第262話 悪人は、二人きりになったところで

「それで、お義父さまとお義母様の様子は如何でしたか?」


他の連中がそれぞれの家に帰った後、二人きりになったところでエリザはヒースに訊ねた。何しろ、とても可愛がっているトーマスが反乱軍の中にいるのだ。企てに参加しているのかを含めて、きっと気が気でないだろうと。


すると、嫌な記憶が呼び起されたのだろうか。ヒースの表情は苦虫を嚙み潰したように歪んだ。


「その顔は……八つ当たりされたという顔ですね?」


「そうだよ!ホント、あの糞ババアは酷いんだ。ワシ、なんもやっていないのに、全部おまえが悪いって、思いっきりケツを蹴飛ばしてきやがったんだぞ!信じられるか?ワシはこの国の摂政殿下なるぞ!?」


しかも、明らかに理不尽なことをされているというのに、父親はあたふた遠巻きに眺めているだけで、助けてくれなかったとヒースは、恨み節を全開にして事の次第をエリザに話した。加えて言うなら、例えトーマスが謀反に加担していても、指一本触れるなと命じられたとも。


「それは……」


「おかしいだろ!?謀反に加わっていたら、どんな事情があっても重罪だ。それなのに、あの二人はワシに事実を捻じ曲げろと脅すんだぞ。もはや、ボケたとしか考えられんわ!」


だから、この一件が片付いたら、二人が入所する老人ホームを探さなければいけないと強い口調でヒースは言った。もっとも、高位の貴族である二人は、平民が利用するそのような施設には入れないが。


「まあ……そんなに怒らずともよろしいではありませんか。きっと、お二人ともご不安なんですよ。それで、領都リートの解放は明日にでも?」


「ああ、そのつもりだ。この後、明け方に直接領主館に乗り込んで、愚か者どもに鉄槌を下すつもりだ」


たった一人で、三千人が立て籠もる場所の中心地に乗り込むのは一見危険に見えるが、これまで何度もヒースの実力を目の当たりにしてきたエリザは、何も不安を感じていない。この数が例え倍になっても問題はないとさえ思える。


しかし、それとは別に不満はあった。


「そんなに早く行かれたら、今宵は精々5回か6回しかできぬではありませんか。別に昼間に乗り込んだところで圧倒的なのですから、昼前までこちらでゆっくりなされては?そろそろ二人目が欲しいですし……」


「……早く二人目が欲しい気持ちはわかるが、今は流石にまずい。バレたら、鬼糞ババアに殺されてしまうわ」


「不謹慎にもほどがある」と激怒する般若面の母ベアトリスの姿を思い浮かべて、ヒースは「今宵は3回戦までで辛抱してくれ」とエリザに告げた。さもなくば、運よく殺されずに済んだとしても、アレを切り落とされてしまうと。


「そんなことになれば、二人目もクソもなかろう?」


「うふふふ、仕方ないですわね。では、それで手を打つとしましょう」


ヒースの言う情景が思い浮かんだのだろう。エリザはその提案を受け入れて……そのまま押し倒した。ここはソファーであるが、時間は有限だ。体裁は気にしない。


「おいおい、今日のエリザは積極的だな」


「たまにはいいでしょ?リリスさんとの時は、こうしていると聞きましたから」


「なんだ?情報交換でもしているのか?」


「ええ、そう。だって、みんな同士ですから」


いつもより明らかに高揚している口調で話すエリザは、そのままヒースの上に跨り、シャツに手を伸ばしてボタンを外し始めた。まずは鍛えられた分厚い胸板を堪能するところから始めるようだ。しかし……


「ああ、疲れた。ご主人様、わたし夜のおやつがそろそろほしい……な?」


ドアをノックすることなくいきなり部屋に乱入してきたアカネを見て、その指は止まった。


「あ、アカネさん!?」


「あ、あわわ!ご、ごめんなさい!なんかお邪魔したようで……」


邪魔したと思うのなら、さっさと出て行けよとヒースは思うが、初心なアカネは顔を真っ赤にしたまま動けずにいた。そして、エリザの方もどうしていいのか判断に困っているようで、その体勢のまま固まっていた。


(おいおい、二人とも。どうすればいいんだよ……)


まだズボンは脱がされていないが、跨られて接しているエリザのフトモモに刺激されて、ヒースの息子は準備万端だ。静かになった部屋で、時計の針の音だけがコチコチと鳴り響いた。


だから、間が持たずヒースは口走ってしまった。「何なら、おまえも混じるか?」と。


何しろ、今のアカネは【変化魔法】が上達して、無駄な手足やお尻にあったお腹を隠していた。それゆえに、見た目は完全に美少女そのものだ。以前のように、ヒースの方からは拒む理由はない。


だが、その次の瞬間、答え代わりに壺が飛んできて、ヒースの顔面を直撃した。

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