第250話 悪人は、朝チュンを目撃されて

「それにしても、昨夜は派手に盛っているカップルがいるなぁと思っていたのですが……まさか、それが公とは思いませんでしたよ」


朝、床の上に素っ裸になった状態で眠っているところをコルネリアスに踏み込まれて、ヒースとクラウディアはこうして気まずい思いをしながら、共に朝食を囲っていた。辞退しようとしたが許してくれなくて、いわば罰ゲームのように。


「実に申し訳なかった。そういえば、あの部屋の上は貴殿の部屋であったな……」


「左様ですよ、まったく。おかげで悶々として眠れませんでしたよ」


だが、こうして文句を言う割には、コルネリアスは怒っていない。踏み込んだ時にクラウディアの裸体をしっかりと拝んだことで目の保養となったと満足していることもあるが、それよりも彼にとってヒースは、今後も協力し合いたい重要な相手なのだ。


だから、「お詫びとして、クラウディア嬢のおっぱいを揉ませてほしい」という願望を口にすることなく、この話はこの辺でお終いにして本題に入っていく。それは……昨夜の宴が半ば強制的に終了することになったあの『婚約破棄騒動』についてだ。


「あれは一体何だったのですか?独身であるハインリッヒ王の隣に女性が座っていたので、彼女が婚約者のティルピッツ侯爵令嬢と思っておりましたが……」


それなのに、あの場に突如現れて取り押さえられた女性に、ハインリッヒは「オリヴィア」と呼びかけたことをコルネリアスは不思議そうにヒースに確認した。何がどうなっているのか、説明して欲しいと添えて。


ゆえに、ヒースは求めに応じて事情を説明した。ハインリッヒの子を殺すことについても彼は知っているため、それらのことも含めて。


「なるほど。つまり、すれ違いが生じた結果、あのような悲劇が起こったということだね」


「すれ違い?」


「公の話だと、オリヴィア嬢がアルマ嬢をスパイと決めつけていたというが……逆にハインリッヒ王とアルマ嬢の立場からすれば、どう思うかね?」


「そうか……ハインリッヒの方からすれば、自分たちが手を下していない以上、他に秘密を知るオリヴィア嬢こそが裏切り者だと感じているということだな?」


「ご名答♪」


「そんな!」


そのとき、それまで黙って聞いていたクラウディアが声を上げた。それでは、オリヴィアに厳しい罰が下るのではないかと心配して。何しろ相手は、最近少しは真面になってきていると言ってもハインリッヒなのだ。極刑だってあり得ない話ではない。


「ディア……非礼であるぞ」


「わかっています。こんなことをわたしが口を挟むのは許されないということは。ですが……どうかお願いです。彼女の身が立つように陛下よりお口添えをお願いできないでしょうか」


「ほう……。どうやら、中々面白いお嬢さんのようだな、公よ」


「すまぬ。どうか、気にせず忘れてくれ」


ヒースはため息を吐きつつ、頭を下げて詫びた。そして、これ以上何もいうなとクラウディアに目配せもした。しかし……コルネリアスは興味を覚えたのか、話を続けた。


「いや、実に気に入ったよ。そうだな、お嬢さん。口添えしても良いが……条件が一つある」


「条件?それは……?」


「なに、それほど難しい話ではない。そのオリヴィア嬢のこと、君の口から俺によく説明してくれないか?」


いい所も悪い所も、共に過ごした思い出話でも何でも話してほしいと、コルネリアスは言った。それを聞いてから、口添えするかどうかを考えると。


(なるほど……そういうつもりなのか)


そして、そんなコルネリアスの態度から、彼の意図することにヒースは気づいた。だから、どうしようかと戸惑っているクラウディアの背中を押して、言われた通りに説明するように促した。きっと上手くいくからと。


「ええ……と、それでは説明しますね。あの子は……」


こうして、クラウディアは『オリヴィア』のことを一生懸命説明し始めた。本当に良いことも悪いことも全部隠さずに、今まで積み重ねてきた思いを込めて丁寧に。


だから、コルネリアスにも伝わる。オリヴィアという女の子がどれだけ心根が素晴らしく、これまで全力で頑張ってきたのかを。


(そのような娘であるならば、文句の付け所などないな……)


自然と頬が緩み、話に聞き入りながら、コルネリアスは心に決めた。それは、オリヴィアを自身の妻に迎えるということ。このまま、婚約破棄が正式に成立すれば、すぐに結婚を申し込もうと決意を固めるのだった。

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