第5話 初めての外出
恐々と〈ルーム〉の外に出ていくルナ、俺はルナと手を繋ぎながら歩調を合わせてゆっくりと出ていく。
そこは室内なのに空の見える庭園である。
目の前にはテーブルと俺が座っていた椅子、そしてドリアードのリアさんとデュラハンのラハさんが立っている。
俺は椅子の側までルナを連れてくるとしゃがみ込み、ルナと視線の高さを合わせてから二人を紹介する。
「ルナ、こちらが俺と同じダンジョンマスターであるリアさん、そしてこちらがルナと同じナビゲーターであるラハさんだ、ご挨拶出来るかな?」
俺はルナに二人を紹介して挨拶を促す。
「初めましてルナデス、どうぞよろしく? たのみそうろう」
ルナは俺と繋いでいた手を離し、背筋を伸ばして二人に向き合い挨拶をした。
すごい! うちのルナはきちんと挨拶の出来る素晴らしい子だった?
ここにビデオカメラがない事がこんなにも悔しいとは……DPが欲しい。
そして挨拶されたリアさんとラハさんだが……あれ? リアさんが体を震わせている。
「かっ」
リアさんが一音だけ放つ。
ルナが挨拶したんだから、ちゃんと返事もしてあげて欲しい所だ。
「かわいいいい!!!」
リアさんが叫びながら飛び込んできたみたいで、その速さは俺には見る事が出来ず、気づいたらルナが抱かれて頬ずりされていた。
さすがに有名ダンジョンのマスターだな、レベルが高いのだろう。
ってそんな事はいいんだよ、ルナは大丈夫か?
……。
「そうルナちゃんって言うのね、お姉さんはリアって言うのよろしくね、ルナちゃんうちの子にならない?」
リアさんがルナの事を勧誘している、何してんだあんた。
俺はしゃがみ状態から素早く立ち上がり。
「ちょっと何してんですかリアさん、ルナが嫌がって――」
「よろしくリア姉、ルナのマスタはマスタだけ」
ルナが即座に勧誘を断っていた。
さすがルナだ、後でお菓子を購入してあげよう。
「そう……気が変わったらいつでも言ってね、大丈夫、あなたのマスターには手切れDPを大量に払ってあげるから」
会話をしながらもリアさんは、椅子を空間から出して座りルナを膝に乗せていた。
それをやるためだけに椅子を出したんですか貴方……さっきまで足を地面に埋めて立っていたのに……。
「ルナはマスタと一緒」
ルナが可愛い事を言ってくれている。
リアさんの対面に座った俺のお膝に来てもええんやで?
「そっかぁ……ラハ、お菓子を出してあげて」
リアさんがルナの頭を撫でながらラハさんに命令を出していて。
空いている右手をルナに向けてグーパーしていたラハさんが、リアさんの命令を聞き空間からクッキーの載ったお皿を出してルナの前に置いた。
そのついでにルナの頭も撫でていたので……さっきのグーパーは頭を撫でようかどうか迷っていた行動だったのね……。
目の前に出されたお菓子を嬉し気に見るも、ルナは手を出さずに俺を見る。
俺はルナに頷いてやりながら。
「ちゃんとお礼を言ってから頂きなさい」
そう教えるのだった。
「リア姉ラハ姉ありがとう! 頂きマスタ」
ルナは膝の上から頭を反らしてリアさんを見上げつつお礼を言うと、嬉しそうにクッキーを食べ始める。
リアさんはそのルナの動きを見て撃沈している。
ダンジョンマスター殺すにゃ刃物はいらぬルナの一人もいれば良いってか。
ラハさんも身もだえて自分の頭を落としているし……確かにルナは可愛いけど動揺しすぎじゃね? というかルナの頭に再度手を伸ばす前に自分の頭を拾ってやれよ体さん。
ルナがモグモグとクッキーに夢中なのでリアさんは俺に話しかけてくる。
「すごい可愛いわねこの子、ほら私ってドリアードで最初の頃は戦闘能力低めでしょう? なのでナビゲーターは強さを求めて魔物型のラハにしたのよねぇ……うちのラハと交換しない?」
「しません!」
俺は即座に断る、たとえ冗談であろうともルナが聞いている以上賛成するはずもない。
横で立っているラハさんは悲しそうに……てか顔が土で汚れていますよ?
「ゼン殿は私が要らぬと仰せですか、これでも週に数度はフィットネスジムに通っていますしお肌もピチピチでスタイルも……私、鎧を脱いだらすごいんですよ? ……まぁ体が運動している間に頭は暇なので本を読みながらお菓子を食べている訳ですが」
「体さんの努力を大事にしてあげて!? ってそもそもジムなんてあるんですか?」
ついついアホな内容だったために突っ込みを入れてしまう俺。
ラハさんは笑みを浮かべながら。
「デュラハンジョークです、ダンジョン内部に配下用の福利施設くらいあるのは普通です」
ジムは本当に有るらしかった。
どうしよう、ダンジョンのファンタジー感が薄れていく。
リアさんはルナの頭を撫でながら何かを考えている。
……。
そしてしばらくすると、カッと目を見開くと俺に向かって。
「決めたわ! ゼン、貴方は別に拠点を移さなくてもいいわよ、私のダンジョンの中層までの自由な冒険を許します、その代わりたまに私の所に遊びに来る事、勿論ルナちゃんを連れてね!」
リアさんはそんな事を言ってくる。
「冒険の許可はありがたいがどうやってここに来ればいいんだ?」
俺は疑問をリアさんにぶつける。
リアさんは空間からネックレスを取り出すと俺に投げて寄越す。
それをキャッチすると、何かの種がペンダントトップになっているネックレスだった。
見た目は手作り感が滲み出て安そうだが……。
「それを装備しておけばさっき飛んできた転移魔法陣が使いたい放題よ! あそこは人除けや幻惑効果も撒いているから早々バレないしね、普段は人も近寄らせないようになっているわ、今回は貴方を追い込むために人除けの効果を解除しておいたのよ」
そうリアさんが説明してくれる。
なるほどなぁ……あのコボルト達はまさに猟犬で獲物を追い込んでいたって訳か。
包囲に甘さがあって逃げ道があると思っていた俺は、まんまと追い込まれていたという事か……同じ轍は踏まないようにしないとな。
モグモグとクッキーを食べていたルナが、リアさんの膝から飛び降りて俺の横に来る。
「マスタあーん」
ルナは俺にクッキーをくれるようだ。
「あーんぱくっ、うん、ルナのくれたクッキーは美味しいな、ありがとう」
俺はお礼を言ってルナの頭を撫でる。
そんな俺をリアさんがじっと見てくる……何も言わずジッと見てくる……ああうん。
「あー、ルナさんや、リアさんやラハさんにもお裾分けしてあげたらどうかな?」
「なる、幸せは分割する物、苦しみは捨てる物」
ルナがそう返事をしてきた、元ネタが何か知らないが、何か色々間違って覚えている気がしてならない。
ルナがクッキーを持ってリアさんに近づいていくと、リアさんの表情がルナから見える方向はキリッっとしているが、俺の角度からだとニヤニヤと笑み崩れている。
だめだこいつ通報しないと……。
「リア姉あーん」
「あーんぱくっ、美味しいわルナちゃんありがとう……このクッキーは世界で一番の味だわね、おいくらかしら?」
ルナがくれるクッキーが世界一なのは認めるが、これを出したのはお前の配下だ。
ルナはパタパタとビーチサンダルを鳴らしながらラハさんの側に行く。
立っていたラハさんは片膝を地面に着き腰を下ろし、まるで騎士が王様に対応するかのような態勢で手をルナの前に差し出す。
まぁその手には生首が乗っている訳だが。
「ラハ姉もあーん」
「パクッありがとうルナさん、美味しいですよ」
ラハさんも空いている片手でルナの頭を撫でている。
ムフーと満足をしたのかルナはリアさんの膝の上に戻っていく……くっ……クッキーが残っている皿を俺の方に移しておけばよかったか、リアさんの俺を見るどや顔がむかつく、たまたまそっちにお皿があっただけですー。
っと忘れてた。
俺はリアさんに許可を得てインベントリから日本製の植物用の肥料や活力剤アンプル等を複数種類取り出し。
「ほい、これ許してくれたお礼ね、俺がいた異世界の植物用の肥料とか活力剤って言われているやつを何種類か選んでみた」
テーブルの真ん中にそれらを押し出す。
リアさんは物珍しそうにそれらを眺めながらラハさんを見る。
ラハさんはリアさんに頷きを返している、なんだろ?
俺は製品に書いてある使い方を教える。
リアさんはそれらを少し垂らしたり撒いたりした土に植物状な自分の足を付けると。
「ふぉぉぉぉ!! これは効くわね! さすが異世界のアイテムだわ!」
はぁ? 随分と大げさと言うか。
「はい? ただの異世界の植物活力剤とか肥料なんですが……」
リアさんはラハさんとまた視線を合わせてから俺を見る。
「あのねゼン、ダンジョンマスターが異世界出身の場合、その珍しいアイテムがこの世界に流れ込む訳だけど、時空を超えてくる時にアイテムが変異するのは勿論知っているわよね?」
「初耳です!」
俺が答えるとリアさんは溜息をついた。
「やっぱり……あのね? 異世界のアイテムはダンジョンメニューのオークションでかなりの値段がつくのよ? 知らないとは……あ……貴方のコアはまだレベル1の可能性が? そっかふふ、ごめんなさいコアのレベルが上がるとメニューを使った他のマスターとの交流やオークションやら売買とか出来るようになるの」
ええ……? まじかー。
「コアってどうやってレベルを上げれば?」
「そんなの普通に設置すれば魔素を吸収していつのまにか……あっ……えーと……ルナちゃんがいる間は貴方のスキルの扉を開けっ放しでもいいわよ?」
リアは同情を秘めた表情で俺にそう勧めてくる。
「……ありがとうございますリアさん……ルーム」
おれは背後に扉を出してそれを開けっ放しにする……メニューで分かる情報が少ないなと思ってたのはコアレベルが低いからか……神様が試行錯誤せよって言っているのかと思ってた。
リアさんがあんだけ笑ったのは、魔素のないコアにはほとんど意味がないって事を知っていたからなのだろう。
クッキーを食べているルナが顔をあげて俺の方を向き。
「マスタ元気だせ?」
そう励ましてくれた。
たぶんなぜ俺が落ち込んでいるかとか理由は良く理解していないのだろうけども……その言葉だけでも嬉しかった。
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