第4話 樹海のダンマス

 ザシュッ、スキルがないために刃筋が上手く立てられてない剣の一撃がコボルトに決まる。


 倒れていったコボルトは魔石を残して消えていった。


 ここは樹海ダンジョンの浅層だ……浅層のはずなんだが?

 コボルトがこんな浅層に出るなんて情報あったっけかなぁ、これが噂に聞くダンジョン変異という奴か。

 いやまぁダンジョンマスターがダンジョンを大幅にリニューアルする事を人々がそう言っているだけの事なのだが。


 これは一度帰還して情報を集めたほう――

「ワフォーン」「ワウゥワウ」「オンッ」

 周囲からコボルトの咆哮が聞こえる。


 囲まれた!?


 じりじりと距離を詰めてくるコボルトは十匹以上いた。

 これはまずいと……俺は周囲を見回し包囲の甘い方へと駆け出す。


 俺の基礎レベルはもうすぐ十になる。

 一端の冒険者はレベルが十からだと言われているので俺もそこへ手をかけていて、走る速度は俺の方がわずかに速いようだが、コボルトは執拗に追いすがってくる。


 この方向は浅層ではあるが街から離れていく方向だな……冒険者が少なくなる方面に行くのはまずいが……チラっと走りながら後ろを見るとコボルトの数が増えていた。


 普段は来ないような林の中、先の方に崩れた遺跡が見える。

 いや遺跡とは言い過ぎだな、石畳が有り崩れた壁が直角に二面残り、石の柱のような物が倒れているおかげで三方向が壁になっているだけの廃墟だ。


 だが今の俺には非常にありがたい場所だ。

 俺はそこに飛び込むと後ろを向き剣を構える。


 一匹ずつ相手に出来るここなら勝てる可能性はあるし……最悪〈ルーム〉に逃げ込めば?

 ……いや、逃げ込む時にコボルトに入り込まれて扉が閉められなくなる可能性があるな、そうなれば一番危険なのはルナだし、ならばここで奴らを!


 壁と倒れた石の柱に囲まれた場所でコボルト達を迎え撃つ……がしかし、奴らは遠巻きに囲うだけで一向に攻めてこない、なぜ?


 カッ。


 その時、俺の足元に魔法陣が出現した。

「しまっ――」

 ――

 ――

「――った!」

 転移魔法陣か?


 一瞬の酩酊の後に俺は大きな部屋……いや物語に出てくるような謁見室? に来ていた。

 前方には王が座るような椅子に女性が座り、その横には甲冑を着こんだ首無し騎士が生首を持って……あれはデュラハンか?


 ちらと後ろを見るも、遠く五十メートル以上は離れている入口らしきものは扉がしっかりと閉まり、その横にウッドゴレームが二体たたずんでいる。

 これは逃げられないかな……。


 俺は椅子に座っている女性に近づいていく。

 すると女性だと思っていた相手が人ではなく、恐らくドリアードと呼ばれる種族だと気づいた。


 緑色を基調とした服だと思っていた物は植物の葉や花で、緑色の髪だと思っていたものには小さな葉や花がついているしツルっぽい? 肌も薄い緑色が基本だね。


 俺が十メートルくらいの距離に近づくと、デュラハンが腰に佩いていた剣を右手で抜きこちらに向けた。

 そこで止まれという意味なのだろう、俺はそれに従って立ち止まる。

 するとデュラハンは剣を抜いたままではあるが切っ先を下に下ろした。

 いきなり襲われる事はなさそうだ。


 そしてドリアードの女性が俺に語りかけてくる。


「こんにちは見慣れないダンジョンマスターさん」

 俺がダンジョンマスターだと知っている?


 普通の鑑定スキルだと種族は人間と出るって神が言っていたはずなんだが。

 だが今はそんな事より挨拶だな。


「こんにちは、貴方は樹海ダンジョンのマスターという事でよろしいですか?」

 俺の返事を聞いたドリアード女性は首を少し傾げた。


「私の事を知らないで攻めてきたの?」

 女性のその質問と同時にデュラハンが剣を少し揺らした。


 ちょっと待って?


「えっとすみません、俺は新人ダンジョンマスターでして……どうして攻めた事になるんですか?」

 だって俺は浅層でちょろっと魔物を倒していただけで、奥に行く気はなかったんだぜ?


「何を言っているのよ、貴方が私のダンジョンで魔物を倒せばそれだけ私の損失になる、つまりダンジョンバトルを仕掛けてきたのでしょう? それとも適当な事を言って煙に巻こうとしているのかしら?」

 ドリアード女性はそう怒気を籠めて言い、それと同時にデュラハンが一歩前に出て来る。


 まずいまずいまずい、今ここで戦っても負けるだろうし逃げる事は不可能……俺が死んだら〈ルーム〉の中にいるルナはどうなる?


 神が回収して代わりに育ててくれる?


 ……いや、そんな甘い考えは通らないだろう。

 ルナとは一蓮托生と考えた方がしっくりくる。

 なればルナのためにも俺の取れる手段は一つ!


 俺は両手をばっと上に掲げる、その動きにデュラハンがまたもや剣を向けてくるが、そのまま膝をついて両手も地面に叩きつけるように。

「申し訳ございませんでしたー--!!!! ダンジョンマスターが魔物を倒す事がそんな意味になるとは一切知らなかったんです! どうかお許しをー-!!!」

 日本式謝罪の奥義DOGEZAを披露した。


 頑張れ俺、出席日数が足りなくなりそうになって大学の教授に補講をお願いしたあの時の事を思い出せ!


「ちょ! なんなのよ!? 新人ダンジョンマスターが粋がって攻めて来たんじゃないの? それとも私を騙している? ええ……? ……ねぇラハ、どーしたらいいかな?」

 土下座しているので声しか聞こえないが、ドリアード女性がお付きのデュラハンに聞いているのだと思う。


 てか名前がラハって……デュラハンだから?


「マスターリア、取り敢えず首を斬ってみれば良いのでは? 死ねば悪い奴、生き残れば良い奴だったって事にしましょう」


 ラハと呼ばれたデュラハンはひどい事を言っている。

 てか女の子の声質だな……ちゃんと生首を見なかったけど女性なのだろうか? っていやそれよりもだ。


 俺は土下座姿勢のまま顔だけを上げて。


「まって! 首を斬られたら普通に死んじゃうから! 髪や体に咲いているお花が最高に奇麗なドリアードのダンジョンマスターさん! 話を! どうか話を聞いてくださいまし!」

 俺は再度頭をさげてお願いをする。


 するとドリアード女性が。

「あ、あら? この花の美しさが分かるなんて中々の人間型ダンジョンマスターね……仕方ないわねぇ……じゃぁちょっと話を聞いてあげるけど、妙な動きをしたらラハに斬らせるからね?」

「マスターリア……チョロ過……いえ、では人間型ダンジョンマスターよ、下手な動きをしたらその首を切り落としてデュラハンに転生させて私の夫にするからな?」

 どうやら一時的に許されたようだ……デュラハンさんのセリフの後半部分がちょっとおかしかったが気にしない。


 俺はドリアード女性とデュラハン女性に自己紹介をした。

 そして話は別な場所でするらしく移動する。


 しばらく通路を歩き、とある部屋の中に入ると、そこは天井がなく青い空からお日様の光が射す庭園だった。

 あーダンジョンって空間を歪ませたり拡張したりDPがあればやりたい放題みたいだしなぁ……建物の中に空の見える庭園があっても不思議じゃないね。


 その庭園の真ん中に有るふかふかの土エリアで、少し足先を土に埋めて立ったリアさんは、そこがお気に入りの場所なのだろうか。

 リアさんの前にテーブルと椅子を用意されて俺は椅子に腰かける。

 足元は畑のようなふかふかの土だった。


 ラハさんは立ったままで剣は鞘に仕舞っているが、俺が何か変な動きをすれば即座に抜刀して首を落とされてラハさんの夫にされるのだろう……なんか文面がおかしくね?

 ……。

 ……。


 俺はリアさんに一生懸命説明する。

 スキルや魔法のある世界だしウソを見破る事が出来るかもしれないので、一切嘘をつかず、すべてまるっと説明した。

 ……。

 ……。


 すると。


「あっはははははは、馬鹿だわ、馬鹿がここにいる! ふふふふ、だめ、お腹が苦しい、クスクスっアハハハ」

 俺の話を聞いたリアさんが笑い転げて体を揺らしている。

「ぶっ……くくっ、マスターリア、余り笑ってブハッ、ククっ、失礼クククッ」

 主人を窘めようとしつつも自分も笑いを堪えているラハさん。

 我慢しすぎて体が震えて、一度自分の首を地面に落としている。

 それでも笑い声は地面の上の生首から漏れていたけど……。


 笑うがいいさ、俺が下手こいた事は間違いないしな。


 笑い過ぎて息がおかしいリアさんが。

「はぁはぁ……ここ数十年で一番笑ったかもしれないわね……ゼン! 貴方最高の道化ね」

 嫌な褒め方をされた。


 漫才で突っ込まれて頭をはたかれるごとに首が吹っ飛ぶデュラハン漫才とか披露してやろうか?


 俺は先程リアさんに聞いた事を踏まえて謝る事にした。

「しかしダンジョンマスターやその直属の配下は魔素を吸収し易く放出し辛いなんてメニューの説明になかったですけどね……そのせいでダンジョンの魔物を倒すとダンジョン側がマイナス収支になるんじゃ、そりゃ攻めて来たって言われてもおかしくないですよね、申し訳なかったです」


「まぁ普通は自分の配下の魔物を送り込んで来るんだけどねぇ……新人マスターにはたまーにアホが紛れ込むから今回もそれだと思ったんだけど、ゼンはアホ以上に馬鹿だったわね! いいわ、今回の事は許してあげる」

 どうやらリアさんは許してくれるようだ。


「ありがとうございますリアさん」


 リアさんは指先を俺に向けつつ。

「いーい? 私だから許されたんだからね? 他のダンジョンマスターの中には自分以外のダンジョンマスターはいらないなんて考えてる奴もいるんだから! 感謝しなさいよね」

 どうも積極的に他のダンジョンマスターを刈り取る奴もいるらしい……会いたくねぇなぁそんなのとは。


 優しいリアさんにはお礼をしないとな。


「ありがとうございます、俺は拠点を移す事にしますよ……野良の魔物から魔石を取るしかないか……そうだ、許してくれたお礼をしたいんですが、俺のスキルを使う許可をいただけますか?」

「ん? いいわよ〈ルーム〉だっけ? ついでに貴方のナビゲーターも見せなさいよ」

 リアさんが軽い口調で言ってくる。


 王様が座るような椅子に座っていた時が一番威厳があったなぁ……。

 俺は椅子から立ち上がり少し離れてからスキルを発動させた。


「ルーム」

 スキルを発動させ〈ルーム〉の扉を開けっぱなしで中に入る。

 ブーツの着脱が面倒なんだよな……いいやもう、鎧も脱いで靴もサンダルにしちゃおう。

 奥のコア部屋ではルナがお絵描きをしていた。

 そういや絵本を買ってあげたんだっけか。


 ルナは俺に気づくとトテトテと近づいてくる

「マスタ? 早い?」


「ただいまルナ、ちょっとお外にいこうか、俺と同じダンジョンマスターのリアさんに挨拶してほしいんだけど出来るか?」


 ルナは片腕を曲げて一切盛り上がっていない力こぶを見せながら応える。

「ルナはマスタのなびげーたー、まかせろ?」

 ……何のアニメに影響されたのやら。


 俺はコアの側に行き、コアメニューからDPでアイテムをいくつか購入して〈インベントリ〉に仕舞い込み、ルナと手を繋いで外に……おっとルナ用のサンダルを買わねば、えーと可愛い絵柄の入ったビーチサンダルでいいかな?


 俺が玄関に置いたビーチサンダルに興奮したルナは、そっと足を通して履いている。

 そういや靴は初めて履くんだっけか……最低限の知識はインストールされているから、ルナは人間でいう所の幼稚園から小学低学年くらいの偏った知識があるような状態なんだよな。



 そうして初めてルナは俺の〈ルーム〉から外に出る。

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