第3話
「ウギャッ」
断末魔の叫びをあげて倒れるゴブリン、しばらくした後には魔石だけが残っている。
ここは樹海ダンジョンの浅層だ。
樹海と言われているが入口付近は木々の密度も低く、林といえるような場所で、ソロの新人冒険者である俺はそんな場所で狩りや採取している。
人側の視点ではダンジョンを見分けるには魔物が消えるかどうかで分かるとされ、倒した魔物が消えていけばダンジョンで、消えずに死体が残り続けるならダンジョンではないとされている。
倒された冒険者もダンジョンの中なら時間がたつと消えていき、ダンジョンマスター側からすると倒された魔物も冒険者もすべてDPにする事が出来るリソースなんだよな。
大抵の物がDPに変換できるし、逆にDPがあれば大抵の物を作り出す事も出来る。
では魔物を倒されるのはダンジョンマスターにとってどういう事なのかというと、それほど困る事ではなかったりする。
魔物を生み出すDPより、それを倒すために冒険者から吐き出された魔素の方が大概多いからだ。
生物は生きていれば魔素を吸収し、力を使う時にそれを吐き出す。
吐き出された魔素をダンジョンが吸収し……そこから先は良く知らん。
神も教えてくれなかったし。
さすがに最奥まで冒険者に来られてダンジョンコアを壊されると、復活するまで時間がかかるしダンジョンメニューも使えなくなるので、ダンジョンの奥には来てほしくない訳だが。
逆にある程度までは冒険者にとって美味しい環境を作り上げていくのが普通のダンジョン経営っぽい?
おかげで俺は樹海ダンジョン浅層で武器も持っていない弱いゴブリンやスライムなんかを倒し、定期的にポップする果物やら薬草やらを採集する事が出来る。
ありがたやありがたや。
今日はポーションの材料になるという薬草の他に果物なんかも取れた。
例えばリンゴでもダンジョン産の方がダンジョン以外の場所で取れたリンゴより何故かちょっと美味しいらしい。
今回はバナナがいっぱい生っている木? がPOPしているのを見つけた。
樹海なだけあって植物関係の食材が色々取れるのが嬉しい。
……バナナって果物だっけか? ……まいいか。
スキルや魔法のある世界なので、食材を新鮮なまま長距離運べてしまうらしく、この樹海ダンジョンにはその豊富な食材を求めて商人やらが沢山来ている。
おかげで買取額もそこそこするという事だ。
いっぱいのバナナをヒモで体の両面に吊るしバナナ人間になっている俺は、いつもの受付嬢の所へと行く。
「こんにちは~査定お願いします」
「いらっしゃいゼンさん、今日は良い獲物を見つけたみたいね、美味しそうだし後でギルド員割引を使って買っちゃおうかしらねぇ、うふふ」
美人受付嬢さんは俺の収穫を見て嬉しそうだ。
……。
「では魔石と採取された品物諸々でこれくらいです」
魔石や薬草、それに山盛りのバナナで……飯が三十回は食える額の報酬を提示された。
バナナ美味しいな! いや味ではなく報酬という意味で。
俺は特に文句を言う事もなく受取書にサインをし、小さなトレイに乗せられたいつもの十倍は有りそうな硬貨をつかみ取る。
美人受付嬢さんは書類のサインを確認しながらも。
「ねぇゼンさんパーティメンバー候補は見つかったかしら? あのね、最近ゼンさんの稼ぎは安定しているでしょう? なので他の新人の子にも紹介しやすいのだけどどうかしら? ちゃんと性格の良い子達にするから人見知りでも大丈夫だと思うのだけれど、一度会ってみませんか?」
「あーえーと、ソロでも安定して行けちゃうのでこのままでもいいかなーって、すみません失礼します」
俺はとっとと逃げ出す事にした。
「あ、ちょっとゼンさん! もうっ!」
美人受付嬢の呼びかけを背後に受けながらギルドからそそくさと逃げ出していく。
パーティなんて組んだら換金していない魔石に気づかれちゃうじゃんか。
あの受付嬢さんも良い人なんだろうけどねぇ……でも面倒だからといって他の受付嬢さんはな……もっと面倒だしな。
新人や稼ぎの悪い冒険者への対応が悪い人もいるんだよ……。
さて今日は何を買っていこうかね……そうだ確かルナが……うーんよし! あれに決めた!
「あらいらっしゃい」
俺が行った屋台は、ダンジョンに出るビックコッコの肉を使った揚げ焼きのお店だ。
「持ち帰りで十五個お願い、おねーさん」
俺は屋台をやっている女性店主のおばちゃんに注文する。
「あらやだ、おねーさんだなんて素直な良い子ねぇ、一個おまけしちゃうわね、今用意するからね~」
フンフンと鼻歌を奏でながらおばちゃ……おねーさんは上機嫌だ。
払ったお代は今日の稼ぎの十分の一だ。
揚げ焼き肉は地味に高めなのにこれだけ余裕があるという事は、バナナ美味しいな! いや味の事ではなく買取値段という意味でね。
バナナとか採集出来る物は同じ場所にポップする訳ではないので、出会えるかは運次第だけどね。
俺はひとけのない場所に移動して誰かにつけられてないか、周囲に人がいないか等を確認すると。
「ルーム」
スキルを発動させて扉を出しササっと入ってすぐ扉を閉める。
このルームに出入りする瞬間が一番緊張するかもしれん。
部屋の奥からトテトテとルナが出てきた。
「おかえりマスタ」
そうして手を出すルナ。
「ただいまルナ、運んでくれるのか? ありがとう」
俺は苦笑いしながら大きな葉っぱで包まれた揚げ焼き肉を渡す。
ルナはそれを受け取ると奥の部屋にトテトテと帰って行った。
俺もささっとシャワーを浴びるべく装備を外していく。
……。
……。
シャワーで濡れた髪の毛をタオルで拭きながら部屋に戻ると、ルナがテーブルの前で待機している。
「マスタご飯」
「おっけーちょっと待ってなぁ」
俺もテーブルの側に座りダンジョンのコアメニューからDPを消費し、食パンとマヨネーズとレタスとトマトを買う。
〈インベントリ〉から包丁や皿やまな板なども取り出す。
ルナが興味深げに包丁に手を伸ばしてくるが俺はそれを止めた。
ルナは不満そうにしているが、まずレタスやトマトを包丁で切ってみせて、いかにこの包丁という存在が危ない物かをしっかりと教えていく。
丁寧に優しく何度も説明をしたらルナは分かってくれた。
やっぱるうちのルナは良い子だね、デザートにシュークリームを出してあげる事が確定しました!
まぁ揚げ焼き肉をパンに挟みやすい様にスライスして、食パンの上に切ったレタスを乗せ、そこに揚げ焼き肉を敷き詰めていきマヨで味付けをする。
ルナにはまだマスタードとかは早いだろうし今回はマヨだけだ。
揚げ焼き肉の上にスライストマトを乗せて、最後に食パンで蓋をして上から軽く圧力をかける。
そして真ん中で切ってやれば、ビックコッコ肉を使った揚げ焼きサンドイッチの出来上がりだ。
だがしかしこれで終わりではない。
DPで購入した籐カゴのお弁当箱に絵の描いてあるワックスペーパーを敷き、そこに断面が上に来るようにサンドイッチを詰め。
そして最後に蓋をしてルナに渡してやる。
「開けてごらん」
「マスタ!」
ルナはそれが何なのかが分かったのかすごく興奮している。
そして蓋を開けたルナ。
「おべんとう! マスタ!」
万歳して喜ぶルナ。
実はルナと俺で一緒にアニメを見たのだが、その時に主人公達が遠足で食べていたお弁当をすごく物欲しそうに見ていたので、ご飯を入れるタイプは難しいがサンドイッチならいけるだろうと色々準備しておいたのだ。
……ワックスペーパーとか籐カゴのお弁当箱って結構高いのかもね?
必要DPが意外に高くてびっくりした。
俺は自分のサンドイッチも素早く適当に作り。
「ではいただきますだルナ」
ルナは一度開けたお弁当に再度蓋してから。
「いただきマスタ」
またフタを開けて嬉しそうにサンドイッチを取り出していく。
モグモグと嬉しそうに食べるルナ……ちょっとルナには大きいかもしれないのでもう半分にするべきだったな。
それにパンの耳も取ってやるべきだった……マーガリンをパンに塗るのも忘れている、くぅ……失敗した。
「マスタおいしい、交換!」
ルナがサンドイッチを一つ渡してきた。
アニメで主人公達がお弁当のおかずを交換していたんだっけか……。
俺とルナのサンドイッチは同じ材料を使っているのだが……キラキラとした目で見てくるルナに負け、適当に作った俺のサンドイッチと交換する事に……。
こんな事になるならちゃんと作ればよかった……。
ルナは嬉しそうに交換したサンドイッチを食べている。
まぁ嬉しそうだしいいか、次は別々のお弁当内容で作るからな! 待っていろよルナ。
サンドイッチを食べ終わったルナは、お弁当箱を宝箱のようにつついたり裏を覗き込んだりしている。
このお弁当箱はルナ専用としてきっちり管理しないとな。
俺はメニューからDPで購入したシュークリームをお皿に置き、ルナの前に出してあげる。
「デザートだよルナ、これはアニメでも出てきただろう? シュークリームっていうんだ」
「これが! 幸せの味?」
アニメの中でキャラが言ってたセリフだな。
「そうだよ食べてみな、中にあるクリームが飛び出してくるから気をつけてな」
「りょ! ルナ突貫しま!」
バクッと食いつき盛大に飛び出てくるクリームにあたふたとしながらも美味しそうに食べるルナ、幸せの味だった事はその表情を見ていれば分かる。
次はドーナッツかなぁとか考えつつ、ルナの鼻にまで飛び散ったクリームをウェットティッシュで拭いてあげる俺であった。
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