの肥料の値段は一つ15DPで活力剤アンプルは3DPだ」
「はぁぁぁ!? 何馬鹿な事を言っているのよ! あの効果の物ならオークションで少なくともその数万倍以上は……え? 本当なの?」
俺はコクリと頷く事でそれに応える。
リアが何かを叫ぼうとしたが、そこにトテトテとルナが走り寄ってくるので止めたようだ、リアが叫ぶのを無理やり止めたせいか少しむせている。
「マスタ、いそぎんちゃくさん!」
俺はルナが見せつけてくる物から目を逸らしつつ、ルナの頭を撫でてやる。
「そうだな……これはローパーって言うんだよルナ」
それはローパーの子供? だった。
ルナは理解したのかコクコクと頷く、うん賢いし可愛い。
そしてローパーを俺の頭の上に置いてまた走り去っていく。
何故俺の頭の上に置いたの?
ルナが置いた以上はたき落とす訳にもいかず、なんかねっちょりとした感触が俺の頭に伝わってくる……大丈夫? これ毛根とか髪にダメージいかないよね?
むせていたリアだったが何故か俺から一歩分離れて座り直した……このローパーの子供はお前が呼び出したんですよねぇ!?
俺がリアをジロリとした目つきで見ていると、リアはコホンッと咳払いをしてから半歩分近づいて座り直した……。
「えーとそれでよゼン、あの肥料の値段が3DPから15DP? ってのは異常だわよ? 私も異世界の品物の購入DP代金が具体的にどれくらいかは知らないのだけど、高いからこそオークションでも出し惜しみして値段が下がらないようにしているのだろうし」
リアはシラっと話を元に戻してきた。
まいいけどさぁ……ローパーをリアの頭に乗せたらどうなるだろうか? ぶっとばされる未来しか見えないな、やめておこう。
「ふーん、不思議な話だなぁ、まぁお土産を出すね」
俺はそう言ってインベントリからいくつかのアイテムを出していく。
肥料が数袋に、そして今回この触れ合い魔物園をルナのために開設してくれると聞いたので、ペット用の食べ物なんかも各種揃えてきた。
いやほら今でも俺の〈ルーム〉のドアは開きっぱなしだし、リアのいる樹海最奥に遊びに来るとDPがモリモリ増えていくのよな……スキルとか購入するには桁が足りないけども、こういった安い品物ならそこそこ買えるくらいのDPは貯まっている。
リアは何故か震える指先でペット用の食べ物類を指さして。
「ねぇゼン……これらも、もしかして異世界の品物なの?」
そんな当たり前の事を聞いてくる。
見れば分かるような事でリアは何を言っているのやら、やれやれだな。
「そらそうだ、こんなパッケージの品物はこの世界にないだろうに」
俺は両手を横に開いてオーマイガーのポーズで首を横に振りながらそう言ってやる。
おっと頭の上にいるローパーが落ちないように気をつけねば。
俺のセリフと行動を見たリアが、何故だか息を思いっきり吸っている。
そして。
「ありえないからー---!!!!! この馬鹿ゼンがぁぁ!!!!」
でかい声でリアはそう叫ぶのであった。
遠くでルナがリアの大声にびっくりして、ピョンッとその場で跳ねていた、可愛い。
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